竹内結子主演×三島由紀夫の映画世界『春の雪』翻弄される男女のメロドラマ

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Photo by Masaaki Komori on Unsplash
館理人
館理人

竹内結子さんを偲びたいと思います。妻夫木聡さんとの共演で、三島由紀夫のメロドラマを演じた『春の雪』のレビューを復刻します。

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三島流、大正初期の貴族社会のラブストーリー

データ

2005年
監督:行定勲 出演:妻夫木聡、竹内結子、高岡蒼佑、及川光博、榎木孝明、真野響子、山本圭、若尾文子、石橋蓮司、ほか 151分

レビュー

(轟夕起夫)

 行定勲監督の『春の雪』は、三島由紀夫が最後に取り組んだシリーズ(1965〜70年)、輪廻転生の物語『豊饒の海』四部作の第一巻にあたる。

 舞台は大正時代。伯爵家に生まれ育った松枝清顕(妻夫木聡)と、幼なじみで名門の娘、綾倉聡子 (竹内結子)との悲恋だが、眼目となるのは「禁忌と侵犯」=バタイユ的タブー破りの快楽である。

 いまや没落寸前の綾倉家だが、聡子は勅許ちょっきょ、つまり天皇の許可のもと、皇族との婚約が進んでいる。しかし聡子と清顕は魅かれあっており、ついに結ばれる。

 三島は書く。

「すでに勅許の下りた宮家の許嫁を犯すことは、宮妃殿下を犯すことに他ならない。臣下として、これ以上おそろしい不敬はないが、その不敬を敢てするまでに燃え上つた恋愛なら、はじめて本物の恋と云えるであろう」(新潮社「決定版三島由紀夫全集35」)。

 が、同書でこうも記す。

「一方、ハムレット型の優柔不断の主人公は、ひとへに『本物の恋』を味はひたいために、禁忌を犯したのかもしれない」

 と。たしかに聡子と宮家との縁談が進んでから、清顕は動いた。そこに「禁忌と侵犯」のエロティシズムが発生するからだ。

 親友の本多(高岡蒼佑)のホモセクシャル一歩手前の挙動も、このテーマをのぞかせて興味深い。三島のかような障害越え、逆境を敢えて望み、愛する心性を、たとえば島本和彦の漫画「逆境ナイン」の主人公“不屈闘志”と比べたら、不届き者の誹りを受けるだろうか。

 キャスト的に特筆すべきは、『からっ風野郎』でファンまるだし的に三島由紀夫に指名され、共演した大女優・若尾文子の奈良・月修寺の門跡役(18年ぶりの映画出演)。やはり三島と親交深い、本作のプロデューサー・藤井浩明氏からの依頼で、行定監督の構想にもこれはあったという。

館理人
館理人

『からっ風野郎』は三島由紀夫が映画俳優として初主演した映画です。監督は増村保造!

館理人
館理人

行定監督の『クローズド・ノート』にも、竹内結子さんは出演しています。

 本作はところどころ四部作のエッセンスもちりばめられており、台湾の名手リー・ピンビンの撮影が(ヴィスコンティばりの) ロマネスクを立体化し、三島 (原作)映画の匂い付けに成功している。

轟

映画秘宝2006年6月号掲載記事を改訂!

館理人
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館理人
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