蔵出しロングインタビュー/スタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサー、『次郎長三国志』シリーズを激アツで語る!

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館理人
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『次郎長三国志』の魅力をスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに語っていただいたインタビュー記事を蔵出しです!

館理人
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清水次郎長の映画は数々ありますが、中でも最高傑作と呼ばれるのが、マキノ雅弘監督版のシリーズ(全9作)です。1950年代の映画なので…古!…と思うかもしれませんが、でも面白さは鈴木氏お墨付き。

動画配信サービスの利用でも鑑賞可能です(アマゾンプライムビデオほかで扱いがあります(2020年7月現在)。

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蔵出しインタビューは、『次郎長三国志』シリーズが2011年にDVDボックス化されたタイミングでのもの。このDVD化に鈴木氏が関わったからです。

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ジャケットはONE PIECEの尾田栄一郎描き下ろし! 題字は鈴木氏によるものです。これは、尾田氏が鈴木氏と偶然出会って意気投合、なぜか『次郎長三国志』の話題で盛り上がったことから実現したDVD化企画でした。

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ジブリの名プロデューサーの『次郎長三国志』語り!

テレビの映画放送

ーー鈴木さんが初めて、『次郎長三国志』シリーズと出会われたのは?

鈴木 中学生ぐらいだったかな。封切り時は僕、まだ4歳になったかどうかで。だから当然リアルタイムでは観ていないんです。出会いの最初はおそらくテレビで放映されたとき。当時、テレビで映画をやるのは午後帯で、映画館みたいに1週間、毎日同じ映画をかけていたんですよね。古い洋画ばかりだったんだけど、あるときから日本映画もやるようになって、そこで出会った記憶があります。

僕は時代劇は大好きで、次郎長モノもよく観ていて、東映の片岡千恵蔵の『任侠東海道』なんかと比べたら、『次郎長三国志』シリーズはものすごく違和感があったんですよね。ぜんぜんタッチが違っていて。

ーー『次郎長三国志』シリーズは基本、明朗快活なタッチですよね。

森の石松役・森繁久彌の名演技

鈴木 そうなんですよ。それで印象に強く残ってね。中学生の頃、僕は贔屓の役者、森繁久彌の『社長』シリーズもよく観に行っていて、で、『次郎長三国志』シリーズは、森の石松役が森繁さんで、それが僕の心を捉えたんです。しかも『社長』シリーズの森繁とは演技の質が明らかに違うわけです。

ーーなるほど。名演の多い人ですけど、石松役は特に神がかっていました。

清水次郎長との出会いは広沢虎造の浪花節

鈴木 あとね、僕の演芸との出会いの一番古い記憶は広沢虎造の浪花節でして。親父が大好きで。のべつまくなし耳に入って来て、子供の頃、よくマネしたものなんですが(笑)。“清水次郎長”や“森の石松”というのはそもそも広沢虎造が浪曲でやっていたネタで、虎造は『次郎長三国志』シリーズに出演もしているんです。そんなこともあって、気になる作品だったんですけど、ただね、最初はやっぱり“ヘンな次郎長モノ”として自分の中に残った。

それからずーっとあと、『次郎長三国志』シリーズのことを再度意識したのが、寅さんとの出会いなんですね。僕は渥美清という人の存在をテレビで知るんですけど、舞台中継の番組で、渥美さんが森繁さんのマネをよくやっていたんですよ。その後68年に『男はつらいよ』がテレビで始まって、僕は当時、テレビを持っていなくて、放送時間になると飯屋に行って『男はつらいよ』を観ていました。そうしているうちに「寅さんと森の石松は同じキャラクターだ」と思い至ったんです。

渥美清の寅さんと、森繁久彌の森の石松の相似性

寅さんは、テレビシリーズが終了して映画になりましたが、それからも森繁さんの演じた森の石松との相似性が気になった。どの回というわけはでなく、寅がとらやに入ろうとするとき、あるいは外に飛び出して行くときの身のこなし方が。だいだい、あのとらやの玄関のイメージの原像って、次郎長一家の軒先だと思うんですよね。

『男はつらいよ』シリーズの面白いところって、とらやの中での芝居のアンサンブルですから。人的配置がとても上手いんですが、あれも『次郎長三国志』から影響を受けていますよね。以前、山田洋次監督に会ったときに「『次郎長三国志』シリーズ、観てませんか?」って訊こうと思っていて、忘れちゃった。明らかに関係があると僕は踏んでいますけど。

ー一森の石松といえば、完全に主役の第八部「海道一の暴れん坊」は、シリース屈指の傑作ですね。

原作からの乖離

鈴木 ほとんどチャンバラシーンがないんですよね。村上元三の原作から離れて、完全にオリジナルになっている。

監督のマキノ雅弘さんは「石松開眼」というタイトルを付けたかったそうで。隻眼の石松は最後、片目が開いて死んでゆく。このときの森繁さんはやっぱり本当に素晴らしいです。若い頃は石松を中心に観ていたんですが、年齢とともに、僕の中でそれだけではない次郎長の魅力がわかってきたんですよね。

次郎長の成長物語

『次郎長三国志』シリーズって、次郎長の成長物語でもありますよね。要するに大酒飲みで暴れん坊だった次郎長が酒を飲むのをやめて、これからは違う生き方をしようってときに、いろんな人たちと知り合い、彼らを子分にしてゆく。その1人1人のエピソードをちゃんと描いているのが妙味なんです。

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任侠モノとは違う人間ドラマ

ーーマキノ雅弘監督については。

鈴木 徳間書店時代、「月刊アニメージュ」を創刊した頃(=1978年)だったと思います。ちょうど「マキノ雅弘自伝 映画渡世 天の巻・地の巻」という本が出て夢中になって読んだんですけど、そこに『次郎長三国志』シリーズのことが書いてあった。忘れられないのがね、「従来の次郎長モノにはとらわれず、思いきってお客を笑わせたり泣かせたりしよう」と考えたと。まさにそういうふうに作った映画だったんですね。次郎長モノというとすぐに出入りだとか、いわゆる任侠モノになるわけだけども、この映画はそうではない、むしろ人と人とのやりとりを描いている。

ーー年齢を重ねるごとに、観方が変わってくるんですね。

鈴木 そう。例えば若い頃はね、小堀明男が演じている次郎長の“存在感の薄さ”が気になるんです。でもだんだんと僕はスーパーマン的ではない、この次郎長が好きになった。最初はものすごく違和感あったんですよ。「何で、この冴えない人が次郎長なんだ?」って(笑)。でもそれがいいんですね。

1960年代の高度経済成長の真っ只中にいわゆるやくざ映画が始まって、主人公はどんどんスーパーヒーロー化していく。東映の高倉健、鶴田浩二にしても日活の高橋英樹にしても、どうして任侠モノってスーパーマン的に敵を殺しまくってしまう。

その中でマキノ監督は違う方向性を打ち出そうとやっていて、その部分が、やっぱり良かったですよね。後の『昭和残侠伝 死んで貰います』なんて大好きでした。あそこで描いていたのは、粋、いなせの世界。そして人の生き方の問題。『次郎長三国志』シリーズを貫いているのもそういうことです。

館理人
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『昭和残侠伝 死んで貰います』はマキノ雅弘監督が、高倉健主演で撮った映画です!

マキノ雅弘監督の演出力

ーー殺陣も独特だったり歌が飛び出したり、マキノ監督らしいタッチも賑やかなシリーズです。

鈴木 映画とは楽しいものであるという信念で、マキノ監督は一貫してやってきた。オペレッタ時代劇の『鴛鴦歌合戦』の昔からね。

あと、マキノ監督の殺陣はスピード感がある。感覚的にはジャズっぽい。殺陣が“踊り”に見えるんですよね。歌の使い方も単に明るさを狙うだけでなく、時にはドラマチックな演出が施される。第六部「旅がらす次郎長一家」では「若きとて末を永きと思うなよ 無常の風は時をきらわぬ」って御詠歌が、いきなり映画の冒頭で出てくるんですよ。

若いからって、長生きするんじゃなくて、死んじゃうときは死んじゃうよっていう、人の命の儚さ、それをね、子供の声で歌わせ聴かせて、これが終盤の伏線になっている。第六部は、今までそんなに着目していたエピソードではなかったんだけど、最近、親しい人を亡くしましてね。今回、この第六部が自分の中で改めて大きなものになったんです。

宮崎駿映画と共通するキャラクターの重心

ーー面白いだけでなく、ところどころにある身に沁みるエピソードも『次郎長三国志』シリーズの魅力ですね。ところで、マキノさんは女優に演技をつけるとき、重心の移動を大切にしていたそうですが、宮崎駿さんも作画のとき、重心の移動にはこだわられていますよね。そこが或るリアリティにつながっていると思うのですが。

鈴木 そうですよね、宮さんの描くキャラクターって重心が下なんですよね、だから昔の日本人なんです。西洋人ではないんですよ。『コクリコ坂から』なんかは、シーンによって重心が上にいったり下にいったりしている。そういうのはやっぱり気になる(笑)。

館理人
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『コクリコ坂から』は宮崎吾朗監督作です。

映画人は大いに参考にすべき

ともかく、『次郎長三国志』シリーズを観ていくとね、こんなことを思うんですよ。つまり昨今の映画に対して。いや、ジブリもそういうものを作ってきたので、なかなか言いづらいところもあるんですけど、“ありえない奇跡”を描くのが今の映画の主流で、すべてがそうなってますよね。現代モノであろうと時代劇であろうと。ひとりで無数の人を斬っちゃったり、絶対この人とこの人は結婚できないはずなのに結婚しちゃったり。

そういう“ありえない奇跡”を描くことによって感動をもたらすのが映画だってことになっている。でも、この『次郎長三国志』シリーズの世界って、僕らの日常にすぐに置き換えることができるんです。その人の身に起きた出来事……それは他人から見れば大したことがないかもしれないけど、その人にとっては大きな喜怒哀楽のドラマがある。それらを一個一個、丁寧に描いているのが、このシリーズの美徳ですね。

今回観なおして思ったのは、ジブリも、今後作品を作っていくときに、もう一度こういう原点に戻ってやっていくべきなのかなって。そう思い知らされたんですよ。映画人は大いに参考にすべきだと思うな。要するに奇妙きてれつなことをやらなくても、普通のことを描くだけでこんなにも面白いものができるんだと。そのことを強く言っておきたいですね。

ーーまったく同感であります!

宮崎駿=森の石松説

鈴木 もうひとつ言っちゃうとね、気がついたら30年近く、スタジオジブリという会社をやっているわけだけど、最初はそれこそ僕と宮崎駿と、高畑勲の出会いがあってスタートして、その後、『風の谷のナウシカ』を作り、いろいろあって、今日のジブリの歴史がある。なんだかね、『次郎長三国志』シリーズって、僕の中ではジブリの歴史と重なるんですよ。僕が次郎長かどうかは置いておいて。

ーー鈴木さんは大政あたり、ですか。

鈴木 ま、そうなのかなあ(笑)。僕はね、高畑さんが次郎長だと思うんですけどね。で、たぶん、宮さんが石松。やっぱり3人の中でね、正義感が強くて、女性に対し、かっとなったら真っ直ぐいっちゃって、そして死んじゃうとなったら宮崎駿なんですよね(笑)。

ーー宮崎駿さん=石松説! では最後に。鈴木さんは、マキノさんにお会いになられたことはありますか?

鈴木 残念ながら、なかったですね。僕が会って仕事をしたことのある監督といえば、鈴木則文さんとかね、中島貞夫さん、それから佐藤純彌さん、深作欣二さん、石井輝男さん、東映の監督の皆さんにはお会いしています。徳間書店に入って僕が担当した、「週刊アサヒ芸能」の別冊コミック誌、「コミック&コミック」にマンガの原作を書いてもらっていたんです。70年代の初めですね。則文さんの『聖獣学園』なんてね、あれ、「コミック&コミック」での連載がスタートなんですよ。

館理人
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中島貞夫監督作としては『極道の妻たち 決着』など。2019年の映画『多十郎殉愛記』は20年ぶりの長編で、高良建吾主演、殺陣が見所!

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石井輝男監督作には、『網走番外地』シリーズや、『地獄』など。

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佐藤純彌監督、深作欣二監督の関連記事はこちら!

ーーそ、そうだったんですか!

鈴木 中島さんともまるまる1年間、お付き合いしました。マンガ原作を書いてもらって、上村一夫さんが画を描いた「ラブ」というマンガです。当時、中島さんと付き合うのは大変だったなあ。夕方6時くらいに打ち合わせと称して会うでしょ。で、酒を飲みはじめて、別れるのは次の日の朝になるんですよ。で、中島さんは京都に帰って行かれる。僕は中島作品では「ポルノの女王にっぽんSEX旅行」が大好きだったなあ。あれは大傑作ですよ。

ーーOH〜! ぜひ、今度はそちら方面のお話を聞かせてください!!

(取材・文/轟夕起夫)

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『次郎長三国志』シリーズ概要

全9作タイトル一覧

次郎長三國志 次郎長賣出す』 (1952年)
次郎長三国志 次郎長初旅』 (1953年)
次郎長三国志 第三部 次郎長と石松』 (1953年)
次郎長三国志 第四部 勢揃い清水港』 (1953年)
次郎長三国志 第五部 殴込み甲州路』 (1953年)
次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家』 (1953年)
次郎長三国志 第七部 初祝い清水港』 (1954年)
次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊』 (1954年)
次郎長三国志 第九部 荒神山』 (1954年)

主要キャスト

清水の次郎長:小堀明男
大政:河津清三郎
桶屋の鬼吉:田崎潤
関東綱五郎:森健二
法印大五郎:田中春男
増川の仙右衛門:石井一雄
森の石松:森茂久彌
追分の三五郎:小泉博
三保の豚松:加東大介
大野の鶴吉:緒方燐作
張り子の虎三:広沢虎造
お蝶:若山セツ子
投げ節お仲:久慈あさみ

尾田栄一郎×鈴木敏夫パッケージ版DVD

各巻リバーシブルジャケットで、おもて面が尾田栄一郎描き下ろしイラスト、裏面が劇場公開時ポスター。

DVD「次郎長三国志 第一集」第一部から第三部を収録
DVD「次郎長三国志 第二集」第四部から第六部を収録
DVD「次郎長三国志 第三集」第七部から第九部を収録

館理人
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映画の内容については、こちらに記事があります!

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鈴木敏夫プロイール

すずき・としお●1948年愛知県生。株式会社スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。
徳間書店での編集者を経て1989年にスタジオジブリへ移籍。以降『魔女の宅急便』(1989年)、『おもひでぽろぽろ』(1991年)、『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ハウルの動く城』(2004年)、『崖の上のポニョ』(2008年)、『コクリコ坂から』(2011年)、『風立ちぬ』(2013年)、『レッドタートル ある島の物語』(2016年)など、スタジオジブリ全作品のプロデューサーをつとめる。
TOKYO FM「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」(毎週日曜23:01〜)にも出演中。

轟

映画秘宝2011年12月号掲載記事を改訂!