小沢昭一主演作のご紹介!
2020年8月現在、主な動画配信サービスではラインナップされておらず、鑑賞はDVDレンタルなどで、となります。ラインナップされた時は即要チェックのタイトル!
そもそも小沢昭一ってどんな人? についてもレビューで触れてます!
多くの迷い人にチカラを授けてくれる説法映画
【概要】
行きがかり上、僧侶になった男を主軸に、人間の“色と欲”のありさまをシニカルに描いた重喜劇の傑作。本来とても真面目であった主人公の運命を狂わせてしまう人物のひとり、兄嫁役の南田洋子の爛れた色香がハンパない! 脚本は大西信行、今村昌平。監督は後年、日活ロマンポルノでも活躍、これがデビュー作となった西村昭五郎。
1963年 出演:小沢昭一、伊藤アイコ、南田洋子、小山田宗徳、高橋昌也、松本典子、高原駿雄、嵯峨善兵、渡辺美佐子、加藤武
【レビュー】
ちょいと思い出してもらいたい人がいる。2012年の2月に83歳で世を去った傑物のことだ。小沢昭一。略してオザショー。希代の怪優、舞台の演出家にして語り芸の名手。そして日本の民俗芸能の収集家、研究家としても数々の貴重な記録を文字や音源で残した人。
……といっても、若き読者の大半はピンとはきてないだろう。まあ、40年間も続いたラジオの長寿番組、「小沢昭一の小沢昭一的こころ」というタイトルぐらいは知っているかもしれないが、しかし、そんな方々にもぜひ観てもらいたいのが、この『競輪上人行状記』。
公開から実に50年を経て、2013年に遂にソフト化されたオザショーの代表作であり、多くの迷い人にもチカラを授けてくれる説法映画なんである。
オザショーの役は、中学校の教師から実家の貧乏寺を継いだ葬式坊主。胸のなかにあった理想はどんどんネジれ、ふと手を出した競輪でビギナーズラック。待ち受けるは壮絶な泥沼人生。
負けて、落ちて墜ちて、それでも賭けてまた負けて、落ちて墜ちて。だが、地を這いずり回ってこそ会得するものもある。そいつを全身全霊で見せてくれるのが「小沢昭一的こころ」だ。
金髪のニセ外国人に小悪党、小市民など、基本バイプレーヤーとして活躍してきたオザショー。この『競輪上人行状記』の破滅僧は、盟友・今村昌平監督の『「エロ事師たち」より 人類学入門』で扮した煩悩男と双璧をなす主演仕事であった。
強引にポール・トーマス・アンダーソン監督の映画と並べてみれば、後者はポルノ産業を背景にした『ブギーナイツ』、前者は新興宗教家が登場する『ザ・マスター』級、いや、それ以上の深みと面白さを備えている!
『ブギーナイツ』は出演マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーアほか。
『ザ・マスター』は出演ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムズほか。新興宗教団体の教祖と迷える帰還兵のドラマ。
ちなみに、ポール・トーマス・アンダーソン監督作の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』についてはこちらにレビューがあります。
とことん墜ちても、どっこいヤツは這い上がる。予想屋として、競輪上人として。辻説法でグイグイとボルテージを上げていくオザショーの語り芸の素晴らしさを堪能せよ。問答無用で心に火がつく、本物の芸能がここにある。
(轟夕起夫)
週刊SPA!2013年5月21日号掲載記事を改訂!
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