ヤバい女に元刑事が惹かれていく、アバンギャルドなファム・ファタール映画。中国監督作『薄氷の殺人』

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館理人
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中国の俳優リャオ・ファンと、台湾の女優グイ・ルンメイの共演です。

館理人
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監督は中国のディアオ・イーナン。 レビューをどうぞ。

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演歌チックなベタなメロディで現代音楽を奏でる実験的演出スタイル!?

Photo by Felipe Correia on Unsplash

日本で言えば波瑠や橋本奈々未ぽいルックスのグイ・ルンメイは、17歳のときに『藍色夏恋』(2002)でデビュー。

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『藍色夏恋』は三角関係こじらせ青春ラブストーリー。

無骨な元刑事役のリャオ・ファンはベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀男優賞)に。

欧陽菲菲が台湾で出した「嚮往」で、踊り狂う謎のシーンも必見だ!

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欧陽菲菲オーヤン・フィーフィーは台湾の歌手。日本でのヒット曲は「雨の御堂筋」や『ラヴ・イズ・オーヴァー」などがあります。

ディアオ・イーナン監督、脚本を書き始めたのは2005年で、完成まで9年かかったそう。

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 いきなりハードルを上げたいと思う。この『薄氷の殺人』は、昨年のベルリン国際映画祭にて『グランド・ブダペスト・ホテル』『6才のボクが、大人になるまで。』などと競り合った結果、“最優秀作品賞”にあたる金熊賞を獲得している。

 ウェス・アンダーソン(『グランド・ブダペスト・ホテル』)やリチャード・リンクレイター(『6才のボクが、大人になるまで。』)といった鬼才と渡りあい、まだ監督3作目のディアオ・イーナンの名を一躍世に広めたのだが、一体どんな映画なのか?

館理人
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『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイターのドキュメンタリーはこちらの記事で紹介しています!

 内容自体は「よくある話」だ。

 ヤバい犯罪の匂いのする女に、真相を追う男が否応なく惹かれていく、いわゆるファム・ファタール物。

 ところが物語は通俗的だが、めちゃくちゃアバンギャルドなことばかりヤリ倒しているのだ。

 例えば冒頭、何やら得体の知れないブツが人間の“手首”だとわかるまでの数ショット。カメラアングル、カットつなぎ、編集のリズム……ここからもう、早くもタダ者ではない作り手の才気がビンビンに伝わってくる。

 警察が動きだし、美容室でバラバラ殺人事件の容疑者が確保されるのだけれども、偶然カメラが収めてしまった「不意の事故映像」のような銃撃戦がまた斬新!

 そこから5年もの月日が流れる時間経過の表し方もトリッキーで、刑事だった男は警察を辞め、落ちぶれた姿で再登場し、未解決のままのバラバラ殺人事件と対峙する。

 そして事件の本質と関わる、不思議な磁力を持ったヒロイン(グイ・ルンメイ)に砂鉄のごとく吸い寄せられてしまう。

 言ってみるなら演歌チックなベタなメロディで、現代音楽を奏でる実験的な演出スタイル。

 それはハマるとクセになるが、突っ走りすぎの才気に置いてきぼりにされる恐れも。なぜならばイーナン監督、あえて説明描写を省き、作品自体をバラバラに解体しているからだ。

 ネタバレに非ず、特に白日夢感を強めるラストの「白昼の花火」(これが原題)をどう受け取るか。 映画探偵になったつもりで、挑んでみてほしい。

轟

週刊SPA!2015年5月5日発売号掲載記事を改訂!