瑞々しい青春『孤独な天使たち』異端ベルトルッチ監督の遺作から意志を振り返る

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Photo by Krystian Tambur on Unsplash
館理人
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イタリアを代表する映画監督のひとり、ベルナルド・ベルトリッチ(1941年3月16日 – 2018年11月26日)の映画のご紹介です。

『孤独な天使たち』はベルトルッチ監督の遺作となりました。

館理人
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監督作の『ラスト・エンペラー』(1987年)では、アカデミー賞作品賞、監督賞ほか、9部門で受賞。

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遡って1972年の作品『ラストタンゴ・イン・パリ』ではポルノか芸術かを巡って話題となりましたが、アカデミー賞監督賞にノミネートされています。

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レビューをどうぞ!

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地下室の七日間の天地創造

【概要】
少年ロレンツォはアパートの地下室に籠もって1週間を過ごそうとする。そこに異母姉オリヴィアが転がりこんできて、共同生活がはじまる…。ベルナルド・ベルトルッチ監督のデビュー50周年を飾る、記念碑的青春映画。
2012年 イタリア 監督:ベルナルド・ベルトリッチ 出演:ヤコポ・オルモ・アンティノーリ、テア・ファルコ

【レビュー】
 この主人公にはきっと、苦悶しつつ、人生の新たな光を求めた監督自らの意志も重ねられているに違いない。

 10年ぶりに『孤独な天使たち』を発表した巨匠ベルナルド・ベルトルッチ。1941年生まれの鬼才は半ば、引退状態にあった。

 前作『ドリーマーズ』を世に問うた2003年頃から背中の痛みに襲われ、手術とリハビリを繰り返して、車椅子での生活を余儀なくされていたのだ。

館理人
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『ドリーマーズ』は出演:マイケル・ピット、エヴァ・グリーンほか。

 だが彼は復活した。車椅子に座ったまま、本作を撮って、再び走り出した──。

 老境に入ったベルトルッチではあるが、(ニッコロ・アンマニーティの)原作を読み、心奪われたのはアンファンテリブルともいうべき14歳の青年だ。

館理人
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アンファンテリブルは子供ゆえの残忍さと無邪気さを意味する言葉ですが、もとはジャン・コクトーの小説のタイトルです。

 ちょっぴり複雑な家庭環境もあってか、思春期をこじらし、何事にも反抗的。学校のスキー合宿へ行ったと見せかけ、用意周到、自宅のアパートの地下室にて1週間暮らす計画を実行する。

 ベルトルッチの映画には、自由と抑圧のテーマは欠かせないが、束の間の自由を満喫していた主人公のもとに突如、他者が闖入ちんにゅうしてくる。腹違いの破天荒な(しかもヤク断ち真っ只中の)姉。楽園は2日目にして早くも崩れ去り、先の読めない共同生活を強いられることに。

 地下室という密室がさながら、軌道を外れた宇宙船と化し、彼は目の前のエイリアン的存在と向き合わざるを得なくなる。

 サバイブする二人を演じているのは、ベルトルッチが起用した無名の新人俳優。青年役のヤコポ・オルモ・アンティノーリは、『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェルを彷彿させる面構えで、姉役のテア・ファルコは名花ドミニク・サンダをいささかアバズレにしたような顔だち。

館理人
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『時計じかけのオレンジ』はスタンリー・キューブリック監督作。

館理人
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ドミニク・サンダはベルトルッチ監督の『1900年』にも出演するフランスの女優です。幼馴染ふたりの人生を通してイタリアの現代史を描く、ノーカット版で314分、5時間越え!のドラマです。

 どちらもすこぶる個性的である。

 『暗殺の森』『ラストタンゴ・イン・パリ』を思い出すまでもなく、ベルトルッチ映画といえば魅惑のダンスだ。本作にもハっとさせられる場面が! そこで流れるのはデヴィッド・ボウイの名曲「スペイス・オディティ」のイタリア語バージョン、「ロンリー・ボーイ、ロンリー・ガール」。

 ずいぶん前にベルトルッチがロサンゼルスで車に乗っていた時、ラジオで耳にしたのだという。

 さて、そのイタリア語バージョンの作詞をしたのは、カンツォーネからプログレッシブロックまでイタリアの音楽界に冠たる、作詞家の重鎮モゴール (本名ジュリオ・ラペッティ)。

 ベルトルッチは、モゴールを敬愛していると語る。若き頃はヌーヴェル・ヴァーグに傾倒する余り、自らを「イタリアの映画監督」と認めず、インタビューでもフランス語を押し通した異端児だったが、本作は30年ぶりに母国のイタリア語で撮った映画となり、原点に戻って、デビュー作『殺し』から50周年の節目を飾った。

 奇しくも同じく10年のブランクを経て同時期に発表された、デヴィッド・ボウイのアルバム『ザ・ネクスト・デイ』 が「過去と未来を繋げる」作品ならば、ベルトルッチの『孤独な天使たち』もまたそう。

 地下室の中での青年による7日間の天地創造は、とってもドラマチックで驚くほどに瑞々しい。

轟

ケトル2013年4月号掲載記事を改訂!

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