パレスチナ人の監督作のご紹介!物議をかもした映画です。
レビューをどうぞ!
パラダイス(来世)とナウ(現世)、共存しない2つを自爆でムリヤリ結びつけようとする若者のまなざし
“テロ”ではなく“自爆攻撃”へと向かう二人の若者の48時間を、体感させるような作品。
ベルリン国際映画祭3冠、第63回ゴールデングローブ賞では最優秀外国語映画賞受賞と、各国で絶賛(と波紋)の嵐を巻き起こした。
監督はハニ・アブ・アサド、出演はカイス・ネシフ、アリ・スリマン、他。2005年の作品です。
なお、日本語吹き替え版は、映画に意気を感じた窪塚洋介と井浦 新(旧:ARATA)が担当している。
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昨年、第78回アカデミー賞でのこと。この『パラダイス・ナウ』という作品は、外国語映画部門にノミネートされた。
監督はパレスチナ人のハニ・アブ・アサド。描かれているのは、幼なじみの若者二人がイスラエルへ“自爆攻撃”に向かおうとする姿。
物議をかもしそうな内容だが、授賞式前、実際に“自爆攻撃”で身内を失ったイスラエルの遺族たちから「テロを支持し、正当化するプロパガンダ映画」との声が上がり、署名運動が起きて“受賞反対”の嘆願書が出されたのであった!
そういった経緯があって受賞を逃したわけではないだろうが、たしかにセンセーショナルな映画ではある。
だが、ここで明言しておくと、本作は決して「テロを正当化するプロパガンダ映画」ではない。
イスラエル占領地、軍隊に包囲されたパレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のナブルス。人としての尊厳も未来もないこの貧民街で、若者二人が自爆攻撃の実行犯に選ばれる。成功すれば英雄だが、早い話が鉄砲玉。
アジトでヒゲを剃り、頭を丸め、 スーツに身を包む。その下には爆弾が巻かれている。“人間兵器”をジハードとして神聖化し、半ば強制していく原理主義組織の存在。
アサド監督は、善悪ないまぜの現実を我々に差しだす。
センセーショナルなのは、「北野武の『ソナチネ』からも影響を受けた」と監督が言うように、生と死を巡る映画として尖鋭的な点にある。
パラダイス(来世)とナウ(現世)、共存しない2つを自爆でムリヤリ結びつけようとする若者のまなざし。観たらきっと忘れられなくなると思う。
週刊SPA!2008年12月号掲載記事を改訂!