座頭市シリーズを解説します!
『座頭市』シリーズで勝新太郎が開眼!
世にシリーズ映画は数多くあれど、量質これほどまでに充実しているものもないだろう。主人公の名は座頭市。子母沢寛の随筆集「ふところ手帖」の中の掌編(小説)から生まれた異形のヒーロー。
演じるは、ご存じ勝新太郎。大映に市川雷蔵と同期入社し、『花の百虎隊』(1954年)で共に映画デビューを飾るも、以後その秀麗なスター性によって歴然と差をつけられ、そこで雷蔵とは別の道を模索してこの盲目の、居合斬りの達人というキャラクターに辿りつき、演技開眼した男。
できるだけ公開順に観ると楽しさアップ!
さてシリーズはやはり公開順に楽しみたいところ。
市の描き方と作劇法の変遷が、たっぷり味わえるからである。
三隅研次監督の手で映画化された記念すべき第1作『座頭市物語』は、労咳持ちの浪人、平手造酒(天知茂)と市との、はぐれ者同士の友情と宿命の対決が観る者の胸をゆさぶる傑作中の傑作。
続いて森一生監督の『続・座頭市物語』は、ひとりの女性をめぐって争った兄(城健三朗=勝新の実兄・若山富三郎)が凶状持ちの浪人となって市の前に現れる。
悪に染まった居合の師匠(河津清三郎)を討たねばならなくなる田中徳三監督の『新・座頭市物語』で初めてカラーとなるが、まあ、ここまでは市のバックボーンを綴ったルーツ3部作といえよう。
4作目以降はシリーズものならではの劇世界
で、第4作『座頭市兇状旅』からあとは、シリーズものならではの独創と飛躍に満ちた劇世界へと変わってゆく。
町や土地を牛耳る悪徳親分との対立。ヒロインや子供との交流。ラスト近くには剣豪との決闘が用意され、とにかく目にも止まらぬ市の「逆手居合斬り」が毎回派手になっていき、観客を魅了した。
勝新が解説する、魅せる殺陣のテクニック
その殺陣については勝新自ら、こう語っている。
「この剣法のコツは、もの音(聴覚)とにおい(臭覚)をたよりに、カンで“パっ”とやるわけだから、まず聞き耳を立てるように小首をやや傾けて構える。
サヤを払って“サッ”と切る――これの“極意” は手首の返し。オレの場合、“踊り”の素養が最高に生かされていると思う。
それに“間”のとり方にも秘密がある。ピーンと神経を集中させると、見てるお客さんも“さあ、やるぞ”と息をつめる。
そして一瞬のうちに“バッ”と切る。 “ドサッ”と音がして、相手が倒れたとわかってから“スーッ”と刀を仕込み杖に収める。
静かな動、また静。剣道でいう“残心”だ」(「日刊スポーツ」1964年12月/永田哲朗著「殺陣チャンバラ映画史」現代教養文庫から孫引き)。
とりわけ、馬をあやつり、鞭ふるう用心棒(再び城健三朗)と壮絶なバトルを繰り広げる第6作『座頭市千両首』、自分の身代わりとなった女の忘れ形見(しかも赤ん坊)と旅をし、クライマックスで火責めに遭う第8作『座頭市血笑旅』、浪人 (成田三樹夫)と頭の中で棋譜を浮かべながら、詰め将棋を進め、一撃必殺の時を駆け引きする第12作『座頭市地獄旅』、剣戟大スター・近衛十四郎とのガチンコ勝負が素晴らしい第17作『座頭市血煙り街道』などは必見!
『座頭市地獄旅』の敵役浪人を演じた成田三樹夫については、こちらに関連記事があります。
いや、水中殺法が飛びだし、花火、蝋燭を使った闇の趣向も出色な第7作『座頭市あばれ凧』、両脇から太鼓を打ち鳴らされ、聴覚を狂わされる第13作『座頭市の歌が聞こえる』などなど、どの作品、どのエピソードも捨てがたい。
ちなみに『座頭市血煙り街道』は、フィリップ・ノイス監督、ルトガー・ハウアー主演で『ブラインド・フューリー』(1989年)としてリメイクされている。
テレビシリーズと、シリーズのプロローグ
機会があれば、映画シリーズ全29作、TV版全100作も踏破していただきたいものである。
テレビシリーズは1974年からスタートしました。
なお、『座頭市物語』の犬塚稔が脚本を担当、やはり勝新太郎が盲目のピカレスクな按摩師に扮し、白塗りの二枚目路線からの脱皮を果たしたプレ座頭市『不知火検校』(1960年)を観ておくことができるならば、よきプロローグになると思う。
キネマ旬報2003年9月上旬号掲載記事を改訂!
勝新太郎が自ら監督した作品『座頭市』もあります。こちらについてのレビューはこちらにあります。
敵キャラに注目した記事もあります。こちら!
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