若松孝二監督(1936年4月1日〜2012年10月17日)の撮影現場を描いた映画です!
描き手は監督も脚本も「若松プロ」出身のコンビ!
【概要】
若松プロダクション出身、『凶悪』で第37回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した監督・白石和彌が自ら企画した『止められるか、俺たちを』。
1969年から71年にかけての若松プロダクションを助監督・吉積めぐみの目を通して描いた青春群像劇。
【レビュー】
もしも「2018年邦画マン・オブ・ザ・イヤー」なんてものを選ぶとしたら、それは誰か。
……まあ、いろんな人の顔が浮かぶけれども、彼は絶対にそのひとりに入るだろう。白石和彌監督である。
2月に『サニー/32』、5月に『孤狼の血』を世に放っただけでも大した剛腕ぶりなのに、さらにもう一本、『止められるか、俺たちを』を発表。しかも、単なる量産体制ではない。どの作品もテイストが違っていて、質が高いのだ。誠に天晴れ!
『サニー/32』は拉致監禁された女性を描くサスペンス。
『孤狼の血』は暴力団と警察のハードバイオレンス。
この作品、タイトルは「俺たち」を謳っているが、主演は門脇麦だ。「吉積めぐみ」という実在の人物を演じており、白石監督がフォーカスを当てたのは1969年から1971年まで。すなわち、時代の寵児としてまさに破竹の勢いでアナーキーに疾走する若松孝二とその仲間たちの下、助監督をしていた頃の姿が描かれる。
主要舞台となるのは原宿のセントラルアパートにあった「若松プロダクション」で、彼女は21歳のときに新宿のフーテン仲間の“オバケ”こと秋山道男に誘われ、「若松プロ」へと飛び込んだのだった。
当時の「若松プロ」というのは、後々まで語り継がれる異才たちが集う“梁山泊”と呼んでもよかった(秋山氏は本作公開前に69歳で逝去されました……合掌)。そして、ピンク映画の体裁を取りながら、性と暴力と革命をテーマにした尖鋭的な傑作を多産していた。
史実通りに主人公の「めぐみ」はいきなり、『女学生ゲリラ』と『処女ゲバゲバ』の2本同時撮影に借り出される。キツいがとても充実した日々。だが次第に全てから取り残されてしまうような、言葉にはできない不安に駆られていく。
こんな印象的な場面があった。劇中に2度、へべれけに酔った男たちがつるんで立ちションをするシーン、「めぐみ」は仲間には加われない。
男女の差もあるが、比類なき才能たちに同化できないことの比喩であり、その気持ちは時を超え、今この映画を観る「何者でもない」我ら凡人もきっと、深く共有できるものだ。
門脇麦を筆頭にタモト清嵐、藤原季節など、往時の「若松プロ」を知らない世代、若きアクターが皆、物怖じせずにいい佇まいで参加していることもトピックだが、特筆すべきは恩師・若松孝二を演じた井浦新の素晴らしさ!
2008年、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を皮切りに、遺作の『千年の愉楽』まで全5本に出演、海外映画祭の常連となった晩年の円熟期を支えた“同志”でもある。
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』はタイトル通り!浅間山荘事件を描きます。
ちなみに、筆者は若松監督に2度取材で会っている。2004年の『完全なる飼育 赤い殺意』と、2010年、寺島しのぶにベルリン国際映画祭の最優秀女優賞をもたらした『キャタピラー』公開の折に。
口癖だった「俺が死んでも映画は50年、100年と残る。映画に時効はない」をナマで聞けて興奮したものだ。
白石監督も脚本の井上淳一も「若松プロ」の出身。師匠の永眠した2012年から映画製作は止まっていたが、これが再始動第一弾、その意気込みはタイトルが雄弁に語っている。
(轟夕起夫)
ケトル2018年10月号掲載記事を改訂!