鋭い人間洞察で市井をスケッチする映画俳人【監督・小津安二郎】を好きな世界の監督、一挙紹介!

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Photo by Avinash Kumar on Unsplash
館理人
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小津安二郎監督をリスペクトする監督が世界にこんなにいることに、改めて驚かされます。

並べてみれば圧巻、一挙紹介です!

小津安二郎・プロフィール

1903年12月12日、東京出身。
1923年、松竹キネマ蒲田撮影所(現・松竹)に入社。
1927年、『懺悔の刀』で監督デビュー。初期はエルンスト・ルビッチに傾倒したコメディータッチ。次第に、移動しないローポジションからの撮影、抑揚のない台詞、画面正面への人物配置など独特のスタイルに到達、世界的な巨匠に。
1963年12月12日、死去。

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鋭い人間洞察で市井をスケッチする映画俳人

(文 轟夕起夫)

 ヴィム・ヴェンダースほど、小津安二郎にオマージュを捧げた映画作家もいない。

『ベルリン・天使の詩』(1987年)で、タルコフスキー、トリュフォーとともに小津の名を献辞した彼は、この3人を、自分の守護天使と呼んでいた。

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フランソワ・トリュフォーはフランスの監督。1950年代末から起こったフランス映画界の新しい波、ヌーヴェル・ヴァーグの監督のひとりとして知られています。こちらのドキュメンタリー映画『ふたりのヌーヴェルヴァーグ〜』のレビューでも紹介しています。

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アンドレイ・タルコフスキーはロシア(旧ソ連)の監督。代表作に『惑星ソラリス』(1972年)、『ノスタルジア』(1983年)などがあります。

 来日し、東京を歩き、笠智衆、カメラマンの厚田雄春といった小津映画の常連にインタビューを試みたドキュメンタリー『東京画』(1985年)。

『夢の果てまでも』(1991年)では笠智衆&三宅邦子の名コンビを復活させた。

 まったく尋常ではない情熱だ。それは、『ベルリン・天使の詩』の助監督を務めていたクレール・ドゥニにもいえるかも。彼女は『晩春』(1949年)のリメイクを撮るのが夢だと、コトあるごとに語っている。

館理人
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クレール・ドゥニは1988年に『ショコラ』(1988年)で監督デビューしました。他監督作に『ハイ・ライフ』(2018年)などがあります。

 ところで『晩春』は、妻を亡くし、ひとり娘と暮らしてきた初老の父が、婚期を逃しかけている彼女を嫁がせようとする話だ。『スモーク』(1995年)など、家族の機微を描くのが巧みなウェイン・ワンが、この『晩春』を何度も観ているというのはよくわかる。作風的にも肌が合うのだろう。

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ウェイン・ワン監督作にはビートたけし主演『女が眠る時』(2016)もあります。

 だがちょっと待て。『晩春』は実は、父と娘の、近親相姦的なシチュエーションが透けて見える映画でもあるのだ!

 小津から多くを学んだ、と『秘密と嘘』(1996年)のマイク・リーが公言するのは、きっと一筋縄ではいかぬ、人間関係の綾を綴った小津の手つきに魅力を感じるからだろう。

館理人
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イギリスの監督マイク・リーは、ほとんど脚本を使わずに俳優と作り上げていく独特の演出手法。作品はヨーロッパの映画祭で高く評価されています。

 戦後日本の家族の崩壊を描き、小津映画のひとつの頂点である『東京物語』(1953年)を賛辞する監督の名を眺めてみよう。

 小津に関する評論集も出しているポール・シュレイダーを筆頭に、アキ・カウリスマキスタンリー・クワンホウ・シャオシェンガス・ヴァン・サントマイケル・ウィンターボトムといった心に突き刺さる映画を撮る人々が並ぶ。

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ポール・シュレイダーは監督作を撮る前に、『タクシードライバー』の脚本を書いています。監督作に、『アメリカン・ジゴロ』(1980年)、『魂のゆくえ』(2017年)など。

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フィンランドのアキ・カウリスマキ監督作に『希望のかなた』(2017年)など。

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香港のスタンリー・クワン監督作に『ルージュ』(1987年)

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タイワンの侯孝賢 ホウ・シャオシェン監督作に『恋恋風塵』(1987年)、『珈琲時光』(2003年)など。

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ガス・ヴァン・サント監督作に『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)、『ドント・ウォーリー』(2018年)など。

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マイケル・ウィンターボトム監督作に『キラー・インサイド・ミー』(2010年)、『イタリアは呼んでいる』(2017年)ほか

 ヴェンダースを見ればわかるように、小津に一旦ハマると、皆、マニアックになる。

 セドリック・クラピッシュ『浮草』(1959年)、現存する作品はほぼ観たというダニエル・シュミットは、レアな『東京の宿』(1935年)への偏愛を隠さない。

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フランスのセドリック・クラピッシュ監督作に『おかえり、ブルゴーニュへ』(2017年)などがあります。

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スイスのダニエル・シュミット監督作に『トスカの接吻』(1984年)など

 ウォン・カーウァイ『小早川家の秋』が好きだなんて、なかなか渋いセレクトだ。

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香港のウォン・カーウァイ監督

 小津はまた、子役を使う名手だった。撮影所に遊びに来ていた児童に“突貫小僧”(本名は青木富夫)と名づけ売り出した。子供たちに愛情深くカメラを向けるアッバス・キアロスタミが、『長屋紳士録』(1946年)、『お早よう』(1959年)に心奪われているとは嬉しいではないか。

館理人
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イランのアッバス・キアロスタミ監督作に『友だちのうちはどこ?』(1987年)、『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012年)などがあります。

 ちなみに『長屋紳士録』(1947年)では青木富夫の弟・青木放屁(ネーミング by 小津)がイイ味を出している。

 そもそもアメリカ映画、モダンなコメディーのファンで、センス抜群だった。黒澤明とのいいエピソードがある。彼のデビュー作『姿三四郎』は当時、戦争状態ゆえ“米英的”と検閲官に糾弾された。そこを取りなし、一般公開のために尽力したのが小津だったのだ!

轟

月刊スカパー!2003年1月号掲載記事を改訂!

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ピックアップ小津安二郎作品紹介

『晩春』

出演:笠智衆、原節子、月丘夢路、杉村春子、青木放屁、宇佐美淳、三宅邦子、三島雅夫、坪内美子、桂木洋子

母を早くに亡くした娘に、父は結婚を勧めるが…。

『浮草』

出演:中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、野添ひとみ、笠智衆、三井弘次、田中春男、入江洋吉

小さな港町の住人と、そこにやってきた旅一座の面々との交流。

『東京の宿』

出演:坂本武、突貫小僧、末松孝行、岡田嘉子、小嶋和子、飯田蝶子、笠智衆

子供を抱えるひとり親の男が、似た境遇の女性と出会う。

『東京物語』

出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎、大坂志郎

子供達とその家族に会いに上京した老夫婦が経験する、それぞれの生活と、薄れる家族の絆を描く。

『早春』

出演:淡島千景、池部良、高橋貞二、岸恵子、笠智衆、山村聡、藤乃高子、田浦正巳、杉村春子、浦辺粂子

倦怠期の夫婦。夫の不倫とその後の顛末を描く。

『お早よう』

出演:佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子、設楽幸嗣、島津雅彦、泉京子、高橋とよ、沢村貞子

テレビが見たい子どもと、子どもに振り回される周囲の大人たちのファミリーコメディ。

『長屋紳士録』

出演:飯田蝶子、青木富廣、小沢栄太郎、吉川満子、河村黎吉、三村秀子、笠智衆、坂本武、高松栄子、長船フジヨ

あずかることになった戦争孤児らしき少年と、戦争で家族を失った女性との愛情ドラマ