森田芳光監督・脚本作『僕達急行 A列車で行こう』の出演は、松山ケンイチ、瑛太、他。
レビューをどうぞ!
劇中に登場する電車の数は、合計20路線80モデル!
はからずも、森田芳光監督の最後の作品となってしまったオリジナル企画の『僕達急行 A列車で行こう』。
主人公は、のぞみ地所の社員(松山ケンイチ)と、コダマ鉄工所を継いた若きニ代目(瑛太)。互いに「鉄道好き」という共通の趣味を持ち、意気投合し、それぞれ自分の人生観を全うしていこうとする。
映画自体は、言ってみるならアレか。三十路を過ぎても部屋をシェアし、「趣味に生きる」野郎ふたりのこだわりの生活と、不器用な恋の行方を軽妙にハートフルに描いてみせた『間宮兄弟』と、怪作『そろばんずく』のノリを掛け合わせちゃったような案配。
『そろばんずく』はとんねるずが敵対する広告代理店のサラリーマンに扮するコメディ!
とにもかくにも、九州各地でロケを敢行し、東京パートも合わせて劇中に登場する電車の数は、合計20路線80モデル!
全キャラクターを特急の名前にしたり、やりたい放題。
きっと長生きしても、こういったノンシャランとした森田映画を連発していたんだろうなあ、と思わせる出来。
哀しいけれども、彼らしいライトな遺作だ。
森田芳光本人が鉄道好きであることはとうにバレていたと思う。そもそも自主映画時代、電車(と風景)しか出てこない8ミリ『水蒸気急行』を1976年に発表しているのだから。
井の頭線、東海道本線、常磐線、山手線にモノレール・・・・・さまざまな路線がいろんなアングルから写しだされていた。
また、1985年に刊行した工ッセイ集「東京監督」(角川書店)には、「電車」のタイトルの一文が。
地下鉄・銀座線の車体の色の変化に端を発し、ささやかだが都会の風景論にまで話を広げている。
渋谷は円山町生まれ。実家の近くに井の頭線の神泉駅があり、一人っ子の彼は子どもの頃からよくそこを訪れ、さらに玉電、東横線、都電にも魅了されていたという。
それにしても『僕達急行 A列車で行こう』には、まるで永遠の別れが分かっていたかのように、あの人も出演している。
終電が出たあとの暗い停車場、堀切駅が登場する『の・ようなもの』の伊藤克信が顔を出しており、ドキっとした。
『の・ようなもの』は浅草で修行する落語家らの青春ドラマ。
これで森田映画は、劇場用映画デビュー作と遺作が山手線のように円環を成してしまった。
ふと考える。森田芳光にとって、電車、鉄道とは何だったのだろうかと。きっと、人と人、人と物が不意に出会うシステムの原初的なカタチだったのではないか。
あたかもインターネットを先取りしたようなーー。
心残りは、この映画の宣伝を兼ねて、「タモリ倶楽部」の電車企画に出ている森田サンを見たかった。タモさんとティープに語りあっている姿を……。
森田芳光監督については、こちらで詳しく紹介しています!
映画秘宝2012年発売号掲載記事を改訂!