蔵出しインタビュー/大作を次々と世に送り出した映画監督・佐藤純彌。遺作となってしまった『桜田門外ノ変』と、それまでを振り返る

館理人
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日本映画の大作を数多く手がけてきた監督・佐藤純彌(1932年11月ー2019年2月)のインタビュー記事を蔵出ししてご紹介!

館理人
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まずはプロフィール!

【佐藤純彌(さとうじゅんや)プロフィール】

1932年東京都生まれ
1956年東映入社、東映東京撮影所に所属。
1963年『陸軍残虐物語』で監督デビュー。ヤクザ映画を中心に活躍、『組織暴力』(1967年)、『暴力団再武装』(1971年)、『実録 私設銀座警察』(1973年) 、『実録安藤組襲撃編』(1973年)などの傑作を放つ。

1975年『新幹線大爆破』が海外でも高い評価を受ける。

『人間の証明』 (1977年)以降、大作映画の監督をつとめることが多くなり、『野性の証明』 (1978年)、『未完の対局』(1982年)、『植村直己物語』 (1986年)、『敦煌』(1988年)、『おろしや国酔夢譚』(1992年)などを発表。

2005年『男たちの大和/YAMATO』の大ヒットで健在ぶりをみせた。『桜田門外ノ変』(2010年)が遺作映画となる。

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インタビューは『桜田門外ノ変』がDVD化された2011年。

同時にDVD化された『荒野の渡世人』『暴力団再武装』『超能力者 未知への旅人』などについても語っていただいてます!

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佐藤監督は、大作といえば!の監督のひとりなのです。

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『桜田門外ノ変』については、こちら!

【『桜田門外ノ変』データ】

原作:吉村昭『桜田門外ノ変』(新潮文庫)/監督:佐藤純彌/出演:大沢たかお、長谷川京子、柄本明、生瀬勝久、渡辺裕之、加藤清史郎、西村雅彦、伊武雅刀、北大路欣也、他

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では!記事をどうぞ!

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『桜田門外ノ変』は長いキャリアで初の時代劇映画

ーー公開時も話題になりましたが『桜田門外ノ変』は、佐藤監督初の時代劇映画だそうで。これは意外でした。

佐藤 何かの挨拶のときに「時代劇は初めて」と言ったら、隣にいた北大路欣也に「僕が主演した『空海』(1984年)があるじゃないですか」って混ぜっ返された (笑)。「あれは歴史劇って呼ぶんだ」って答えましたがね。

ーー映画が扱っているのは、安政7年、すなわち1860年、江戸城桜田門外において水戸藩、薩摩藩の脱藩浪士が大老・井伊直弼を暗殺した事件です。

佐藤 お話をいただいて最初断ったんですよ。理由はオーソドックスに作ると、暗殺シーンをクライマックスに持ってくることになる。この事変は要(よう)は、政治的テロリズムなわけです。僕は政治的テロを賛美、奨励するような映画は作りたくなかった。

そこでたとえばの話、「暗殺場面をクライマックスに置くような類型的な作劇ではなく、それを早くに描き、行動を起こした者たちがどんな考えの持ち主で、またどういう末路を辿っていったのかも描けたらいいですね」と提案したら、プロデューサーが「それで行こう!」と。

結果、引き受けることになりました。時代劇の所作は、殺陣師の久世浩くんに教わりましたが、私の父が刀剣学者(=佐藤貫一)だったもので、子どものころから真剣を見ていたし、取り扱いにも慣れていたので、違和感なく馴染めましたね。

戸惑ったのは女性の挙手動作です。立ち振る舞い、襖の開け方などを、映画的なリズムとうまく噛み合わせるのが苦労したところですかね。

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奥底にあるレジスタンスへの思い

ーー主人公の水戸藩士、関鉄之介役の大沢たかおさんには撮影で、どのようなサジェスチョンをされたのですか?

佐藤 特に何も。僕は、演技やキャラクターについて一番よく考えているのは俳優だと思っているので。ただ、ひとつだけ撮影前に話したのは、フランスのレジスタンスのことでした。

パリに行きますと、ノートルダム大聖堂の裏に、無名戦士の墓がありまして、そこに対ドイツ軍へのレジスタンスで命を落とした連中が葬られているんです。カルチェ・ラタンの街の柱には銅板があって、「1942年何月何日、誰々がドイツ軍により射殺された」と刻んであり、カフェテリアに入っても「このカフェで1943年誰々が〜」と随所に記録が残っていた。

ナポレオンの棺のあるアンヴァリッドの軍事資料館に足を運ぶと、「以下の者、30数名、反ナチス的行為により銃殺する」と名前、年齢、職業などがざっと書いてあった。一番下が18歳で一番上が58歳とバラバラ。

つまりレジスタンスというのは、職業も年齢もまちまちで、たったひとつ共通点は、反ナチでヒトラーの独裁に対して抵抗運動したということ。

大沢くんには「権力者であり、独裁者でもあった井伊直弼を倒すことがそういったレジスタンス運動とイコール、とは言わないけれど、参加した無名の人たちの志は通じるものがあったのではないか」と話したんです。

ーー“レジスタンス”は、佐藤監督の映画の底辺にあるエッセンスですね。

佐藤 そうかもしないです。ただし僕は大義で何かを起こす場合、それは革命であってもいいんだけど、やっぱり無差別殺戮だけはどんな理屈をつけても加担できません。

アルベール・カミュに『正義の人々』という戯曲があるんですよね。これはロシア貴族のセルゲイ大公を暗殺しようとする人々の話ですが、主人公カリャーエフが爆弾でその馬車を襲う。

ところが子どもが乗っていたので中止して、帰って来て仲間に突き上げられるわけです。彼は「大義のために関係のない民を殺してはいけない」と主張、再び志願し、ひとりで馬車に乗っていたセルゲイ大公の暗殺に成功したあと捕まって、死刑になる。

なかなか示唆に富んだ戯曲で、影響されていますね。そもそも僕はカミュの著作が大好きだったんですが、『正義の人々」は、学生時代(=東京大学)に芝居でやったことがあります。

ーー演出されたんですか?

佐藤 ええ。他には後のフランス文学者、渡邊守章や、2010年に亡くなりました演出家の福田陽一郎などもいました。

ーーお若いころ、文芸評論の大家となる江藤淳さんとも交流があったそうで。

佐藤 江藤は高校時代の仲間なんですよね。大学は違うんです。旧制湘南中学(現・神奈川県立湘南高校)から都立第一中学(現・日比谷高校)に転校してきて、一緒に演劇をやってました。

中学高校では篠沢秀夫とも一緒でしたね。彼とは一緒にいいこと悪いことを、いろいろやりました(笑)。僕をフランス語に引っ張り込んだのは彼ですよ。

他にも後年、青土社を興す清水康雄もいて、僕は彼に啓蒙され、私淑していました。そういった連中15、6人で学校が終わると映画を観たり、喫茶店にたむろしたりしていました。

渋谷の喫茶店にとても美しいウエイトレスがいてね、彼女目当てでよく通っていたんだけど、映画界に入って、安藤昇さんと仕事で知り合って、渋谷といえばかつて安藤さんの縄張りだったからその話をしたら、「あのコは俺のコレだった」って言われましたよ(笑)。

ーースっ、スゴイ! おっと、『桜田門外ノ変』の話に戻します。主人公の関鉄ノ介は、井伊直弼暗殺に直接参加せず、それを見届ける役という特異な任務を帯びていて、興味深かったです。

佐藤 これは吉村昭さんの原作通りなんですが、ツラい立場だったと思いますね。仲間たちが斬られ死んでいっても手は出せない。なぜなら彼には結果を報告しなければいけない、大きな役目があったわけです。

暗殺の一部始終を見つめているときの、大沢くんのアップが一番難しかったですね。これを描きながら思いだしたのは、以前僕が撮った『最後の特攻隊』(1970年)という映画です。

モデルにしたのは特攻機を送り届ける護衛部隊“直掩隊”。特攻機は250キロ爆弾だけを積んで飛んでいるので、敵から迎撃されるのを守るために6機ほど直掩隊が前後についていたんですよ。

で、敵艦が見え、突っ込んでいく特攻機を見届け、成果を報告する。その際、絶対に戦闘に参加してはいけないんです。見届けて帰ってくるだけ。これもツラい。関鉄之介の立場もある種、直掩隊と似ているなあと思いました。

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『荒野の渡世人』は「うどんウエスタン」

ーーここで、今回初DVD化される監督の作品、『荒野の渡世人』(1968年)や『暴力団再武装』(1971年)、『超能力者 未知への旅人』 (1994年)についてもお訊きしたいのですが。

佐藤  『荒野の渡世人』は高倉健さんが主演で、オーストラリアロケを敢行しました。

館理人
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『荒野の渡世人』(1968年)は脚本:石松愛弘、出演:高倉健、ケネス・グッドレッド、ほか

あの頃は外国でロケすることがひとつの宣伝材料になり、興行を保証するものでもあったんです。

これは俊藤浩滋プロデューサーの企画でした。当初は「海外でヤクザ映画を!」という話でしたが、出来上がったのは“うどんウエスタン”でした(笑)。

いざ撮影しようとすると、オーストラリアのユニオンがけっこう強くて、例えばスタッフにオーストラリア人を雇うこと、オーストラリアの俳優を使うことなど、いろんな条件をつけられて、半年以上ゴタゴタしました。

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『暴力団再武装』は時代が生んだヤクザ映画

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『暴力団再武装』(1971年)は脚本:村尾昭、出演:鶴田浩二、丹波哲郎、若山富三郎、近衛十四郎、ほか

『暴力団再武装』の物語の発想は、当時、鹿島が九十九里浜の何もないところに新しい産業都市を作っていた状況にインスパイアされました。そうなればヤクザも必ずそこに絡んでくるだろうと。

それと、たまたま三島由紀夫が切腹自殺したあとで、ヤクザが切腹する話も成立するんじゃないかとね。時代背景と隆盛していたヤクザ映画の流れの中で生まれた作品だった気がします。

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『超能力者 未知への旅人』で科学を超えた力を描く

ーー『超能力者 未知への旅人』は?

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『超能力者 未知への旅人』(1994年)は脚本:早坂暁、出演:高塚光、三浦友和、原田美枝子、長谷川初範、ほか

佐藤 東急エージェンシーの営業マンだった高塚光氏本人が出演した映画でしたが、東映の現社長(2011年当時)、岡田裕介さんの知り合いで、これは岡田さんの企画でした。ヒーリング能力があるというので、実際にいろいろと調べてみたら、人間の“気”の存在は科学では実証できなくても、あるということは理解できた。

ただ、人間の“見えない気”をどうやって映像化していくかは大変な作業でしたね。とりもなおさず、高塚光という人物を主人公にし、ドラマ部分と後半のメンタル部分に分けて、人間が持っている未知なる力、あるいは科学を超えた力を描いてみました。

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海外ロケの転換となった『植村直己物語』

ーー『超能力者 未知への旅人』も中国ロケをされていましたが、佐藤監督の映画は1970年代以降大作が続き、海外ロケも多くなりますよね。そういう志向はもともとあったんですか?

佐藤 そんなにはなかったです。ただ敗戦を経験し、根本的に日本に対するトラウマみたいなものがずっと残っていたのかもしれないですね。海外に行って、精神が開放されるキッカケになったのは『植村直己物語』(1986年)です。

館理人
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『植村直己物語』では、冒険家植村直己を西田敏行が演じました。

あれはそれこそロケハンのときから世界中、植村さんの足跡を本当にずっと追ったんです。なぜ彼が日本を脱出し、単独で冒険していたのかを探っていったらとても面白かったです。

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ハチャメチャに混沌を描く『実録 私設銀座警察』

ーー今回は3作、DVD化されましたが、『実録 私設銀座警察』(1973年)もぜひDVD化してほしいですね!

館理人
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注:『実録 私設銀座警察』は2013年に初DVD化、 Amazonプライムビデオなど動画配信サービスでも観ることができるようになりました!(2020年6月現在)

佐藤 あれはさんざんヤクザ映画を書いてきたシナリオライターの2人(神波史男、松田寛夫)が、決まりきったヤクザ映画から一回飛び出してみようと挑んだもので、僕もそういう意識がありました。

あんなにもシナリオライターと話し合って、映画作りをしたことはなかったかもしれない。実際のモデルたちがそうだったわけですが、戦後の混沌の中、破滅していく人間たちを、ストーリーではなく、映像的に語ってみようじゃないかと。

神波さんも松田さんも僕も、それぞれが実験意識を投入していました。銀座を一時期支配し、ハチャメチャに滅んでいった人たちですからね、ハチャメチャに混沌を描こうじゃないかと。

渡瀬恒彦さんが演じた男は架空のキャラクターでしたが、他にはだいたいモデルがいて名前はみんな違いますけど、実録の名のもとに、ヤクザ映画のルーティンを全部破ってやろうという意気込みであの映画は作っていました。

ーーそう考えると、『桜田門外ノ変』も、実録路線の末裔ですね(笑)。

佐藤 まあ、そうですかね(笑)。

ーーテロではあるものの、結果論として“井伊直弼暗殺”は珍しく、非常に稀に、歴史を前進させた事件とも言われていますが。そのあたりは?

佐藤 たしかにそういう面もありますね。司馬遼太郎さんは、集団テロ行為として、赤穂浪士と桜田門と、226事件を入れて3つ挙げて、「時代を前に動かしたのは、桜田門だけ」という評価をされていました。

実際、226は時代を逆戻りさせ、赤穂浪士に至ってはまったく時代の本流とは関係なかった。桜田門の場合は、1853年に黒船がやって来て、1860年に井伊直弼暗殺があり、1867年に大政奉還となるわけですよね。その14年間のちょうどピークに起こった事件だった。

つまり黒船が来て、幕府の騒乱状態の中、「開国派をやっつけろ」という流れができた。

ここで面白いのは、日米友好通商条約を結んだ井伊直弼を暗殺した実行者たちは攘夷ではあったが、幕府の存続を支持した佐幕派だったんです。ところが“大老”の井伊を暗殺したことによって幕府の求心力を削ぎ、結果、崩壊させてしまった。

歴史にはそういう皮肉というか、不思議な面が往々にしてありますよね。とにかく歴史に関しては絶対的評価などなく、常に現代から眺めての相対的評価しかないんですけど、僕はこの映画を撮りながら、開国に反対した連中がめぐりめぐって明治の開国を作り出してしまった運命の皮肉、そして時代の流れの面妖さに、あらためて深く感じいった次第です。(インタビュー・構成/轟夕起夫)

轟

映画秘宝2011年6月号掲載記事を改訂!