蔵出しロングインタビュー【小沢昭一が、映画監督・今村昌平を語る】

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館理人
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小沢昭一さんが、盟友・今村昌平監督について語ったインタビュー記事を復刻です。おふたりとも亡くなられていますが、おふたりが作り上げてきた映画は存在感を増すばかり!

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まずは小沢昭一さんのプロフィールを!

小沢昭一プロフィール

おざわ・しょういち 1929ー2012年
東京生まれ。早稲田大学在学中に演劇活動を始め、劇団新人会を結成して活躍。1954年『勲章』で映画デビューし、続く『愛のお荷物』(1955年)で川島雄三監督に気に入られ、以後『幕末太陽傳』(1957年) 『貸間あり』(1959年)『しとやかな獣』(1962年) など川島作品の常連俳優となる。


一方、大学時代の演劇仲間である今村昌平監督の作品には『盗まれた欲情』(1958年) から『うなぎ』 (1997年)までほとんどの作品に関わっている。
1959年『にあんちゃん』でブルーリボン助演男優賞、1966年『人類学入門』でキネマ旬報主演男優賞を受賞。俳優活動の傍ら、随筆家、歌手として他方面でも活躍。
ラジオパーソナリティとしてはTBS系ラジオ「小沢昭一の小沢昭一的こころ」は1973年開始から生涯を閉じるまで続き、計10414回、40年続いた番組となった。

館理人
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インタビューは今村昌平監督作『うなぎ』(1997年)公開のタイミングで行われました。

『うなぎ』は出演:役所広司、清水美砂、柄本明、倍賞美津子、田口トモロヲ、ほか。カンヌ映画祭で作品賞に相当するパルム・ドールを受賞しました。ちなみに今村監督、『楢山節考』でもどう賞を受賞しています。

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今村映画には2度3度観る喜びがある

(取材・文 轟夕起夫)

 小沢昭一氏といえば、珍にして怪なる人物を自在に演じ、サっと場面をサラってしまう役者界のゴト師。

 その名バイプレイヤーぶりについては例えば、3本立て映画館のスクリーンに3本掛け持ち状態で登場し、さらに次週の予告篇にまで顔を出したという、そんな若き日のエピソードからも窺い知れよう。

 ──と、ここまではほんの前口上。

 映画や演劇、あらゆるフィールドにて言葉の真の意味での、“芸能”活動を展開してきた小沢氏。ある著作に次のような一文があった。

「実際私も、今村から、キレイゴトですまされない仕事のしかたを教わった。それは仕事だけでなく、人生への立ち向かい方すべてについてである」 (『わた史発掘』より)

 今村昌平と小沢昭一。一監督と一俳優との関係を超えた、同志と呼ぶべきアイダガラ。その映画的共闘の一端を小沢氏に語っていただいた。

今村映画の常連俳優

──小沢さんは、今村映画の常連俳優なわけですが、『うなぎ』では産婦人科医役でワンシーンのゲスト出演ですね。

小沢 ……もう(今村映画も)これで最後かなぁと思ってねえ……まあどうやらそうでもなさそうなんだけど(笑)。最後っていうのはね、今村さんの体力の問題ではなく、現在の日本映画界の情勢を考えると。ひとつ前の企画がクランクイン寸前で消えてんのよね。これ、町のヘンなオヤジ役で楽しみにしてたんだけど、結局は潰れちゃったんですよ。僕は、今村映画にはほとんど全作関わってきましたから。出演したのも彼のデビュー作の『盗まれた欲情』からだし。『女衒 ZEGEN』一本だけですかね、まったく関わってないのは。あのときは自分の劇団が忙しかった。たとえ出てなくても『人間蒸発』では宣伝担当なんてえのをやりましたよ。

『神々の深き欲望』は原作が、「パラジ−神々と豚々」って芝居だったんだけど、それは僕の劇団でやったもの。それから『ええじゃないか』では、雇われプロデューサー(笑)。そんな風に毎回長いこと関わってきてるんで、まあ『うなぎ』にもどこかにちょっとワンシーンでもいたほうがいいかなと思ったんですよ。

今村昌平との出会い

──今村監督とは、早稲田大の劇団〈学生劇場〉で出会って、それで今日へと至っているわけですよね。

小沢 うん、それもあるけれど、何となく川島組からの繋がりというのもある。川島雄三さんと今村さんは“監督と助監督”という頃から一心同体、絆の強いコンビだったから。川島作品にずっと出させてもらっていた僕が、その流れで今村作品にも続いてるっていうね。

──『盗まれた欲情』では小沢さん、ケチで小心モノの地主の息子役でしたけれど。

小沢 あれで一番好きなのはさあ、村の女の子をさらおうとして僕か若い衆だかが追っかけられるんだったと思うんだけど、背広にソフト帽っていうスタイルで、田園地帯に入っていく。ところが、帽子が大切だからフトコロにしまう。でも結局全身潜って、帽子も汚れちまうという、そんなようなギャグのセンスが面白かった。本来、今村さんって『マダムと泥棒』みたいな、イーリング・コメディが撮れる人だと思うんだけどなあ。

──今村監督といえばやりたい映画しか撮らないということで有名ですが、この当時は? 

小沢 あの頃はまだ会社の企画でしょうね。もちろん本人はやりたいものを通していくタイプなんだけど。いわゆるプログラムピクチュアの際たるものが2作目の『西銀座駅前』ですよね。50分ぐらいのフランク永井の歌謡映画。あれで主演の薬局屋の主人・柳沢真一が無人島で女と暮らしたいなんて夢を持ってるでしょ。あれと『うなぎ』に出てくるUFOとの接近遭遇を試みる青年。突拍子もない夢を見てるあたりが似てるなって思った。

今村映画が描く人間

──先ほどのイーリング・コメディのようにブラックな、それで人間洞察が鋭くて、深い重喜劇のスタイルというのは、川島作品から受け継いだものも大きいですよね。

小沢 そうそう。昔っから映画っていうのは善人と悪人が出るに決まっているんだけど、今村映画は善人の悪いトコロ、悪人のいいトコロを描くんだな。『うなぎ』だって柄本(明)さんの役はとっても悪いヤツなんだけど、何というかちゃんとそこには魂の叫びがあったでしょ。マルゴト人間をとらえる。という言葉を今村さん、よく使ってましたよ。適当に登場人物を配置したりキャラクターを設定したりするのではなく、マルゴトの人間を描きたいんだって。

『神々と豚々』みたいに豚と神様の間に人間を置く。その間を行ったりきたりするのが人間なんだって、そういうとらえ方があの人にはあると思う。人間存在の複雑さとか奥深さを、歪めず描いていく点が凄いといつも感じるんですけど。見終わってズドンと重くね、のしかかってくるものがある。

──マルゴトの人間を描くために、現場ではどんな演出をされるんでしょうか?

小沢 たとえば僕がやった『エロ事師たちより 人類学入門』で、監督の指示で忘れられないのは、エロ事師を演じるときに、「校長先生みたいなカンジで行こうよ」って言われたの。それで一遍にイメージ湧いてきたね。女衒やポン引きみたいな、いかにもな感じじゃなくてね。校長先生も人の子だ、という考えがあの人にはあるから。校長先生もエロ事師もセックスを前にしたら同じだっていう。

──では今回の産婦人科医役では?

小沢 それがね、お約束通りの産婦人科医でいって下さいって(笑)。昔から医者の3点セットっていうのがあって、眼鏡かけて衣着て聴診器を持てば、誰でも医者になれるんですよ。で、そういうんじゃなくて、外科医みたいな無愛想なぶっきら棒なのをイメージしていたら、お約束通りで、って。まあこれは、ワンシーンだけの出演だからでしょうな。

今村映画のキャスティング

──今村監督は役者、キャスティングに関してもこだわるほうだそうですね。

小沢 それはものすごく凝りますね。『ええじゃないか』のときなんて政治家の河野洋平さん(当時新自由クラブ)まで引っ張り出してきて。あれには俺参ったよ(笑)。雇われプロデューサーだったから交渉に行かなきゃなんなくってさ。代議士の事務所に行って、お願いして出ていただいたんだけど。

今村さんは日常的な生活感のある役者が好きなんだよね。さっきも言ったように人間のウラオモテをマルゴトとらえたい人だから。キャスティングにもえらく時間がかかります。

──それが高じて一時期今村映画は、既成の役者を使わず、カメラが一般人を追うドキュメンタリーに傾倒していったんですね。

小沢 そう。『人間蒸発』から『にっぽん戦後史 おんぼろマダムの生活』まで、役者じゃないのを撮りたくって仕様がなかったんだろうね。『人間蒸発』はプライバシー問題を引き起こして、大変だったなあ。記者会見を開いたり監督を取材陣から逃がしたり。いまのワイドショーの走りですかね。まあ結局はその限界を感じて、役者でフィクションを作るほうに戻ってきたんだけども。

今村昌平のシナリオ

──今村監督はシナリオ作りにも凝るそうで。

小沢 もう一所懸命やるよね。とにかくあの人は取材を楽しむのよ、ものすごく。カゲで僕ら、戸籍遊びなんて言ってました。あるいは、警察遊びとも。

ホントにね、刑事みたいにウラをとるのが好きなのよ。つまりひとりの人間を深く掘り下げるために、それに類似するモデルを考えたり探して、根こそぎ調べあげるんです。その人の歴史、宇宙を完全にイメージとして作りあげ、果てはいまでいうDNAを辿っていくんですね。たとえ脇役のひとりであってもトコトン。だからついつい映画は脇役ひとりひとりにまで焦点を当てて撮りたくなっちゃうんだろうね。

──小沢さんが主演で、今村さんがシナリオ参加もしている西村昭五郎監督のデビュー作『競輪上人行人記』のときですが、西村さんによると今村監督、寝転んで原稿用紙の裏にちっちゃい豆つぶのような字でグチュグチュ書いていて一向に進まなかったそうで(笑)。

小沢 だいたいね、そのカンヅメになる旅館選びから大変なんですから(笑)。ホンに適した旅館でやらないとダメなんだ。この映画だとこういう所のこの旅館って凝るんですよ。あれラブホテルだったと思うんだけど、『エロ事師たち』を書いているときに、神戸に遊びに行ったの。で、一度買物をして戻ってね、「たいしたものもねえけど買ってきたよ」ってワっと襖を開けたら、中で“うなぎ”が2匹絡んでるんですよ! 部屋を一階間違えちゃったんだな(笑)。各階みんな同じような作りでしょ。もう土下座しましたよ。でもああいうときって男は慌てるんだけど女の人はわりと平気なのかなあ、しっかりそのままの態勢でにらみつけられました。

──土下座しながら、それでもちゃんと観察してらっしゃるところがスゴい(笑)。

小沢 まあ、さっき戸籍遊び、なんて言いましたが『うなぎ』でもそれはね、ヒロインとその母親との繋がりに出ている。あれは一種『神々の深き欲望』と同じようなね、つまり当時はパラジ(血縁関係)って言葉で言ってたんだけど、そういうとらえ方ができる。ですから『うなぎ』にはいままでの今村映画の要素がいろいろ流れ込んでいて、それが割と片意地はらずにね、出てるのがいいね。『にっぽん昆虫記』『赤い殺意』も入っているでしょ。

今村映画のヒロイン

──そこで思うのが今村映画のヒロインなんですが、『赤い殺意』の春川ますみ、『人類学入門』の坂本スミ子、それから『神々の深き欲望』の沖山秀子やら『復讐するは我にあり』の倍賞美津子など、逞しいヒロイン像がかつてありましたが、近年はグっと細身のヒロインが多いような気がするんですが。

小沢 ウーンとね、顔立ちでいうと『豚と軍艦』『にっぽん昆虫記』の(吉村) 実子みたいのが好きなんだよ。あと『にあんちゃん』の一番下の妹役(前田暁子)みたいの。ああいう目が好きなんだよな。そういう点では今回の清水美砂さんもイメージが繋がってますね。

『うなぎ』は今村エッセンスがいろいろコンパクトに入っている映画だなあって感じました。しかも彼が歳を経たというか昔みたいに押して押して押しまくるバイタリティではなく、ある冷静さ、シャープな静けさをたたえている点が好きですね。

今村映画のバリエーション

──しかし今村映画ってホント、何かコピーのような一言で表現しにくいですよね。

小沢 混沌というか、いまでいう複雑系ってやつじゃないかな(笑)。混沌とした、ハッキリとしない日本人の正体、そういうところを掘り下げていくのが今村映画の妙味。もし一言でキャッチフレーズをつけるとするなら一言では言えない映画(笑)。まさにそこが魅力なんですから。

今村昌平の編集

──なるほど(笑)。ところで最後に長年の疑問をお聞きしたいのですが、『復讐するは我にあり』で小沢さんは工場長の役で出演されていながら、本編でカットされていますね。これはなぜなんでしょう?

小沢 そうなんだよ!(笑)。ポスターには出てるんだけど映画には出てないんだよなあ。あれは不思議なんだけど、撮ってるときにたしか俺、屋根みたいなところに上がってたな。で、時間がかかるわけだ、ロングショットで。それで屋根から「そんな大騒ぎすることねえよ。どうせこのシーンはカットだよ」って怒鳴ったことを覚えてる。監督は「そんなことはないです。ちゃんとやってくれなきゃ困ります」なんて言ってたけど、な〜んだ結局力ットかよって(笑)。

予想どおりだったね。でもあってもなくてもこっちはあんまり驚かない。ギャラさえ貰えればいい(笑)。長くなっちゃうんだよな、脇役まで十分に撮っていくから。だから最終的な編集であの人は苦しむ監督ですよ。自分で調べたものを、脚本の段階で絞りきって、その絞りきってるものを撮って、でも役者が面白いことをやったりしたらまたそこで膨らんで、というようなことがあると仕方なく俺のシーンは最初にカットされちゃうんだよな(笑)。

今村昌平の演出

──アドリブは許されるんですか?

小沢 『果しなき欲望』のときにね、あれ本邦初のオナニーシーンっていうの、やってみたんだけど。わかった? もう一回見ればわかるよ(笑)。川島さんも本邦初っていうのが好きでね、今村監督は「あ、やろう」って。「その代わりそこはかとなくやってくれ」なんて言われたね。そういえば『うなぎ』でも冒頭のベッドシーンのところでボケて映ってるんだけど、枕もとに大人のオモチャが置いてあったよね、2種類、いや3種類だったかな?

──ああ、たしかにありましたありました。さすが! 元エロ事師スブやん(笑)。

小沢 そういう楽しみっていうのが今村映画にはありますよね、2度3度見る喜びが。あれがあるとないとでは不倫している男と女の関係が変わってくるし、しかもそれがね、ロングで写して、ポンとアップなんかで拾うことをしないところが、あの人の粋さっていうか。だから『果しなき欲望』もね、もう一回見ればわかるって(笑)。

(取材・文 轟夕起夫)

轟

キネマ旬報1997年6月上旬号掲載記事を改訂!

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小沢昭一関連記事、こちらにあります。

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今村昌平監督作はあちこちの動画配信サービスで鑑賞することができます。

2020年8月現在で、「見放題タイトル」で調べてみました。

U-NEXT…『復讐するは我にあり』『神々の深き欲望』『ええじゃないか』『11’0901/セプテンバー11』(オムニバス)

Netflix…『赤い殺意』『にっぽん昆虫記』『復讐するは我にあり』

Hulu…『復讐するは我にあり』『ええじゃないか』

TSUTAYA TV…『復讐するは我にあり』※レンタルで他タイトルあり

Amazonプライムビデオ…『復讐するは我にあり』※レンタルで他タイトルあり

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