読む映画リバイバル『犯される』

再検!日活ロマンポルノ

「あなた」の中には「あな」すなわち「穴」があるのだ

(2003年1月号より)

 映画のオープニングというのも色々あるが、これほど変わったものもまたとあるまい。なにしろ開幕早々日活マークの上にかぶさるのは、「あなたっ、あなたァ、ア・ナ・タ」と呼びかける、オンナの切ない声。

 宮下順子主演の『犯される』はそんな風に始まる。

 ここでの“順子”の役は主婦である。マイホームを手にし、洗濯物を干しながら小坂明子の「あなた」を口ずさんだりする平凡な、しかし幸せいっぱいの若妻。

 が! 夫が旧友を家に連れてきた瞬間から、彼女の幸せな日々は一変する。刑務所帰りのそのヤクザに夫は弱みを握られており、飲めない酒を強制されて意識不明に。その隙に“順子”はヤクザに犯されてしまう。

 数日後、真相は明らかになる。

 ヤクザは夫と宝石の密売仲間で、ひとり罪をかぶって刑務所に入っていたのだ。現在の幸福なマイホームは、この疫病神のおかげで手にしたようなものではあるが、狼藉三昧、命を脅かされ、無我夢中で“順子”はヤクザを殺す。

 ところが、本当の地獄はここからであった。ヤクザの密輸した宝石を取り戻そうと、組織が執拗に夫婦を追いかけてくる。拷問。蹂躙。生き埋め……そして最後に彼女を待っていたのは、まさかの夫の裏切り!

 オープニングシーンが示しているように、本作での宮下順子の台詞は驚くべきことに、ほとんど夫に対する「あなた」という言葉の変奏でしつらえられてある。たとえばそれは、慈しみの「あなた♥」だったり、疑いの「あなたッ!?」だったり、いかりの「あなた!!」だったり、諦めの「あなた……」であったり。もちろんラストを締め括る台詞もこれだ――「あ・な・た」。

 残念ながら夫の耳にその声は、もう永久に届かないのだが! 傑作である。

(月刊ビデオボーイ掲載)
●監督:小沼勝●出演:宮下順子、水乃麻希、花上晃、他●1976年●日本