コーエン兄弟の監督作。イーサン・コーエン、ジョエル・コーエンの二人組。監督、脚本、プロデューサーとして映画製作しています。
そんなコーエン兄弟の傑作の一つ『ノーカントリー』をレビューにてご紹介です。
印象に残るのはやはりあの“迫力ある顔”、ハビエル・バルデムの本気顔
荒野で、死体の山と大量のヘロイン、現金200万ドルを発見したベトナム帰還兵のモス。彼がその金を手にすると、以後、予想のつかぬ展開の連続に。
米文学界の異端児コーマック・マッカーシーの小説(邦題「血と暴力の国」)を映画化した、まさしく血と暴力に満ちた本作。
第80回アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4冠に輝いた。
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迫力のある顔、という言い方がある。「それってどんな顔?」と訊かれたら、この映画を観せるのが手っ取り早い。そこには、最凶の“殺し屋シガー”がいる。すなわち、名優ハビエル・バルデムが、バナナマン・日村勇紀のごとき面妖な髪形、容貌になって登場するのである。
『ノーカントリー』は2007年の作品です。
ハビエル・バルデムのチャラ男キャラ映画あります、『それでも恋するバロセロナ』。役の振れ幅がすごいです。
作品レビューはこちら。
『007 スカイフォール』では悪役です。レビューはこちら。
しかもコイツは、高圧ボンベ付きの家畜用スタンガンを持ち歩き、人の額をプシューと撃ち抜くのが日課。“日村勇紀”がそんなことをして回るのだ。想像するだに怖いだろう。
その日村、いや、シガーは、麻薬取引絡みの大金を奪って逃げた男を追っている。さらに2人を追う老保安官。扮するトミー・リー・ジョーンズは、缶コーヒーBOSSのCMみたいにブツブツと呟いてばかりだ。つまり「昔は良かった」的爺キャラなのだが、映画の舞台が“80年代”であることに注意したい。
彼らは1970年代、アメリカの挫折=ベトナム戦争をそれぞれの境遇で体験しており、シガーを「迫力のある顔」にした歴史を、監督&脚本のコーエン兄弟は声高にではなく、やんわりと観る者に悟らせるのだ。無論、イラク戦争以降のアメリカの“顔”と二重写しにしながら。
21世紀に入ってスランプ気味だったコーエン兄弟だが、本作で復調を果たした。
そういえば殺し屋シガーの潜むモーテルに銃弾が撃ち込まれ、壁やドアに穴が開き、暗闇にスッと光が差しこむ場面、彼らのデビュー作『ブラッド・シンプル』(1984年)の終盤の、名高いシークエンスを思い出した(舞台も同じテキサスだ)。原点回帰しつつも前進した、実に喜ばしき例ではないか。
『ブラッド・シンプル』は嫉妬心から巻き起こる殺人事件を描きます。
週刊SPA!2008年8月5日号掲載記事を改訂!