『THIS IS ENGLAND』(2006年・イギリス)の監督はシェーン・メドウズ、出演はトーマス・ターグーズ、スティーヴン・グレアム、他。
レビューをどうぞ!
繁栄から取り残された街で生きる少年——。マイノリティの抱える閉塞感が胸に染みる
1980年代にスキンヘッド文化の洗礼を受けたシェーン・メドウズ監督の、子供時代を色濃く反映した青春映画。また、普遍的な少年の成長譚としても秀逸。
インディペンデント作品ながら、英国アカデミー賞最優秀イギリス映画賞のほか、数多くの賞を獲得。
トゥーツ&ザ・メイタルズ、U.K.サブス、スペシャルズなど、スキンヘッド文化を語る際に外せない楽曲も効果的に使われている。
・ ・ ・
シンプルだが大胆なタイトルである。直訳するなら「これが英国だ」。といっても首都ロンドンの話ではない。イングランド中部の繁栄からは取り残された町を舞台に、映画は“1983年”にフォーカスを合わせる。
主人公は12歳のショーン少年。グッとくるツラ構えの彼が、スキンヘッドで生きることを自ら選ぶ、胸をギュギュっと衝かれる物語だ。
1983年といえば、“鉄の女”の異名を取ったマーガレット・サッチャー首相の政権下。
強硬な改革を進めた結果、規制緩和政策による格差拡大が起こり、移民流入も増え、失業率は10%を超えて300万人が職を求めていた。
ショーン少年の住む町は、まさしくサッチャリズムに切り捨てられた地域。この社会背景は一応押さえておいたほうがいい。
つまり本作では、マイノリティの抱える閉塞感と、それに付随し変質していった英国スキンヘッド・カルチャーが併せて描かれているわけである。
孤独なショーン少年は自分を受け入れてくれた若者グループに倣って、スキンヘッドにする。
もともとスキンヘッドは、労働者階級のファッションとして1960年代から英国に根づいており、模範となった若者グループは、ある種のファッションリーダー的な存在でもあったのだ。
ところがそこに、刑務所帰りの男が戻ってくる。名前はコンボ。
同じスキンヘッドだが、英国最大の極右政党ナショナル・フロント(=国民戦線)にかぶれており、パキスタン人ら移民を排斥する運動に加担。彼の場合、スキンヘッドの鋭角的イメージと暴力性が結びついてるキャラクターで、次第にショーン少年の行動にも影響を及ぼしていく。
しかしコンボという男、当時の英国格差社会の象徴でもあり、単なる悪人ではない。
彼と少年の交流のなかに、「これが英国だ」と感じる瞬間がいくつも浮かび上がり、思わず胸を締めつけられる。
監督と脚本を手がけたのはシェーン・メドウズ。名前からわかるように、実は自伝的映画である。今もスキンヘッドだという彼。英国の“光と影”を一身に引き受けながら、映画づくりを続けている。
週刊SPA!2009年12月15日号掲載記事を改訂!