石原裕次郎と浅丘ルリ子共演の傑作ロードムービー『憎いあンちくしょう』

館理人
館理人

石原裕次郎の代表作のひとつ、『憎いあンちくしょう』のレビューです!

データ

1962年
監督:蔵原惟繕
脚本:山田信夫 撮影:間宮義雄 音楽:黛敏郎
出演:石原裕次郎、浅丘ルリ子、芦川いづみ、小池朝雄、長門裕之、川地民夫、ほか

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日本縦断ロードムービー

 太陽だ。ギラギラと輝く太陽だ。いばらの道を踏みわけてきた二人はいま、天から注がれるまぶしいまでの祝福をカラダ中で受けとめている。緑の山の頂き。澄みわたった青空。男は逞しい胸元をあらわにし、背中に光る汗を浮かベ、女は息を弾ませては高鳴る鼓動に二人の未来を聴く。

 大地に伏し、転げ、笑い、見つめあい、かたく抱きあって、そして太陽に融けこんでゆく、二つの肉体──。

 公開当時のポスターのコピーは「東京→九州 ジープを駆って一六○○キロ! 日本縦断に若さと情熱をぶちまける 豪快 裕次郎!!」。

共演・浅丘ルリ子とのラブストーリー

 その日本縦断1600キロの旅路の果てに用意されていたものとは、男と女の絶頂感に満ち満ちた、くちづけだった。石原裕次郎と浅丘ルリ子の、永遠の太陽との、くちづけだった。

 のちに、ジャン=リュック・ゴダール監督の『気狂いピエロ』(1965年)の中でジャン=ポール・ベルモンド扮する主人公がダイナマイト自爆の末に手に入れた、あの永遠の太陽。

『憎いあンちくしょう』は、自爆ではなく、荊の道を踏破してみせることによって詩人ランボーの美しい一節と出会う、裕次郎とルリ子の『気狂いピエロ』である。

裕次郎とルリ子の『気狂いピエロ』

 マスコミの寵児とマネージャー兼恋人。それがここでの二人の役柄だ。裕次郎は日々、殺人的スケジュールに追われまくる人気タレント“北大作”に、不世出のスターとしてのセルフ・イメージを投影し、ルリ子のほうはといえば、あまたの無国籍アクションの中であてがわれてきた典型的ヒロイン像とたもとを分かち、自らの意志で行動する“榊典子”という魅力的なキャラに血肉を与えた。

 二人が永遠の太陽に融けこむためにはまず、アンナ・カリーナとジャン=ポール・ベルモンドのごとく、荊の道を求め、日常から脱出しなければならない。

蔵原惟繕と山田信夫の監督&脚本コンビ

 東京での北大作と榊典子の日常。それは非常に手のこんだルールで成立していた。

 出会ってから2年間、いや正確には370日、二人には肉体関係がない。くちづけさえもしていない。なぜか? いつまでも新鮮な関係でありたいと、二人が“ゲームの契約”を交わしたからだ。

 このゲームの繰り返しだけが、二人の日常となっている。そして、テレビにラジオに忙殺される男のスケジュール管理を愛と取り違えてしまった女にとって、ゲームはいまも有効であり、かたや今日が昨日の続きでしかなくなった男にはもはや、新たなゲームが必要であった。

 1960年代を通して、“愛の不毛と可能性”を趣向を変えて問うてきた監督&脚本コンビ、蔵原惟繕と山田信夫は倦怠から目を逸らそうとする二人にここで、対照的な愛のカタチをぶつけてみようと思いたつ。

 同じ2年間、一度も会えなかったものの手紙のやりとりだけで互いの思いを通わせてきたという恋人たち(小池朝雄&芦川いづみ)──「愛は作るものではなく信じるもの」という純粋愛を、二人の前に立ちはだからせたのである。

中古ジープとXKジャガー

 遊戯愛vs.純粋愛。それは1600キロの旅路の中で雌雄を決するべきものだった。熊本の無医村で働く恋人に、送りたくても送るすべのない中古ジープ。自分の番組で知ったその純粋愛のシンボルを、独断で仕事を全て放り出し、愛車XKジャガーをも捨てて、東京→九州間を自力で陸送しようとする北大作。

「……だけど誤解しないでくださいよ。僕はあなたのためにやるんじゃない。僕は僕自身のためにやるんだ。僕の手でジープを運んで、あなたたちの愛、すなわち純粋愛をこの目で確かめたい!」

 ジープの持ち主にそうせんした言葉は、同時に自分たちの愛のカタチへの懐疑であり、新たなゲームの始まりでもあった。つまりは、いまだ370日間のゲームを愛するマネージャー兼恋人への挑戦状であったのだ。

 が、それは、厳しい荊の道だった。

男と女の闘争を描くアクション大作

 残されたXKジャガーで追いかけ、なだめ、罵倒し、メディアを総動員したあらゆる方法で、女はこのルール違反の男を引き戻そうとする。映画はいつしか、男と女の闘争を描く“アクション大作”になってゆく。

 さあ、どうなるか。男にとってあとは、最愛の相手がスケジュール表を捨て、新たなゲームに参加するのを待つだけである。そのとき彼女は、アンナ・カリーナの凜々しさとジャン=ポール・ベルモンドの優しさとを、きっと合わせて体現してくれることだろう。

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魅惑のジャンル「ムード・アクション」とは?

 1957年の海洋アクション『鷲と鷹』で初共演、しかもキスシーンを演じた石原裕次郎と浅丘ルリ子。

 そのコンビが本格的に始まったのは、『銀座の恋の物語』(1962年)からであった。記憶喪失に陥ったルリ子との愛を取り戻すことがそのまま主人公・裕次郎のアイデンティティの回復につながるという、メロドラマと日活アクションの王道テーマを巧みに融合させた作風が成功し、このスタイルはさらに『憎いあンちくしょう』に発展的に継承され、やがてムード・アクションと一括される魅惑のジャンルで花ひらくことになる。

 明朗な青春スター像をかなぐり捨て、情念に満ちたアウトサイダーの世界へと足を踏み入れた裕次郎。

『赤いハンカチ』『夕陽の丘』『二人の世界』『帰らざる波止場』『夜霧よ今夜も有り難う』など、1962年から67年まで、彼はルリ子演じるヒロインへの愛のため、そしておのれ自身、男のプライドのためにと、二重の闘いの狭間で揺れ動くムード・アクションの魅力を展開したのであった。

轟

1995年「映画100物語 日本映画篇〈1921―1995〉」掲載記事を改訂!

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