読む映画リバイバル『時には娼婦のように』

再検!日活ロマンポルノ

越美晴(コシミハル)の美少女ぶりにも感嘆!

(1999年7月号より)

 日本の歌謡曲に「過去」という言葉が(歌詞として)初めて登場したのは1964年。菅原洋一のヒット曲『知りたくないの』だそうだ。しかし本当なのか?

 使用した本人がこう書いている。〈三日も四日もギターをかき鳴らして歌いつづけていたら、
 あなたの過去など
 知りたくないの
 という文句が口をついてきた。
 おっ、いける。悪くないじゃないか。とくに、「過去」という言葉は新鮮に響いた。この言葉がこれまでの歌謡曲に登場したことはあるのだろうか。念のため全音の『歌謡大全集』を全十二巻を買ってきて、そのすべてに目を通して見た。思ったとおり「過去」という言葉はどこにも見当たらなかった〉
    『兄弟』(文藝春秋刊)

 なかにし礼。作詞家。日本歌謡市場に燦然と輝くヒットメーカーである。泉アキの『恋のハレルヤ』といった“ひとりGS”の名作、奥村チヨを歌詞の中でマゾ調教した『恋の奴隷』『恋泥棒』などもこの人の仕ワザ。島倉千代子のアクメ歌謡の逸品『愛のさざなみ』や、由紀さおりのヌーボ・ロマンな『手紙』もそう。北原ミレイの『石狩挽歌』からハイ・ファイ・セットの『フィーリング』まで、数限りなく、“男と女の世界”を自由自在に織りあげてきた。

 そんな作詞の天才が、自らの「過去」に決着をつけたのが直木賞候補にもなった先の自伝的ベストセラーだ。例の「兄貴、死んでくれて本当に、本当にありがとう」である。何度となく多額の借金を押しつけられた、特攻隊帰りとウソぶく放蕩な兄との壮絶な愛憎の物語。豊川悦司とビートたけしの共演でTVドラマにもなったので、観た方も多いことだろう。

 ドラマでも一瞬描かれていたが『時には娼婦のように』は、なかにし礼が作詞、作曲して唄い(黒沢年男バージョンともども)大ヒットを飛ばした天下御免のエロ歌だ。すぐさまロマンポルノで映画化され、自ら主演、体当たりのファックシーンにも挑んだのだが、やはりそれは悪魔のような兄から理不尽に背負わされた借金返済のためであった。

 ――なわけだから、洋エロ本の翻訳家に扮した彼が画面の中で発している空気はとてつもなく重い。『兄弟』を読めば「なるほど」な厭世感である。そんな彼に編集者は訊く。「小説なんか書いて我々をあっと言わせるんじゃないでしょうね」。映画では「いや」と答えているが、実際には書いちまった。が、この人の「過去」を知った今、それで本当に良かったとそう思う。

[ビデオボーイ]
●監督:小沼勝●出演:なかにし礼、鹿沼えり、宮井えりな、他●1978年●日本