復刻インタビュー・映画監督【石井輝男】Fuck!Freak!Fantasy!が詰まったキャリアを語る

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館理人
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石井輝男監督のインタビュー記事を蔵出しです。

館理人
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高倉健主演『網走番外地』シリーズでヒットメーカーを担った一方で、超個性的な映画も多数。クセになる監督です!

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インタビューは浅野忠信主演『ねじ式』公開時のものですが、『ねじ式』のほか、それまでの長いキャリアについてのお話もされています。

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石井輝男・プロフィール

石井輝男 いしいてるお
1924年1月1日 – 2005年8月12日 東京生まれ。
1957年、新東宝映画『リングの王者 栄光の世界』で監督デビュー。以後、『スーパー・ジャイアンツ』シリーズや『黒線地帯』『黄線地帯』のラインシリーズなどで頭角を現わす。1961年からは東映に移り、ギャングシリーズを皮切りに10本にも及んだ『網走番外地』シリーズなど、高倉健主演作を中心にアクション映画の新たな地平を開いた。
また1968年からは『徳川女刑罰史』『徳川いれずみ師 責め地獄』といった異常性愛路線を牽引、1970年代に入っても『怪談昇り竜』『ポルノ時代劇 忘八武士道』『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』等々、奇抜な発想の娯楽作品を連発した。
1993年、『ゲンセンカン主人』でつげ義春、1995年、『無頼平野』でつげ忠男作品に挑戦。熱狂的なファンはあとは絶たない。

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では!インタビューをお楽しみください。

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インタビュー

(取材・文 轟夕起夫)

迷路体験

──さっそくお伺いしたいんですが、監督には、この『ねじ式』みたいな迷路体験がありますか?

石井 うーん、僕はね、夢の中で、あ、ここ来たことあるなァ……っていうのがよくありますね。いつ行ったかわかんないんだけど、目が覚めるとそこ、絶対行ったことあるゾって感じちゃうんですよ。

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映画『ねじ式』はつげ義春原作の短編漫画を下敷きに、売れない漫画家「ツベ」を主人公とした荒唐無稽なメメクラゲ的幻想ストーリー!

つげ義春

──つげ義春と石井輝男、といえば漫画と映画、ジャンルこそ違えど1960〜70年代にかけて前人未到の域にまで達した鬼才同士です。でもお二人が出会われたのは90年代に入ってからなんですよね。

石井 5年前(=1993年)、『ゲンセンカン主人』を撮らせていただいたときに初めてお会いしました。“難しい人だよ”って伝え聞いていたんですが、実際はフワっと柔らかく温かい、ウソのないシャイな方でしてね。大変な巨匠なのに、ツッカケ草履はいて自転車でやってきて、ちっとも気取ってなどいない。僕の漫画なんか映画化しても観る人いませんよ……っていつも心配してくれるんです。まったくつげさんの人柄の良さには感心するばかりです。

『網走番外地』シリーズ

──それは石井さんにも当てはまることですね。あの高倉健主演の『網走番外地』シリーズを筆頭に、メジャーでヒット作を連発していた人気監督が、何のてらいも気取りもなく、インディーズの立場で「つげ作品」をお撮りになっている。

石井 いやあ、精神的にはいまのほうが自由なんですよ。『網走番外地』シリーズは、会社の命令でどんどん撮れって言われて苦しかった。冬でなくても雪がなくとも続編を作れってね。これ北海道の網走が舞台だったのに、健さんたちがいきなり沖縄へ飛んじゃったりする(笑)。とにかく10本やってバテバテで降板しました。

──健さんの主演映画を一番多く作ったのは石井監督だそうですね(※のちに降旗康男監督に抜かれた)。スタイリッシュでイカしたギャング役から、ふんどし姿で大暴れの兵隊役まで、大スター・高倉健の育ての親としても有名です。

石井 新人の彼を一目見て、これはイケると思いましたからね。アクションの吹替えもせず、健さんはどんな役柄でも本当にノリにノッてよくやってくれました。

異常性愛路線

──で、1960年代の後半には伝説の“異常性愛路線”を手がけるようになるんですよね。

石井 ええ。明けても暮れても『網走番外地』シリーズを作ってましたから。それまでとはまったく違う世界、変わったことを実験してみたかったんです。例えばセックスをテーマに徹底的に描いたら、そこから何が生まれてくるのかとか。これは僕、案外好き放題やらせてもらいました。

──エロ・グロ・ナンセンス! 『残酷・異常虐待物語 元禄女系図』では懐妊した女性の腹を裂き、胎児を取り出したりしていましたよね。しかし裏を返せばメジャー時代はプログラム・ピクチャーの監督として、いろいろと窮屈な思いもしていたと?

石井 そうなんですよ。やりたくない企画を映画にしながら、ハマりきれずに外れてしまう。まともな空手映画撮ろうとしてドタバタのギャグ映画になったりね。

──それって千葉ちゃん主演の『直撃! 地獄拳』『直撃地獄拳 大逆転』のことですよね。いまでも若者の間でカルト的な人気を誇る2本じゃないですか。

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『直撃地獄拳 大逆転 』は千葉チャンこと千葉真一の空手アクションを隠し味に、石井監督流のオトボケと快テンポ、さらにモダニズムの合わさった闇鍋ハチャメチャ功夫コメディ。香港映画への影響も大です。

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こちらは『直撃地獄拳』!(U-NEXTで2020年11月30日まで見放題タイトルです)

石井 あれね、そんなに観ていただけるとは思わなかったんですけどねえ。作ったら二度と依頼こないだろうというカンジでやっちゃいましたから。もう思いっきりデタラメやっちゃえーって(笑)。

──ああ、会社を怒らせればもうやらなくても済むだろうという作戦ですか!?

石井 まともに作るとね、空手映画ブームの間はずっーとやらされちゃいますからね。それがただただイヤだったんです。

監督になった経緯

──すごい確信犯ですねぇ(笑)、そこまで開き直ってしまって。そもそも、どうして監督になろうと思われたんですか?

石井 子供の頃から浅草のレビュー小屋とか活動写真が好きだったんです。で、映画会社に入って、カメラマンの助手についたんだけど、結局、一番偉いのは監督で、カメラマンの頂点に立っても自分のやりたいことなど出来そうにないとわかったので、それで演出部に回ったんです。

──じゃあ、その「ご自分のやりたいこと」というのはインディーズになられた現在のほうが出来ていると?

石井 そうですね。

『ねじ式』

──それにしても今回、よく『ねじ式』を映画化しようと思われましたね。

石井 皆さんね、怖がってやらないだけなんですよ。やっぱり何事も、一番最初に手をつけるのは難しいですから。でも僕が先陣を切って、「何だあの程度なら俺のほうがうまく出来るよ」なんてどんどんあとに続いてくれればいいなあと、そう考えているんですけれどね。

アンダーグラウンド

──冒頭からいきなり暗黒舞踏で始まる展開。誰もあとには続けないスゴイ描写ですよ(笑)。あれはまさしく『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』にも登場した、故・土方巽さんのアンダーグラウンドな世界を彷彿とさせます。土方さんは暗黒舞踏の創始者でしたよね。オマージュを捧げる気持ちがあったんですか?

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『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)は看板に偽りなし。乱歩全集にして石井ワールド全集。明智小五郎を狂言回しにして世にもバッド・テイストなパノラマ島奇譚が観る者を虜に!

石井 やりたかっただけです(笑)。特に第1話はつげさんの「別離」という至極おとなしいエピソードから始まるもので、ちょっと冒頭にはガツンとね、パンチを効かせておきたかったんですよ。

──なるほど。当初第1話は「隣の女」が予定されていたと聞いていますが。

石井 そうなんです。脚本が完成して印刷に回そうという矢先に、それがやはりどうしても映画化が無理になって一晩で書き直すハメになったんです。記録係の女性がその晩は応援してくれましたよ。僕が書いていると、目の前で笛を吹き始めたんですね。横笛でありったけのレパートリーを吹いてくれたんだけども、それがことごとく下手糞(笑)。しかもひゅ〜と吹くとニンニクを食ってきたらしくて息が臭いんですよ。それ止めてもらったほうが書けるとは思ったんだけど、彼女、一所懸命励ましてくれてるんだなあってジ〜ンとしてきちゃっいましてねえ。

──ジ〜ンとですか……しかしまた何でその場面で横笛なんでしょうか (笑)。

石井 ねえ(笑)。

浅野忠信

──何か不思議なグルーヴ感を醸し出す、石井監督の作風にそっくりのエピソードですよねえ。話をもとに戻しまして、今回初めて組まれた浅野くんの印象は?

石井 ああ非常にいいです。彼ね、まったく理屈を言わない俳優なんですよ。高倉健と同じなんですよ。打合せなんか一言もやらなくても最初のカットを観たときに、悩んでいるなあって。とっても良かったです。本当はスケジュールがダメだったんだけど10日間だけくれってお願いして出てもらいました。ちょっと今後も彼にはこだわってみたいですねえ。

──浅野くんの奥さん(注:1998年のインタビューとなります)はご存じですか?

石井 あ、Charaね、好きですよ。実は彼女にも出演してもらいたかったんですけれどね。無理でした(笑)。

スタッフ

──何か石井監督、どんどん若返ってるカンジがしますねえ。今回はスタッフもほとんど20代の方ばかりでしたし。

石井 最近の若い人たちは、「わかる、わからない」じゃなくて感覚で受け止めているのがいいですね。特に女のコの鋭い感性。『エヴァンゲリオン』とかもそうだって言うじゃないですか。いまや起承転結の作劇法じゃアクビされちゃうだけでしょ。

──若いスタッフとは撮影後も親交が続いていて、ご自宅にも遊びに来るそうですね。石井輝男塾ってカンジですか (笑)。

石井 いや逆なんです。僕のほうがいろいろ刺激を受けているんです。スタッフの中に自主製作をやっている女のコがいたんですが、キミが監督としてまとめてみなさいって、僕が撮影したビデオを渡したんです。土方巽さんを鎮魂するイベントでの映像なんですけど、そうしたら先日彼女から 撮り足したいものがある、と呼ばれた。僕はカメラマンですから監督の命令には従うしかない(笑)。どんなものが出来あがるのか楽しみですよ。

──へえ〜、石井監督をカメラマンに起用とは、度胸ありますね、そのコ。

石井 あとね、美術担当だった女のコが役者としていいんじゃないかとね……彼女を使って1本撮ろうかとも思ってるんです。

温めている企画

──それはどんな作品をやろうと?

石井 結城昌治さんの小説に『孤独なカラス』というのがあるんですよ。人から「カラス」と呼ばれる鳴き声の得意な少年が主人公なんですね。かなり変わった少年でヘビを可愛がっていて、それが女性に対するコンプレックスの表れなんですよ。

──ほお〜。

石井 で、売春婦に誘われるんですが、そのお腹の中にはきっとヘビだとかウジウジしたものが入っているに違いない、って少年は切り裂いちゃうんですね。ところが見たら何も入っていず、カァーカァーと鳴きながら何処へと去っていく。彼女にはその売春婦役をやらせたい。これは昔、テレビのサスペンス劇場用の企画として出したら勘弁してくれって言われたもの。以来温め続けているんですよ。

──それ観たいですねえ。ところで今回の『ねじ式』につけられた「Fuck!Freak!Fantasy!」=スリー・Fのキャッチコピーがズバリですねえ。

石井 出演もしてくれた漫画家の杉作J太郎さんが作ったんですよ。浅野忠信主演に加えて、あんまり気取ると敷居の高い映画に思われちゃう。僕も、芸術映画を作ったわけじゃないからそれでいいって。

ジョン・ウー、クエンティン・タランティーノ

──あのジョン・ウーやクエンティン・タランティーノも石井監督の大ファンでしたよね。

石井 タランティーノとはね、雑誌の企画で話したことあるんですよ。『レザボア・ドッグス』で来日したときで、とってもいい青年でしたよ。あの人は優等生ですから。もうちょっとメチャクチャやってもいいかも知れませんけれどね。

──うーん、タランティーノは「スリー・F」が足りないんですかねえ?

石井 それはどうですかねえ、ワハハハハ。

轟

Smart1998年6月29日号掲載記事を改訂!

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こんなのもあります!感性爆発の石井輝男映画

『徳川いれずみ師 責め地獄』

(1969年) 善と悪の刺青師が女の肌上にて競いあうウルトラ・エログロ傑作。つげ義春に通ずる迷路感覚が全編に爆発。ラストの股裂きの刑まで驚愕トリップ必至!

『いれずみ突撃隊』

(1964年) 日露戦争の最前線に送られた健さん(高倉健)こと一匹狼のヤクザ。何とその健さんが、ふんどし一丁で敵陣に殴り込むという男一匹ガキ大将的な小気味のいいアクション映画。鼻血が出る面白さです。出演はほかに津川雅彦。

『スーパージャイアンツ 〈鋼鉄の巨人/続・鋼鉄の巨人〉』

(1957年) 『スーパーマン』にヒントを得て生まれた日本初の特撮スーパー・ヒーローもの。全身タイツ姿の宇津井 “モッコリ”健が大活躍。石井監督のキャリア上の第2、3作。

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動画配信サービスで、けっこう石井輝男映画、鑑賞可能です!

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