俳優語り【森繁久彌】誰にでもマネできないリズムとアドリブ。ギラつきのない、灰汁を抜いた芝居へ

館理人
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森繁久彌とは、1913年生まれ、2009年に亡くなりました。映画・テレビ・舞台と主演で活躍し続けた大俳優。晩年も現役でした。

館理人
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戦時はNHKのアナウンサーとして満州に赴任、戦後33歳で帰国し、もともと携わっていた演劇界に戻り、翌34歳の時、端役で映画デビューしました。

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ちなみに大ヒット曲『しれとこ(知床)旅情』は森繁久彌が作詞作曲&歌唱! 歌手としても紅白歌合戦に7年連続で出場していたりもします!

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森繁久彌がどんな役者だったのか。注目は社長シリーズが終わった後の70年代。齢でいえば森繁久弥50歳代の終盤以降!

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当時の出演作の数々から、俳優・森繁久弥を読み解くレビューです!

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役者・森繁久彌ワールドとは

 東宝の“顔”であった森繁久彌は、『社長学ABC』(1970年)、『続 社長学ABC』(1970年)で『社長』シリーズにピリオドを打った。

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森繁久彌主演、浮気願望があるけど仕事熱心、人徳がある社長役で人気を集めた『社長』シリーズは、1956年から70年まで続きました。

ちなみに社長に忠実なサラリーマンには小林桂樹が。小林桂樹についてはこちらで紹介しています。

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『社長』シリーズ終了の1970年といえば、森繁久彌57歳の時です。

 以降70年代は、それまでとは少し趣の違う“森繁ワールド”が広がった。

 端的に言えば、『夫婦善哉』(1955年)や『猫と庄造と二人のをんな』(1956年)で体現したダメ男を、さらにダメにしたような初老の男、そういったキャラクターを好んで演じるようになるのだ。

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『夫婦善哉』は『社長』シリーズの前、1955年の映画で、森繁久彌の出世作。

商家のドラ息子と、売れっ子芸者の駆け落ち後が描かれる名作です。

 まるで1967年から始まったライフワークのミュージカル、『屋根の上のヴァイオリン弾き』の父性の塊、デヴィエ役とは差別化を図るかのごとく。

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森繁久彌版『屋根の上のヴァイオリン弾き』は帝劇で初演以降、1986年までの約20年間で公演900回を数えました。

ちなみにその後、テヴィエ役は上條恒彦、西田敏行、市村正親が務めています。

 その代表例が松竹映画、『喜劇 女は男のふるさとョ』(1971年)から始まる森﨑東監督の“女”シリーズ4作でのストリッパー斡旋所“新宿芸能社”のオヤジ役だった。

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“女”シリーズ4作とは、『喜劇 女は男のふるさとヨ』のほか、『喜劇 女生きてます』(1971年)、『喜劇 女売出します』(1972年)、『女生きてます 盛り場渡り鳥』(1972年)の計4本のことです!

 名は金沢といい、踊り子たちには「おとーさ〜ん」と呼ばれている。

 おカミさんは中村メイコ、左幸子、市原悦子と代わったが、森繁久彌だけは不動。

 助平でしみったれてて情けなくて、でも人情味があって、男の本質そのもの。いや、人間そのもの。ギラつきのない、灰汁を抜いた芝居は、流石なかなか出来るものではない。

 森﨑監督とは『街の灯』(1974年)もあるが、松竹映画では『男はつらいよ 純情篇』へのゲスト出演も忘れ難い。

 渥美清にとっては若き頃から尊敬していた名優とのサシの競演。飄々かつシミジミと短い時間を二人は過ごすのだが、至芸対至芸という意味では、とても凄みを感じるシーンになっている。

 至芸対至芸をもうひとつ。勝新太郎との競演だ。

 東宝・勝プロ配給、頑固な老十手持ちを演じた『座頭市御用旅』(1972年)ではまだ序の口、いや、そこでもぶつぶつ独りつぶやいたり、森繁久彌は我流を貫いているのだが、TVシリーズ 『新・座頭市3』の『渡世人の詩』前後編、監督は勝新太郎。これはスゴイ。

 森繁久彌扮する老侠客と酒を酌み交わす市ッつあん、「ぼうふらの唄」を所望する。「ぼうふらが 人を刺すよな 蚊になるまでは 泥水のみのみ 浮き沈み」。

 勝新太郎対談集「泥水のみのみ浮き沈み」を読むと、とんでもないエロ噺が満載なのだが、森繁久彌が勝新の演技に心酔しているのがよく分かる(その逆も)。

 互いの芝居の根底にあるものが同じで、「セリフは頭で覚えるのではなく、飲め」「本当はクソにして出しちゃえ」「全部、捨てちゃえ、セリフ。そうすると、グーっと引いてね、おまえさんの全身が撮れる」。

 シビれる。が、この芸談、参考になる人は少ない。誰にでもマネできるものはない。アドリブとリズムの人、森繁久彌、天晴れ。

 認知症の老人役に憑依した『恍惚の人』(1973年)。

 郷ひろみと共演、盟友・久世光彦監督の『夢一族 ザ・らいばる』(1979年)で84歳の結婚詐欺師を演じ、また、それより前に結婚詐欺師役をあてがわれ、それが何と“森繁久彌”をカタる男というNHKドラマ『赤サギ』など、1970年代の映画、TVドラマの森繁久彌は、他の時代よりは華々しくはないが、とってもいかがわしい魅力に満ちている。

轟

キネマ旬報2010年1月号掲載記事を改訂!