アンドレイ・タルコフスキーって?ソ連の映画巨匠監督がわかる!映像の詩人を解説

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館理人
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ソ連時代の映画監督、アンドレイ・タルコフスキー。名前がムズっ。でもちょっとツウな感じ。気になります。

館理人
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知る人ぞ知る巨匠! 彼を解説した記事を復刻し、ご紹介しま〜す!

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アンドレイ・タルコフスキー プロフィール

ソ連が生んだ異才

1932年、ソ連生まれ。
長編映画の監督作は7本と寡作であったが、国際的に多くの賞に輝き、映画史上に名を刻んだ監督のひとり。
人間の心の奥深くに届くテーマと叙情的な映像美、圧倒的な自然描写、深い精神性が特徴。
ソ連国内でも高く評価されていたが当局の弾圧により1984年、表現の自由を求めて亡命。
その後、故郷に帰ることなく、1986年、パリで54歳の若さで客死した。

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映像の詩人・タルコフスキーの魅力

(文・轟夕起夫)

 アンドレイ・タルコフスキーの友人でよき理解者であった黒澤明は、こんな一文を残した。

「タルコフスキーは難解だという人が多いが、私はそうは思わない。タルコフスキーの感性が並はずれて鋭いだけだ」

 若き頃は、作曲家や画家を志し、東洋思想にも傾倒、おカタい人物かと思いきや、ジャズやアメリカン・カルチャー、はたまた、古今東西の傑作映画からも多大な影響を受けている。ロシアの風土の中、それらを総合してタルコフスキー映画は醸成されていったのだ。

 初期の『ローラーとバイオリン』『僕の村は戦場だった』には、若さを伴った作劇の瑞々しさが認められるだろう。前者はブルジョワと労働者階級の対比、後者は戦争の残酷さといった主題が浮上するが、メッセージだけが際立つ作品にならないのがタルコフスキー映画たるところ。

 10のエピソードを重層的に積み上げた『アンドレイ・ルブリョフ』では、ロシアを代表する芸術家の内面を浮き彫りにし、所詮ちっぽけな人間の限界を見つめ、しかしだからこそ、永遠性を求める、終生こだわった重要なモチーフが織り込まれていた。

 SF映画の新たな地平を切り拓いた『惑星ソラリス』は、人間の意識や記憶の本質に踏み込み、音楽にJ・S・バッハの「オルガン小曲集第4番『主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ』」を効果的に用いた。

 タルコフスキーはクラシック音楽を映画に当てはめる名手でもあったのだ。

 そして、みずからの心の深層をクローズアップしてみせた『鏡』やその発展形『ストーカー』を経て、全キャリアの集大成、『ノスタルジア』『サクリファイス』を発表。並はずれて鋭い感性は現実世界を見据え、芸術家としての使命を確信し、魂の苦悩と救済をそこにうたった。

 まるで人類を代表して、永遠の祈りをげるかのように。

 その作風からタルコフスキーは、映像の詩人と呼ばれてきた。水、火、土、風といった世界を構成する四大元素を中心に、さまざまな自然の表情を画面に収め、独自の詩的宇宙をつくり出してきたからだ。

 また、夢や飛翔も繰り返し描かれたモチーフ。『惑星ソラリス』『鏡』『サクリファイス』には、空中浮遊のシーンも!

『ストーカー』では、念動力を有した少女が登場する。タルコフスキー映画では日常と地続きで、超常現象が起きる。この世は、ことばでは説明できない不思議で満ちているのだった。

 とりわけ水の象徴性にひかれ、形を変えて何度も援用したが、タルコフスキーは言っている。

「水は動きを、深さを、変化や色彩を、反映を伝えます。これは地上でもっとも美しいもののひとつです。水よりも美しいものは存在しません」

 そこに火と風が加わる。例えば『ノスタルジア』の、世界を救済するための儀式。ロウソクに火をつけて、手でもってゆっくりと運び、広場の温泉を往復する試み。だが炎は途中で風によって消される。反復される試練。尋常ではない緊張感。『サクリファイス』では、主人公が自己犠牲の精神から、自分の家へ火を放つ。燃えさかる炎。水たまりの広がる大地。

 およそ6分間、1シーン1カットのクライマックス。この場面は撮影中にカメラが故障、執念でセットを修復し、リテイクを成功させ、自分のビジョンを貫いた。

 単に自然を美しく切り取るだけでなく、確かなビジョンに向かってスタッフ、キャストを動かし、言語の先にある詩的光景をつかみとる。それが彼のスタイルであった。

 ちなみに『鏡』『ストーカー』『ノスタルジア』に挿入された詩は、詩人であった父アルセニーのもの。タルコフスキーはその才を受け継ぎ、映画というスペクタクルを具現化する装置で、詩人の血を、フィルムに焼き付けたのだ。

館理人
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次はアンドレイ・タルコフスキー映画のそれぞれについておさらいです!

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タルコフスキー映画ピックアップ!

『ストーカー』(1979年)

謎の案内人が導くのは願いがかなう未知の空間

ゾーン、と呼ばれる立ち入り禁止領域内の廃墟には、願いがかなうとうわさされる部屋があった。危険を冒して、そこに侵入を試みるストーカー(=部屋への案内人)と男2人の旅路を描く。原作はロシアSFの第一人者、ストルガツキー兄弟で脚本も執筆。タルコフスキーは雨、水、火など独特の映像言語を駆使し、美術も担当した。

『サクリファイス』

世界の終末を背景に父の決断を描く遺作

誕生日に生命の樹を植えた大学教授が、TVで核戦争勃発を知り、愛する人々のため自身の全てを神に捧げることを誓う。スウェーデンの島にて、イングマール・ベルイマン監督の常連スタッフと組んだ魂の遺作。晩年のテーマ「犠牲と献身」の集大成で、第39回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ他、全4部門を制覇。

『ローラーとバイオリン』(1960年)

バイオリンを習う少年と舗装工事に勤しむ青年との友情譚。映画大学の卒業制作としてつくられた短編

『僕の村は戦場だった』(1962年)

独軍に家族を殺され、みずから戦地に身を投じる12歳の少年の過酷な運命を描く。長編映画デビュー作。

『アンドレイ・ルブリョフ』(1967年)

中世ロシアのイコン画家の生涯に迫った2部作。ソ連当局に反愛国的と批判され、上映まで5年間を要した。

『惑星ソラリス』(1972年)

妻を自殺で亡くした心理学者が、謎めいた惑星を探索する宇宙ステーション内部で神秘的な体験をする。

『鏡』(1974年)

主人公「私」の一人称形式で進行。自身の意織下の感情を、時制を交錯させ浮かび上がらせた自伝的映像詩。

『ノスタルジア』(1983年)

監督の分身的キャラが、世界の終末に直面する黙示録。脚本家、トニーノ・グエッラとタッグを組んだ。

轟

DVD&ブルーレイでーた2015年6月号掲載記事を改訂