2010年、石井輝男監督の没後5年企画として、ドキュメンタリー映画と書籍が発売されました。
石井輝男監督を振り返る、当時の記事の復刻となります!
キング・オブ・カルトの異才!
ジョン・ウー監督が『レッドクリフPart1』を携えて来日した際に、インタビューする機会を得た。何かの拍子で、ウー氏が尊敬する石井輝男監督の話になった。「石井先生はお元気ですか?」と訊かれた。「残念ながら、すでに亡くなられました」と答えると、ひどく驚かれた表情をウー氏は一瞬見せた。そうか、2005年8月に逝去されたときの訃報は、ウー氏には伝わっていなかったか。となると、入院するギリギリまで、映画を撮り続けていたことも知らなかったのではないか。
新東宝を振り出しに、東映に移ってヒットメーカーになった。『網走番外地』シリーズに「異常性愛路線」まで何でも撮った。メジャーの撮影所育ちなのに、晩年はインディーズ監督として活動。デジタルビデオ撮影にも積極的で、自分で率先してキャメラを回した。すごい映画人生であった。
石井監督がご自身のキャリアを振り返ったインタビュー記事はこちらにあります!
没後五年記念のドキュメンタリー『石井輝男映画魂』(ダーティ工藤監督)の公開記念で出版された書籍がある。「続石井輝男映画魂」。
読みどころは、1993年から2004年にかけて石井監督が発表した『ゲンセンカン主人』『無頼平野』『ねじ式』『地獄』『盲獣vs 一寸法師』、五作それぞれの解説部分。
公開当時に行われたインタビューの発言や対談でのコメントをピックアップし、“キング・オブ・カルト”と呼ばれた異才の肉声を伝えようとパッチワークしている。既刊の、福間健二氏によるインタビュー本「石井輝男映画魂」(ワイズ出版)の濃密さと比べるのは酷だろう。こちらは、石井輝男映画お得意のオムニバス仕様というべきか。即席感は否めないけれども。
他に、『盲獣vs 一寸法師』でのクレジットは撮影助手、実質的にはキャメラ担当であった本田隆一の「恩師・石井輝男に捧ぐ」、いつの間にかスタッフとなり、最後の最後まで看取った岩井澤健治の「石井輝男闘病日記」も読ませる。
そこからは次世代クリエイターたちとのつきあいが浮かび上がってくる。リリー・フランキー、塚本晋也、熊切和嘉、園子温、中野貴雄、及川光博……思えば石井組は一種の“梁山泊”であった。いろいろと華々しい新東宝、東映時代に対し、なかなか顧みられることのなかった晩期・石井輝男の世界。この書物、ジョン・ウー監督に贈るのも一興だと思う。
キネマ旬報2010年10月上旬号掲載記事を改訂!