復刻 映像エンタメ仕事人インタビュー【カメラマン・山本英夫】

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館理人
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映像エンタメのインタビュー記事となると、作品の「顔」である俳優さんや、スタッフ全体を牽引する監督さんのものが多いですよね。

館理人
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とはいえ、俳優・監督以外のさまざまなプロにもお話を伺っております、当館の映画評論家・轟。

館理人
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今回の復刻インタビューはカメラマンの山本英夫さん! 2013年、撮影を担当した映画『地獄でなぜ悪い』の公開のタイミングでのインタビューですが、それまでの仕事についても伺っています!

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山本英夫 経歴

やまもと・ひでお
1960年、岐阜県出身。
『日本製少年』(1995年)を皮切りに日本映画の重要作を数々担当。特に三池崇史監督とのコンビは最多で、『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999年)は伝説の一本。
『蛇イチゴ』(2003年)、『フラガール』(2006年)、『恋空』(2007年)、『麟の翼 劇場版・新参者』(2011年)、『全裸監督』(2019年)の他、『パッチギ!』(2004年)などで井筒和幸監督と、『アマルフィ 女神の報酬』(2009年)などで西谷弘監督と、三谷幸喜監督とは『THE有頂天ホテル』(2005年)、『ステキな金縛り』(2010年)、『清須会議』(2013年)、『記憶にございません!』(2019年)などがある。

館理人
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まずは『地獄でなぜ悪い』についてのコメント!

映画『地獄でなぜ悪い』について

8ミリのインディーズ映画で出発した園子温監督が、過去の自分と対話し、現在にたたきつける映画賛歌。

山本 今って映画がフィルムからデジタルに変わる歴史的な転換期でして。僕は100年以上続いてきたフィルムが忘れ去られつつある現状に危機感をもっています。本作はデジタル撮影ですが、園監督に提案し、全体の四分の一、過去のエピソードは16ミリフィルムで撮りました。自主映画監督やヤクザらが映画づくりをする物語で、フィルムへのオマージュあふれる内容なので、その効果は十分出ていると思います。

館理人
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では! 本編どうぞ「カメラマン・山本英夫」インタビュー記事です。

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カメラマン・山本英夫 インタビュー

(取材・文 轟夕起夫)

「監督とのキャッチボールで化学変化が起きるのを期待している」

山本 久々に弾けた、感覚だけでグイグイ押し通した現場でしたね。

 そう語るのは園子温監督作『地獄でなぜ悪い』の撮影で大いに気を吐いたカメラマン、山本英夫。

山本 ことばを尽くして理解し合うのもいいけれど、監督とフィーリングでキャッチボールするのもおもしろいですね。1+1が2ではなく、いきなり5とか6になる可能性がある。園監督はそういう方でしたが、どんな監督さんとも化学変化が起きるのを期待しています。

 山本さんのキャリアの出発点は横浜放送映画専門学院だ。ひとつ下に(当時は接点がなかったが、のちの盟友)三池崇史監督がいた。

山本 今は日本映画大学に名前が変わりましたが、僕は4期生で、まだ学校法人として認められてはいない頃。今村昌平監督が始めた私塾みたいなものでしたね。何となく入ってしまったんですけど、毎週1回、映画評論家の淀川長治さんがセレクト作を上映後、お話をしてくださったのが楽しかったです。

 しかし、周囲は熱狂的な映画青年ばかり。会話に全くついていけず、疎外感もあったという。そんな彼にやがて、転機が訪れる。

山本 実習でたまたま、初めて16ミリのカメラを手にしたんです。ファインダーを覗き、ド素人ながらも10分くらいの短編を撮って現像した映像を見たところ、妙にエキサイティングな気持ちになり、映画に目覚めました。学校に行って1年ほどたってようやく(笑)。

 その実習指導担当の、瀬川昌治監督の紹介で、卒業後は国際放映の撮影部見習いに。いざ現場へ!

館理人
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瀬川昌治監督は、渥美清、フランキー堺、ザ・ドリフターズなどが主演の喜劇映画を多く手掛け、TVドラマでは「Gメン’75」や「赤い」シリーズ、「スチュワーデス物語」などの演出をされています。

山本 実質的なスタートラインに立ちましたね。80年代前半は16ミリのTV映画全盛期で、『太陽にほえろ!』『特捜最前線』『Gメン店』と365日、現場、現場で、失敗も込みでいろいろと学んでいきました。そうだ、助監督時代の三池さんとやった『ザ・ハングマン』シリーズも忘れられないなあ。

 1995年、及川中監督の、自主映画から劇場公開へと至った『日本製少年』でカメラマンデビュー。翌1995年は細野辰興監督の『シャブ極道』、さらに三池監督の『大阪最強伝説 喧嘩の花道』『極道戦国志 不動』と大車輪の活躍を──。

山本 自分のルーツはそういったインディーズ的な作品の現場なんですよ。バジェットは少なくてもエネルギーがみなぎっていて好き放題やれた。今回の園組、『地獄でなぜ悪い』もまさに、あの疾風怒濤期を彷彿させる現場だったんです。僕は、インディペンデントな精神からこそ傑作は生まれる、と信じています。

 ターニングポイントは、1998年公開の北野武監督の『HANA-BI』。自身の関わった作品が世界へと広がっていく感覚を味わった。

山本 文化庁の留学で北野組の柳島克己さんが1年間日本にいなくなり、「カメラマンをどうする?」ということになったそうで。僕はまだ、独り立ちして数年でしたが、柳島さんの下で何本か北野作品の助手をやっていたので白羽の矢が立ったんです。

『HANA – BI』はベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、さらに “CAMERIMAGE”という撮影専門の映画祭があって、そこでシルバー・フロッグ(銀の蛙)賞を獲得してるんですね。ビットリオ・ストラーロ、ビルモス。ジグオンドらが審査員で、名カメラマンが選ぶ、僕らにとって最高の賞ですよ。

ポーランドで受賞式が開かれ、金の蛙賞は『セントラル・ステーション』、僕は37歳でいちばん若く、周りは50〜60代のベテランの方々。あまりに若かったので、ステージに僕が上がったらどよめきが起きました。

 もはや、日本を代表する巨匠のひとりである。カメラマンを志す若人に、ひと言メッセージを。

山本 今はとても便利な時代で、極論を言えば、デジタルカメラは置けば“映像が撮れてしまう”わけですが、労少なくして現場を回すのがいい映画づくりだと思う人は、僕はこの業界から身を引くべきだと考えます。ゼロから発想し、キャスト、スタッフとモノをつくることの苦しさ、楽しさを享受できる、心も含めた体力をぜひ養ってほしいですね、時間をかけてでも。

 観客には「このが好き」ではなく「作品が好き」と言ってもらいたいという山本さん。映画を芯から愛している人なのであった。

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カメラマンとして印象に残る映画、この1本は?

館理人
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「カメラマンとして印象に残る映画、この1本は?」の質問に挙げていただいた作品が、『惑星ソラリス』です。監督:アンドレイ・タルコフスキー

映画『惑星ソラリス』について

1972年公開。惑星を覆う、知的存在である「海」の謎をめぐるSF。巨匠タルコフスキーの傑作の一本

山本 アンドレイ・タルコフスキー監督の作品はどれも好きなんですが、これは根源的な人間の思い、喪失感をつづっていてとりわけ胸に染みる! 美しくて、残酷な世界観を「画」にした、被写体に対するカメラの付かず離れずの“距離の取り方”も神ワザ的です。

轟

DVD&ブルーレイでーた2013年10月号掲載記事を再録です

館理人
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カメラマンへのインタビュー記事は他にこちらもあります。