1970年代の映画でアウトローな数々のキャラクターを演じた梶芽衣子さん。クエンティン・タランティーノ監督も魅了した彼女の魅力を解説した雑誌記事を復刻です!
クエンティン・タランティーノ監督もオマージュを捧げた、梶芽衣子の魅力を解説!
(文 轟夕起夫)
1965年の映画デビュー以来長きに渡って活躍し、『野良猫ロック』『女囚さそり』シリーズなど海外にもファンの多い彼女の軌跡が、再評価されている。
火付け役は『キル・ビル Vol.1』(2003年)でオマージュを捧げたクエンティン・タランティーノとのことだが、その予兆はもっと前からあった。
『キル・ビル』については、こちらに関連レビュー記事があります!
たとえば深作欣二監督の『バトルロワイアル』(2000年)。殺し合いを強制される3年B組の中で、鎌を手に、柴咲コウが“相馬光子”役になりきり、容姿ともども美しきアウトローヒロインの世界を(無意識にであれ)継承してみせたとき、“梶芽衣子ルネサンス”は、すでに、きっと、始まっていたのだった。
深作欣二監督について解説したレビューはこちらにありますので、ご参考まで! 復刻インタビュー記事もございます!
死と復讐の似合うクール・ビューティー
ヒッチコック映画の昔からクールビューティーは数多くいれど、死と復讐の似合うクール・ビューティーというのは希少である。それが彼女だ。では、遅れてきた“芽衣子ファン”のために急ぎ足で軌跡を辿ってみよう。
高校を卒業と同時に日活に入社し、本名の“太田雅子”を芸名に活動開始。青春スターとして売りだされるも、その強い意志を秘めた瞳はなかなか適役に巡りあうことが出来なかった。
が、そんな不遇な状況下、転機が訪れる。キング・オブ・エンターテイメント、マキノ雅弘監督の『日本残侠伝』(1969年)に物語のカギとなる女郎役で抜擢された際、御大直々の命名により”梶芽衣子”と改めたのだ。
ちなみにマキノ雅弘監督の代表作『次郎長三国志』愛をアツく語った、スタジオジブリプロデューサー鈴木敏夫氏の復刻インタビュー記事てのもあります!よろしければどうぞ!
アウトロー・ヒロインの数々
マキノに、やくざ映画、時代劇の所作を叩き込まれ、和服姿も似合った彼女は任侠路線に参入、(タランティーノも敬愛する)石井輝男監督の『怪談昇り竜』(1970年)では主演も果たした。女侠客役の梶のもと、もろ肌だした子分たちがズラーリ並ぶと背中の刺青(=昇り竜)が横一面につながるという奇想天外なアイデア!
石井輝男監督については、こちらに記事あります!
アヘン街の鏡の間の奇抜なセットやラストの決闘場面も含め、本作はほとんど現代アートの枠に達している(彼女は主題歌「仁義子守歌」でレコードデビューも!)。
また、現代劇でも日活ニュー・アクションのシンボルとなる『野良猫ロック』シリーズにレギュラーで出演、反抗と閉塞の時代の空気感をリアルに体現した。当時最もセンシティブだった監督、長谷部安春、藤田敏八と組んで作り上げたキャラクターは、全5作、常にアンニュイなムードを漂わせ、しかし“自由に遊戯する”ためにはカラダを張り、大人たちの愚直さをあざ笑う、ストリート系のアウトロー・ヒロイン。
『野良猫ロック』第一弾は、和田アキ子と梶芽衣子の共演!(画像はU-NEXTより。2021年4月29日まで見放題タイトルにラインナップされています)
日活ニューアクションについては、こちらの原田芳雄さんの復刻インタビュー記事で語られています。
第2弾『ワイルドジャンボ』(1970年)では新興宗教団体の資金強奪を企て、基地の町・立川を舞台に混血児狩りをテーマとする第3弾『セックスハンター』(1970年)では、イカした黒のアコーハット(ツバ広帽子)にマキシ・コート、パンタロン姿で登場し、不条理な青春像を生きてみせた。
『野良猫ロック』第2弾、第3弾ほか、全5作はU-NEXTで見られます。(画像はU-NEXTより。2021年4月29日まで見放題タイトルにラインナップされています)
ジャンヌ・モロー、フェイ・ダナウェイ、ジーナ・ローランズの系譜!
1971年、ロマンポルノ体制に転向した日活を去りフリーとなり、1972年東映に入社。そして“ポスト藤純子”と目された主演作『銀蝶渡り鳥』『銀蝶流れ者 牝猫博奕』の間に、ビックウェイブがやってくる。
『女囚701号さそり』(1972年)。裏切り者の恋人、悪徳刑事への復讐をパンキーかつトリッキーに描いた映画は大ヒットしシリーズ化され、主題歌「怨み節」とともに“松島ナミ”というキャラクターは、梶芽衣子のイメージを決定づけた(劇中の衣裳はすべて彼女が考えたという!)。
以下画像は『女囚さそり』シリーズ!
上から『女囚701号さそり』『女囚さそり 第41雑居房』『女囚さそり けもの部屋』『女囚701号さそり恨み節』(画像はU-NEXTより。見放題タイトルにラインナップされています。2021年12月24日まで)
ヒット曲「怨み節」は、クエンティン・タランティーノの『キル・ビル』で使用されています!
以後、再びフリーとなり『修羅雪姫』シリーズ、『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)を皮切りにした深作監督とのコンビ作、さらに和製ボニー&クライド『ジーンズブルース 明日なき無頼派』(1974年)と精力的に活動。増村保造監督の名篇『曽根崎心中』(1978年)では遊女役に挑戦、主演女優賞を総ナメにした!
増村保造監督については、こちらに記事があります!
時は経ったが喩えるなら、ジャンヌ・モロー、フェイ・ダナウェイ、ジーナ・ローランズといったクールな女優の系譜上に梶芽衣子はいる。つまりこれからがまだまだ楽しみなのだ。
女がカッコいい女侠もの系譜からの梶芽衣子
さて、久保菜穂子が女賭博師・お竜を演じた『女王蜂』(1958年)、そして監督が石井輝男、役柄が海堂組の大親分へと変わった『女王蜂の怒り』(1958年)、さらに三原葉子主演の『女王蜂と大学の竜』(1960年)などが新東宝にあるが、任侠映画のメッカといえば東映。
紅一点、藤(現・富司)純子が“矢野竜子”、人呼んで緋牡丹のお竜として活躍した『緋牡丹博徒』(1968年)は大ヒットし、シリーズ全8本、さらに『日本女侠伝』『女渡世人』シリーズも作られ、多くの模倣作が生まれた。
そうした流れがある一方で、梶芽衣子の場合、石井監督との出会いといい、藤純子の育ての親がマキノ雅弘(のち雅広)であったりと、彼女はなるべくして“俠気”を感じさせるスターになったのであった。
富司純子さんについては、復刻ロングインタビュー記事あります、こちら!
以下、梶芽衣子さんが演じたキャラをざざっと紹介します!
映画の中の役柄別、カッコかわいい梶芽衣子
マコ by 『野良猫ロック セックスハンター』
1970年
監督:長谷部安春
出演:梶芽衣子、藤竜也、安岡力也、岡崎二朗、有川由紀、ほか
基地の街を牛耳るグループ、イーグルスの中心的人物。リーダーのバロンと混血児狩りを巡って対立、混血児の数馬と廃墟に籠城。グループで生意気な相手にはビシっとひと言「一人前の口をきくのはまだ早いよ!」
松島ナミ by 『女囚701号さそり』
1972年
監督:伊藤俊也
出演:梶芽衣子、扇ひろ子、夏八木勲、渡辺文雄、横山リエ、ほか
麻薬取締官の刑事、恋人でもある杉見の口車にのり麻薬捜査の囮に使われ、強姦までされ、揚げ句の果てに刑務所生活を送ることに。無口。不屈の闘志の持ち主。「裁きは私が殺る!」 と杉見への復讐を誓い、それを実行に移す。
樋口ナミ by 『銀蝶流れ者 牝猫博奕』
1972年
監督:山口和彦
出演:梶芽衣子、千葉真一、伴淳三郎、光川環世、山城新伍、ほか
八百長の汚名をきせられ命を亡くした父の仇を討つため、花札賭博の世界に飛び込んだ着流し姿の女札師。渡り鳥のごとく全国各地をたずね、ついに父殺しの犯人を見つける。札さばきだけでなく、ドスさばきも一流!
お雪 by 『修羅雪姫』
1973年
監督:藤田敏八
出演:梶芽衣子、黒沢年男、大門正明、ほか
子供の頃から、悲惨な生涯とともに獄死した母の怨みを背負って、復讐のために生きてきた。道海和尚のもとで地獄の特訓を受け、その憎きカタキを探しだそうと旅に。「因果応報!」はキメ言葉。相手を一刀のもとに斬り殺す。
立花明美 by 『怪談昇り竜』
1970年
監督:石井輝男
出演:梶芽衣子、ホキ徳田、佐藤充、内田良平、土方巽、ほか
関東立花一家二代目。背中には昇り竜の刺青。渡世の義理により岡田組組長の命を狙った際、誤ってその娘・藍子の眼を切ってしまう。なぜかその日から黒猫の悪夢に呪われ、出所後も、数々の怪事件に巻き込まれていく!
月刊スカパー!2004年6月号掲載記事を再録です!
『野良猫ロック』シリーズつながり!夏純子さんのインタビュー記事もよろしければどうぞ!