『キル・ビル Vol.1』はマカロニ・ウエスタン、クンフー、スプラッタ時代劇に怪獣映画、ブラックスプロイテーション…埋もれた名作映画祭!

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館理人
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『キル・ビル』は、『キル・ビル Vol.1』(2003年)、『キル・ビル Vol.2』(2004年)の二部作です。もともと1本ものでスタートしたのが、長くなっちゃって2本になったという映画。

そのうちの『キル・ビル Vol.1』についてのレビューをお届けです。

クエンティン・タランティーノ監督の映画好きがよーくわかる1本。タランティーノが『キル・ビル』に盛り込んだ元ネタ映画を辿って観るのも面白いです。

【データ】
監督:クエンティン・タランティーノ、中澤一登(アニメパート) 美術 : 種田陽平ほか 出演:ユマ・サーマン、デビッド・キャラダイン、ダリル・ハンナ、マイケル・マドセン、ルーシー・リュー、千葉真一、栗山千明、國村隼、風祭ゆき

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タランティーノの脳髄と記憶の端々を思う存分ぶちこんだ、特製の闇鍋ムービー

 かつて「汚い店構えのラーメン屋はなぜか味がいい」なんて俗説があった。もしかしたらどこか裏ぶれた、“名画座”という、いまや絶滅寸前の場所もそれに近かったのかもしれない。

 そこで観たは映画はどんなにクダラなくても、妙に身に染みたものだ。

 クエンティン・タランティーノが映画狂なのは高校中退後、レンタルビデオ屋で働いていたことも大きいが、もともとTVと映画漬けの少年時代に起因している。

 とりわけ10代にドライブイン・シアターや、グラインドハウスと呼ばれる場末の名画座で浴びるように観た、マカロニ・ウエスタン、クンフー映画、日本のスプラッタ時代劇に怪獣映画、ブラックスプロイテーション・ムービーなどの“濃ゆい体験”は決定的だった。

 そういった1960年代後半から70年代前半のプログラムピクチャーが“男の活劇バカ一代”タランティーノを作りあげた。

館理人
館理人

“男の活劇バカ一代”と言ってますが、バカ一代ってつまりアレですよ、『空手バカ一代』! 梶原一騎原作の漫画で、アニメ化され、千葉真一主演で映画もあります!

 『キル・ビル Vol.1』は、10代の頃に形成されたタランティーノの脳髄と記憶の端々を思う存分ぶちこんだ、特製の闇鍋ムービーである。

 だから中身はB級グルメ感覚たっぷりで、ヒロインのザ・ブライド(ユマ・サーマン)とクレイジー88のクライマックスの対決なんて、ジミー・ウォング監督&主演の『吼えろ!ドラゴン、起て!ジャガー』 (1969年) や三隅研次監督のスプラッタ時代劇の傑作『子連れ狼/三途の川の乳母車』 (1972)をお手本としている。

 とにかく『キル・ビル Vol.1』には、そこかしこにあの場末名画座のすえた匂いがたちこめているのだ(ちなみにタランティーノは本作を、親交のあった故・深作欣二に捧げている。実質できあがったものは、ゴッタ煮映画の帝王・石井輝男リスペクトとしか見えないところがご愛敬なのだが……)。

館理人
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深作欣二監督についてはこちらに記事があります。

 中盤から後半、舞台が沖縄と東京 (といっても架空の!)に移るためもあって、顕著になるのがジャパニーズなテイスト。

 まず、TVシリーズ『影の軍団』コンビ、サニー千葉こと千葉真一と大葉健二が登場する(写真は映画版)。

『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』(1975年)にインスパイアされた鉄球(ゴーゴーボール!)を振り回す“GOGO夕張”には『バトル・ロワイアル』(2000年)の栗山千明。

館理人
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『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』は70年代のクンフー・ブームの先駆けとなったジミー・ウォング監督・脚本・出演の代表作。『バトル・ロワイアル』は深作欣二監督作です。

 そもそも映画全体が梶芽衣子主演の『修羅雪姫』(1973年)を下敷きにしているのだが、劇中にはその主題歌「修羅の花」、さらにエンディングには『女囚701 号 さそり』 (1972年)のテーマ曲「怨み節」(またも梶サン、名唱)までが流れる。

『キル・ビルVol.1』のストーリーは単純明快だ。組織の手で未来を踏みにじられた主人公ザ・ブライドの復讐劇。だが各エピソードを解体し、時間軸を並びかえたところにタランティーノの真骨頂がある。あるいは敵役オーレン・イシイ(ルーシーリュー)の悲惨な生い立ちを描く際に、プロダクションIGのアニメーションを使うあたりのセンスの良さ。あそこを実写にしたら酸鼻すぎて、とても見てはいられなかったろう。

 タランティーノは陽の当たらない傑作を公開するため、自らレーベル“ローリング・サンダー・ピクチャーズ”(これも1977年のベトナム帰還兵モノ、ジョン・フリン監督の『ローリング・サンダー』からのネーミンング)を立ち上げたが、今回は映画まるごと “ローリング・サンダー・ピクチャーズ”の見本市をやったような感じだ。

 つまりタランティーノが言いたいのは、「この世には、陽の当たらない傑作がまだまだたくさんある」ということ! 『キル・ビル Vol.2』はまた別の記事で。

(轟夕起夫)

轟

ワンダーマガジン2004年春号掲載記事を改訂!