岡本喜八監督映画のご紹介!ビジュアルもタイトルも、内容を想像しづらい『吶喊』(とっかん)ですが、岡本喜八監督の真骨頂、幕末時代劇のドタバタエンタメです!
レビューをどうぞ!
概要
レビュー
(文・轟夕起夫)
カネはなくても世の中に一泡吹かせたるという気概に満ちたゲリラ映画
年号が変わっても「おめでたい気持ち」になれるほどオメデタクはない。ウイルス、経済、世界情勢。どん詰まり感は深刻極まりない!
だからなのか、同じようにどん詰まっていた70年代の日本映画は今観ると、妙に胸に沁みる。1975年公開の岡本喜八監督の『吶喊』もそんな1本だ。
幕末の内戦、戊辰戦争を舞台に若者二人の“ドタバタ劇”が描かれてゆく。
戊辰戦争は、1868年に始まった、新政府軍 vs 旧幕府軍の内戦です。新政府側の中心勢力は、薩摩藩・長州藩・土佐藩で勝利し、国内を平定することになりました。
ひとりは単細胞で猪突猛進、ブサイクだがそのイチモツだけは立派な百姓の千太(伊藤敏孝)。「オモシレー!」「カッコいい!!」というノリで戦争に参加し、酷い目に遭うが、砲煙弾雨のなかでもセックスに励むバイタリティの持ち主である。
かたや、イケメンでクールな万次郎(岡田裕介)は、一貫した大義など持ってはおらず、幕府軍と官軍の間を要領よく渡り歩き、密かに軍用金の強奪を企む小賢しいヤツ。
二人の運命に絡んでくるのが、実在した「からす組」だ。これは仙台藩士の細谷十太夫(高橋悦史)が、土着の博徒や百姓といった烏合の衆を集めたゲリラ隊である。
ゲリラといえばこの映画の製作体制もまさしくゲリラ戦の様相で、喜八プロダクションの第1回作品、カネはなくても世の中に「一泡吹かせたる」という気概に満ちている。
エネルギッシュな役者陣、それを躍動する手持ちカメラで捉えたのは若き日の木村大作。喜八組は技量はプロ、心は「からす組」の集まりなのである。
最初と最後を飾る語り部の老婆役は坂本九。そう、あの「上を向いて歩こう」、「SUKIYAKI」のタイトルで全米のヒットチャート誌ビルボードのナンバー1を獲得した国民的歌手だ。
当時、NHKの連続人形劇『新八犬伝』の黒衣姿の語り部役で人気を博していたが、オファーしたのは万次郎役の岡田裕介で、現・東映代表取締役グループ会長の初プロデュース作でもあり、『吶喊』は深読みすれば、我々に向けた喜八版の「上を向いて歩こう」とも言えるだろう。
元俳優の岡田会長、この作品の前にも、岡本喜八監督作『にっぽん三銃士 おさらば東京の巻』『にっぽん三銃士 博多帯しめ一本どっこの巻』に主演トリオのひとりとして出演しています!
週刊SPA!掲載記事を改訂!
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