麻生久美子、上地雄輔、向井理、香里奈…の群像。技ありでラブコメなエンターテインメント映画『ガール』

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館理人
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監督は深川栄洋、出演は麻生久美子、上地雄輔、向井理、他、2012年の映画です。

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内容はレビューにて!

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中平康の後継!? ワザ師礼賛!

Photo by Georgie Cobbs on Unsplash

 50円玉が宙を飛ぶ。それを見上げる人々。場所はとあるオフィスなのだが、なぜ、そんな事態が起こっているのかの説明は今は省く。

 とにもかくにもその硬貨は、放物線を描きながら、落下し始めるだろう。

 はてさて。では宙を飛んだ硬貨が持ち主の手元に納まるまでに、映画はどんなことができるのか?

 観た。深川栄洋監督の『ガール』で試されていた手法を。

「ほほぉ〜? そういう手で来ましたか」と思わずニンマリさせられた。つまりは、別の場所のシークエンスをそこに重ねてモンタージュし、ドラマチックに盛り上げ、同時に世界の広がりをも感じさせるカットバック、並行描写が採用されていたのであった。

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深川栄洋の監督作は、櫻井翔主演『神様のカルテ』1、2や…

大泉洋主演『そらのレストラン』など。

中山七里のクライム・サスペンス小説「ドクター・デスの遺産」の映画化『ドクター・デスの遺産 ―BLACK FILE―』も。綾野剛、北川景子主演、2020年11月公開予定です。

 ちょっと、整理をしておこう。

 硬貨を投げたのは、本作の4大ヒロインのひとり、麻生久美子が演じた大手不動産会社勤務のOL。

 プロジェクトチームの一員でありながら足を引っ張り続けていた部下(要潤)との一対一の対決、50円玉の表裏で退社を賭け、それで自ら“丁半勝負”に出たわけだ。

館理人
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麻生久美子の出演作は近作に『翔んで埼玉』など。

 一方、カットバックされるのは、香里奈扮する大手広告代理店で働くヒロインの側の“丁半勝負”。デパートのエスカレーターを使ったファッションショーの様子が挟み込まれ、こちらもバタバタとトラブル込みで成否の途中にある。

 が、ここで喚起しておきたいのはカットバックの手法とはいえ、作り手たちの狙いはどうやら両者の相乗効果とは違うようなのだ。

 基は5つの短編から成る原作のエピソードのうち、4編をギュっとひとつの物語として再構成(脚本は篠﨑絵里子)。

 板谷由夏はシングルマザーで自動車メーカー、吉瀬美智子は文具メーカーに勤務する役柄で登場し、実は中盤からすでに各キャラクターの人生の勝負どころを捉える“並行描写”は始まっており、4者4様の喜怒哀楽を繋いだ“総体”こそが本作の魅力の源泉になっているのだった。

 もちろん、どの映画もそうであるように瑕瑾は散見される。

 特に開幕してしばらくは、浮ついた漫画的なノリに気が乗らない。だが、次第によくなっていく。

 最初の軽いノリが布石に感じられるほど、日常の重さが増していき、ヒロインそれぞれに配された、向井理、上地雄輔、要潤、林遣都、森崎博之ら「ボーイ」たちの映画になっているのもいい。

 とりわけ、妻(麻生久美子)より年収の低い夫(上地雄輔)の背中を作為的に映し出し、ラストまでなかなか心の内が読めないミステリアスな存在に仕立てたあたり、秀逸だ。

 どのキャストもこれまでとは違う顔を引き出されている。そして奥田英朗の原作の「キャリアウーマンの友情と恋愛模様」という主題のツボを押さえ、ラブコメの体(てい)を保ち、エンタテインメントしている。

 例の50円玉が持ち主の手に納まって、大きな勝負をくぐり抜けたあと。部下役の波瑠(NTTドコモのCM『dマーケット BOOKストア』でも新人社員を好演)と二人して安堵の息をつくエピソードも胸に沁みる。

 緩急のリズムが心地いい。何というか、往年の中平康みたいなワザ師ぶりと言ったら褒めすぎだが、確かなるテクニック、それが本作の“映画の肉体”を形成しているのだ。

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館理人

中平康の監督作に『月曜日のユカ』『狂った果実』など。テクニックを駆使した映像で娯楽映画を多く手がけた監督です。

轟

キネマ旬報2012年6月下旬号掲載記事を改訂!