復刻インタビュー【監督・中田秀夫】がアツ〜く語る、ロマポ巨匠の師【監督・小沼勝】&ロマポ!

館理人
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『リング』『スマホを落としただけなのに』などの中田秀夫監督はロマンポルノの現場でキャリアをスタート。ロマンポルノ愛についてと、ロマンポルノの巨匠監督・小沼勝について語っていただいたインタビュー記事を復刻です!

中田秀夫 プロフィール

1961年生まれ。
1985年東大卒業後、日活に入社してロマンポルノの現場に。
助監督を経て、1992年に『本当にあった怖い話』で監督デビュー。
『リング』(1998年)が大ヒット。アメリカでゴア・ヴァービンスキー監督によりリメイクされた。リメイク続編『ザ・リング2』を監督しハリウッド・デビュー。
2016年の日活ロマンポルノ45周年を記念した企画「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」に参加、28年ぶりにロマンポルノに携わり『ホワイトリリー』を監督。
ほか監督作に『終わった人』(2018年)『スマホを落としただけなのに』(2018年)『 殺人鬼を飼う女』(2018年) 『貞子』(2019年) 『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2020年、東宝)『事故物件 恐い間取り』(2020年、松竹)など。

館理人
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ではインタビューをどうぞ!

期間限定

中田秀夫 インタビュー

(取材・文 轟夕起夫)

映画ファンならば小沼作品は当然観ておくべきものだった

──まずはやはり、ロマンポルノとの出会いあたりからお訊きしたいのですが。

中田 学生時代ですよね。まあ女性のハダカも観られるし、好きな女優もできたりして(笑)。しかも映画的にもとても面白かったんですよ。神代辰巳、曽根中生、田中登……などなど、1970年代から素晴らしい監督さんたちが活躍されていた。蓮實重彦先生の本なんかを読んでいっそうインスパイアされて、それで監督名で作品を追いかけるようになるんです。

──そんな中に、耽美派と呼ばれていた小沼勝さんも並んでいたわけですね。

中田 そうです。映画ファンとしては、当然観ておくべきスゴい監督でした。

──で、好きが高じて1985年、日活 (当時はにっかつ)に入社されてしまう!

中田 フットワークのよくない助監督を7年やりました(笑)。その1年目に『箱の中の女 処女いけにえ』(1985年)で小沼組に参加したんですよ。自分で志願したんです。これが凄惨な現場だった。もう打ちのめされました。怒鳴られぱなし。でも小沼監督は現場では阿修羅のようになるんだけど、仕上げのときとかに、ふと優しい言葉をかけてくれたりするんです。

──それで、監督をされた「小沼勝ドキュメント」の題名が『サディスティック&マゾヒスティック』なんですね。

中田 「スタッフに好かれるようになったら映画監督は終わり」って言葉を実践されていた方ですが、でも実際にはまた参加したくなる。それがどこかSM的な関係だなあ、と助監督のときから思ってました。

──ドキュメンタリー映画は以前、『ジョゼフ・ロージー : 4つの名を持つ男』(1996年)も手掛けられています。

中田 ロージーのときの反省もあって、あまり客観的にならずに、自分の思いをぶつけられる対象がいいだろうと。ビデオで延々インタビューできたのは良かったですが、編集では大変な目にあいましたね。

小沼監督のあの言葉を聞いた瞬間、僕は心にナイフを持った

──SM的だというお二人の関係に話を戻しますが、助監督時代、小沼さんに対して殺意さえ抱いたそうですね(笑)。

中田 ええ(笑)。いろいろとあるんですが、一個だけエピソードを言いますと、『箱の中の女2』 (1988年)のとき、長坂しほりさん演じるヒロインが、中西良太さんに風呂場で犯されるシーンがあって、万座温泉の古い旅館を借りて撮ったんです。小沼さんって、大変なシーンになるとコンテ表を前日に出すんですよ。それを僕ら助監督はカーボン紙で写して準備をするんですが、脇のほうに「クラシカルな風呂桶」って書いてあったんですよね。

──あっ、それが旅館にはなかったと!

中田 そういう古い旅館に限って、よくある黄色の風呂桶しかないんですよ。朝から監督は怒っていてね。「風呂桶あるんだろうな」って。探し回って、死ぬ思いで別の旅館で見つけて、撮影に間に合わせたんですが、現場で小沼さん、カメラマンに「あの桶、邪魔じゃない?」って言った(笑)。いや、いまは笑えますけど、僕、そのときは心にナイフを持ちました。

──そのエピソード、今回、小沼監督に話されてみたりしたんですか?

中田 ええ。酒を飲みながら切り出してみたら、「それはさ、ま、桶と椅子を置いてみたらアットホームな感じになっちゃったんじゃないか」ってサラっと。カメラマンの方がフレームに入れてくれたんで、桶、一瞬は映っているんですがね(笑)。『サディスティック&マゾヒスティック』の中で監督の黒沢直輔さんが証言していますけど、1970年代は小沼さん、もっとトンでもない人だったらしいですよ。僕の話なんて、可愛いものだと(笑)。

──しかしそれにしてもこの企画、よく実現まで漕ぎつけましたね。

中田 日活側に相談したら、すんなり通ったんです。オリジナルの企画を通すときって時間かかるんですけど、日活の中村(雅哉)社長は、劇映画も含めた今までの企画の中で一番面白そうだって(笑)。実際、普段忙しくて朝8時台にしか会えない社長に、『サディスティック&マゾヒスティック』の初号には調布まで車を飛ばして来ていただけましたから。

ロマンポルノのことは、いつかやらねば、と思っていました

──『サディスティック&マゾヒスティック』製作にあたっては、ロマンポルノという最後のプログラム・ピクチュアへの想いもあったんですか?

中田 それはありましたね。小沼勝のドキュメンタリーを作ることで、失われたロマンポルノをもう一度掘り起こしたかったというか。非常に壮大な試みだったと思うんですよね、R18作品を18年間ずーっと、メジャーの映画会社が作り続けてきたっていうのは。世界映画史的にも例をみないこと。だからちゃんと、何かを残しておきたいって気持ちがありました。

──それはかなり前から?

中田 ロージーのドキュメンタリーを英国で企画してた頃、日活倒産の話が伝わってきたんですよね。そのとき、ロマンポルノについてもいつかやらねば、って思った。でもロマンポルノ史を鳥瞰図的にやるのは土台、僕にはムリな話。そこで小沼さんにご登場願ったわけですが……

──小沼監督だけでも大変であった、と!

中田 そう! 歯がゆいばかりですよ。バカみたいな質問だけども、「一体あなたはどういう人なんだ」と質問をぶつけてみたところ、監督しながら夢日記をつけていた、って言うんです。それがまるで、つげ義春。あまりにシュール過ぎて正確には思い出せないんですが、お寺の池の鯉が、庭でパタパタしていて、近づいてみると鯉には足が生えており、境内の建物の地下に隠れていくんだとかって。そうやってスルスルと逃げていくというか、自分の内面を見せたくないというか、そういう難しい人なんですよね(笑)。

小沼さんって監督は女形(おやま)系なんじゃないかなあ

──ところで中田さんが、小沼監督から学んだことって何ですか?

中田 さきほどの風呂桶の話じゃないけれど、映画ってスクリーンに写ってナンボだってことですよね。それを常に考えてた人だと思う。『輪 (りんぶ)舞』(1988年) って作品で、医者と看護婦のセックスシーンがあるんですが、上田耕一さんが滝川真子さんを抱えて挿入している。ロマンポルノは疑似なんで、彼女の股間が上下に揺れるといっても相当激しく動かないとヤってるようには見えない。小沼さんはそこに執拗にこだわって、しまいには上田さんがブチ切れたりして(笑)。でも、リアリズムじゃなくて、どういうふうにすればお客にそのように見えるかを追及していた。そこは明快な方でしたね。

──『サディスティック&マゾヒスティック』でも紹介されていましたが、小沼監督って女優さんに対しても実際に演技をやってみせる方だそうで。

中田 助監督の僕らも、演技をつけるのやらされましたよ。小沼さんって女形(おやま)系だと思うんですね。ヒロインになりきろうとする監督。マキノ雅裕さんや澤井信一郎さんの系列。僕の場合は少々違って、実際に演じはしませんが、演出的に女優ばっかりを見てるタイプ(笑)。『リング』のときなんか9割がた、松嶋菜々子さんを見てました。小沼さんも男優には驚くほど何も言わないんです。キャスティングした時点である程度、男優さんに関しては読めるんですよね。

──ほかにも影響されている点は?

中田 小沼さんはしっかりリハーサルをやる監督でした。ロマンポルノって、10日ほどで撮らなきゃならなくて、現場では本当、時間がないんですよ。迷ってるヒマがない……といっても迷うんですが(笑)。僕も同じ考え方で、先にリハーサルをやる。演技を固めるっていうか、監督としての僕の個性も知ってほしいし、役者どう受けとめるか、やりとりをやっておきたい。そこは直接的な影響です。

──最後に、改めて小沼監督の魅力を!

中田 美学がどうのより、成人映画に徹して、まずお客さんを満足させること。それでいてヒロインを描いた作品としてもキッチリ観られる。普通だったら「ウソだろ」と思える設定も、この人の手にかかるとグイグイと引っ張られてしまいますから。そういう仮構力がスゴいんですよね。

『サディスティック&マゾヒスティック』

データ

2000年
監督:中田秀夫
出演:小沼勝、木築沙絵子、半沢浩、森勝、小原宏裕、片桐夕子、谷ナオミ、ほか

監督・小沼勝に迫るドキュメンタリー映画

 インタビューされ、次のように答えてゆく関係者たち。

「殺してやるって思ったことが3回はある」
「吸血鬼みたいな人ですね」
「あの人の目って、どこから来るんだろう」
「小沼監督の目を見てると、青いんですよね」
「なんかね、亀? 殻があるっていうか鎧を着てるっていうか、一体アンタ、どういう人?」

 中田監督ならずとも探ってみたくなるその肖像。豊富に作品映像を織り込みながら、谷ナオミ、風祭ゆき、片桐夕子、小川亜佐美、木築沙絵子といったミューズが、そして共に歩んできた製作者たちが、鬼才・小沼勝の“青い目”の奥底に迫っていく!

轟

ビデオボーイ2001年1月号掲載記事を改訂!

館理人
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