こう断言しておく。「たいていの新作より、喜八映画のほうが断然面白い!」と。1本でもその代表作を観たことのある人なら、きっと頷いてくれているはずだ。(轟夕起夫)
さささ。岡本喜八監督映画をご紹介するレビューを掘り起こしてみたら、冒頭からこの大風呂敷ぶり!
どういうことか、続きをみていきましょ〜。
岡本喜八とは? 略歴
岡本喜八(1923年〜2005年)。1943年に東宝入社。エンタの神様=マキノ雅弘監督に主に師事し、娯楽映画の真髄を継承、と同時に、青年期の戦争体験に裏打ちされた反骨精神をスクリーンにぶつけた。
マキノ雅弘監督については、代表作のひとつ『次郎長三国志』シリーズのレビューで触れています!
たとえば、戦争活劇とウエスタン、ニヒルな世界観が見事に融合した『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』。
いずれも主演した佐藤允については、こちらに記事があります。
あるいは、狂言、能楽とミュージカルを合わせた『ああ爆弾』やアニメ、ストップモーションを多用した『江分利満氏の優雅な生活』……それらは、テクニシャンでなければ到底できない芸当ばかりであった。
『ああ爆弾』の主演は伊藤雄之助。『江分利満氏の優雅な生活』の主演・小林桂樹に関しては、こちらに記事があります。
とりわけ、常連俳優・天本英世がナチの残党、マッドなサイエンティストに扮し、“人工調節審議会”という組織を暗躍させる『殺人狂時代』は荒唐無稽な傑作である。命をつけ狙われる大学講師、仲代達矢扮するダメ男の正体は……フラメンコをBGMに精神病院で繰り広げられる決闘は喜八印の白眉!
昭和史のドキュメント、緊迫の24時間に迫った『日本のいちばん長い日』や戦時中の一粒の青春を描いた『肉弾』。
後年も『近頃なぜかチャールストン』で戦争について言及し、かと思えば『大誘拐RAINBOW KIDS』で大ヒットを飛ばして、『ジャズ大名』でアナーキーさを極め、遺作となった『助太刀屋助六』まで、斬新な映画を作り続けてきた。
ココが面白い!岡本喜八映画ピックアップ8本
なぜ、いま岡本喜八なのか——。
改めて、問う必要もないだろう。ハリウッド大作がどんどんつまらなくなっている今日、アメリカ映画の面白さをかつて吸収し、本家を凌駕してしまった活劇を観てみたくはないか? はたまた、軽怪なテンポでスケールの大きなウソをつく奇想天外な日本映画を観てみたくはないか? いざ、喜八が描いた各世界へGO!
大風呂敷な感じがまだ続いていますが、岡本喜八監督作を取り上げるときは、岡本喜八の気概が乗り移るのかもしれません!
『結婚のすべて』
【概要】
喜八の記念すべき監督デビュー作。
現代風俗の中の恋愛と結婚観をスピーディに描いた傑作ラブコメ。
ロカビリー映画第1号でもある。
ミッキー・カーチスのライヴシーンが◎
【あらすじ】
若者の性道徳が大きな変貌を遂げた現代社会。
劇団の研究生でモデル業もこなす21歳の康子(雪村いづみ)は、情熱的な結婚にあこがれている。
一方、見合いで結婚した姉の啓子(新珠三千代)は、貞淑な妻として日々を過ごしつつも、自分にあまり愛情を示さない大学講師の夫、三郎(上原謙)に不満を抱きはじめている。
そんな時、女性誌の編集長、古賀(三橋達也)が、啓子を自分の雑誌のモデルにしようと接近してくるのだが……。
【ここが面白い!】
「最終勝利」するメンズになるための作法を教えてくれるのがこの映画。
清楚にして欲求不満の超美人妻、新珠三千代(ズベ公だらけの中でまさにはきだめに鶴!)のハートの「呼び鈴」を鳴らせるのは誰か? というのが本作最大のテーマである。
セックスレスなインテリの夫VSプレイボーイの雑誌編集長。彼女が夜遊びしても「君が楽しければそれでいいんだ」と笑顔で言い放てる男になれば、たとえEDになってもモテ度減退ならず!?
『独立愚連隊』
【概要】
はみだし者たちの反骨精神に満ち溢れたアナーキーな活躍を、西部劇タッチで豪快に描写。
一見不真面目、しかし真摯な戦中派・喜八の名前を一躍世に知らしめた戦争アクション。
【あらすじ】
第二次世界大戦末期の北支戦線。
各隊のはみだし者ばかりを集めた小哨隊、人呼んで“独立愚連隊”が敵陣へ。
部隊長の児玉大尉(三船敏郎)は城壁から転落して以来、精神に異常をきたしており、隊の実権は副官の橋本中尉(中丸忠雄)が握っていた。
そこに荒木と名乗る従軍記者(佐藤允)が、馬でやって来る。
彼は「中国人慰安婦と見習い士官の心中事件」の真相を探ろうとしていた。
そんなさなか、“独立愚連隊”は八路軍の猛攻に遭う!
【ここが面白い!】
“荒木”と名乗る従軍記者の正体はぜひ映画を観ていただくとして、この男、ニヒルだが行動的でユーモアにも富んでいる。
大平原を馬で駆けめぐる姿もイカすぜ。銃口部分を手で押さえ「ブローニングって拳銃は、こうすると撃てなくなっちまうって聞いてたんでね。本当かどうか一度試してみたかったんですよ」と一言。
この「本当かどうか一度試してみたかったんですよ」は、現代でも捨て台詞としていろいろ応用できそうなフレーズなり。
『暗黒街の対決』
【あらすじ】
ある地方都市に東京から左遷されてきた汚職刑事・藤丘(三船敏郎)。
その街は、新興暴力団の大岡組と地元ヤクザの小塚組とが対立していた。村山(鶴田浩二)は元小塚組幹部で今は堅気だが、愛妻を殺され、交通事故に偽装した大岡組に復讐しようとしている。
一方、大岡組の親分(河津清三郎)は、川の砂利採取の利権を得ようと画策し、市会を買収。
小塚組に殴りこみをかけ、藤丘が“特命刑事”であると突きとめ、殺しにかかるのであった。
【ここが面白い!】
まずは、スーツとトレンチコートの着こなしが見事な主演、三船敏郎の男っぷりと、チンピラ相手にかます高速往復ビンタはお手本にしたい。
さらに、大岡組に雇われる3人組の殺し屋(天本英世ほか)にも注目。
キャバレーで同じく殺し屋のミッキー・カーチスと、黒ずくめのスタイルで「月を消しちゃえ」を歌うシーンがある。
その名もトリオ・アミーゴス!
殺し屋なのはバレバレだが、男たる者、いざというときは恥も外聞もなく勝負に出ろ。
『地獄の饗宴』
【概要】
中村真一郎の推理小説『黒い終点』をもとにしたドライな和製フィルム・ノワールの逸品。
横領金をめぐる三つ巴の中、初に悪女演技にチャレンジした団令子がアンニュイで見モノ。
【あらすじ】
エロ写真を客に売りつけたり、銀座界隈でポン引きをして生計を立てている日陰者の戸部修(三橋達也)は、偶然、新橋駅でネガを拾った。
現像してみるとそこには軍隊時代、自分を苦しめた鬼上官・伊丹(田崎潤)と若き女性(団令子)の情事の光景が!
さらに調査をすると、伊丹は1億5千万円もの横領事件に関わっており、死亡を偽って身を隠していた。
かくしてそれを暴き、伊丹を強請ろうとした戸部だが、逆に殺し屋に命を狙われるハメに。
『大菩薩峠』
【あらすじ】
時は幕末。
大菩薩峠の頂きで、ひとりの巡礼の老人(藤原釜足)が何の理由もなく斬り殺された。
斬ったのは“音無しの構え”なる秘剣で知られる机竜之助(仲代達矢)。
2年後、無用な殺生は止まず、江戸から京都へ、新選組の芹沢鴨(佐藤慶)らと行動をともにするも、いままで殺した者ども、そして巡礼の老人の亡霊に惑わされて、狂乱の竜之助は敵味方区別なく隊士を斬りまくり、その地獄絵図の中、ますます剣に憑かれた鬼と化していく。
【ここが面白い!】
老爺を背後から斬るわ、女を犯すわ、それでもって殺戮の限りを尽くしても虚無の眼差しをやめない主人公、机竜之助を真似るのはダメダメ。
本作では、殺された老爺の娘(内藤洋子)を救い、何かと手をさしのべる裏宿の七兵衛(西村晃)が最後まで好感度高く、カッコいい。
あるいは、竜之助に「人を殺すための剣は、邪剣である」と正論を説く島田虎之助(三船敏郎)——静かなキャラだが、迫力に満ちたその立ち振る舞いこそ学びたい。
『日本のいちばん長い日』
【概要】
昭和20年8月14日の正午から翌15日の正午、玉音放送が流れるまでの24時間に、政府と陸軍の人々がとった行動を網羅し、ドキュメンタリータッチで描いたオールスター超大作。
【あらすじ】
日本政府がポツダム宣言の海外放送を受信したのは、昭和20年7月26日。
時を置かず原爆投下やソ連参戦で、日本の運命は風前の灯となった。
8月10日の御前会議は、天皇制存続を条件に宣言受諾を裁決。
しかし、阿南陸相(三船敏郎)ら陸軍の反対にあい、再び紛糾。
政府は天皇の詔書朗読の“玉音”の内容をめぐり、いつ終わるとも知れない会議を続けていたが、陸軍の青年将校たちは終戦を不服とし、本土決戦を叫んで皇居を占拠した!
【ここが面白い!】
この映画には一般庶民は登場しない。
日本の歴史、国家の運命を握っていた政府要人、軍部の人々の姿が描きだされていく。
前線兵士に敗北の惨めさを感じさせまいとする者。
対して、現実認識を重視する者。皇居を占拠して“玉音盤”を捜索する者。
首相官邸と私邸を襲撃する者。
NHKを占拠し、反対声明の放送を要請する者。
そして皇居の前庭で自害する者……これはもう、ひとりひとりの立場、気持ちになって観るがいい。
男泣き必至だ。
『赤毛』
【概要】
激動の幕末、世直しを夢見て豪快に暴れた男、農民上がりの革命児“赤毛の権三”の活躍とシビアな末路を描いた時代劇巨篇。
三船プロの映画で、つまり製作は主演の三船敏郎本人。
【あらすじ】
江戸から明治へ。王政復古の号令が出た慶応4年。
赤報隊は「借金棒引き」「年貢半減」といった官軍の政策を喧伝し、しかも庶民を服従させる役目を担っていた。
そんな中、農民上がりの赤報隊士・権三(三船敏郎)は、隊長の印“赤毛”のたてがみを借りて、それをなびかせ、生まれ故郷に錦を飾ろうとハッスル。
アコギな駒虎一家を倒して借金を棒引きにし女郎たちを解放、代官屋敷からは年貢米を取り戻すなど精力的に活動したのだが……。
【ここが面白い!】
ある意味、三船敏郎の“俺”映画である。
強くて純粋、正義感に溢れ、でもちょっぴりオッチョコチョイな権三。
これは彼が最も得意とした快男児なキャラクターだ。
しかし、後半に行くに従って、新しい世界のために必死に闘っているのに時代に翻弄されてしまう。
それはどこかパンク・ムーブメントの末路のよう。
そう、この赤毛は三船版のパンクコスプレ。
前のめりな生き方のシンボルだ。
一度染めたら最後まで貫け!
『斬る』
【あらすじ】
天保4年。上州は小此木領内に2人の男が現れた。
ひとりはワケあって武士に嫌気がさし、無宿者になった弥源太(仲代達矢)。
もうひとりは百姓に嫌気がさして武士になろうと畑を売った半次郎(高橋悦史)。
小此木藩は2ヶ月前、百姓一揆があったが、今度は7人の若侍が藩主の圧政に反発、家老を殺し、砦山に立てこもった。
半次郎は藩の乗っ取りを企む鮎沢(神山繁)に雇われ、彼らを倒しにかかり、一方、弥源太は若侍に味方する決意をした。
【ここが面白い!】
どいつもこいつも魅力的なキャラ。
特に、スネにキズを持っているヤツラがいい。なかでも、武士時代に止むを得ぬ事情で上司を斬り捨てた過去ありの弥源太。
それから、何かと半次郎に目をかける好漢、浪人隊の隊長(岸田森)も、借金苦から恋人を女郎にした過去を後悔している。
でも基本はクール。弥源太&半次郎を好演した、仲代達矢、高橋悦史が、飄々としながらも、弱気を助けて生きていくことのカッコ良さをシカと見せてくれる。
岡本喜八映画『吶喊』に関しては、こちらに記事があります!
テレビブロス掲載記事を改訂!
ちなみにHULU、U-NEXTのラインナップでは2020年8月現在『EAST MEETS WEST』のみ、Netflix、TSUTAYA TVではありませんでした。