そんな是枝監督の過去作に『空気人形』があります。
韓国の女優で日本でも人気を得た(日本のCMにも出ていました)、ぺ・ドゥナが主演です!
代用品ではない人生を求めた人形に共感するか、はたまたペ・ドゥナの裸に興奮するか
原作は業田良家の短編漫画集『ゴーダ哲学堂 空気人形』。
“心”を持ってしまった空気人形の、生きることの喜びと悲しみを描きあげたファンタジー。
ペ・ドゥナが日本映画に出演したのは、山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』(2005年)に続いて2度目。
オリジナルストーリーにこだわってきた是枝裕和監督が、原作モノを選んだことでも話題に。
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この映画ってある種、“踏み絵”みたいな使い方ができると思う。というのも、観終えてからの感想によって、その人の現在の「幸福度」がざっくり、測れてしまうのだ。
さて、どんな物語か? 荒唐無稽なお話である。主人公はラブドール。
安物の性欲処理人形が突如“心”を授かって、持ち主(板尾創路)に隠れて家を抜け出すという展開。そしてさまざまな人々に出会い、レンタルビデオ店で働く青年(ARATA)に空気人形は恋をしてしまう——。
空気人形を演じるのは韓国の実力派女優、いや、今や世界が動向を注目しているペ・ドゥナ。
映画出演は『グエムル/漢江の怪物』(2006年)以来。
『グエムル/漢江の怪物』は、アカデミー賞作品賞受賞の『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督作です! こちらも大ヒット映画。
日本を代表する是枝裕和監督のオファーに応え、ヌードも辞さず、彼女が繊細で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたから、この荒唐無稽な物語は成立したといっても過言ではない。
例えば、窓の外の雨の滴に手をかざし、「キ・レ・イ」と呟き、初めて空気人形が動きだす場面。まるでモーフィングのように自ら変化していき、とても艶めかしく、ドキっとさせられる。
はたまた、ビデオ店でビニール製の体に穴が開いてしまい、プシュ〜としぼんでしまった後、青年の息=空気で満たされていくシーン。精気が甦っていくその姿は、エロティックにして崇高だ。
ビデオ店にシネポエムの傑作『赤い風船』(1956年)のポスターが貼ってあったが、空気人形=ペ・ドゥナも風船のように街を自由に漂う。
映画レビュー、ありますよ。
年を経て、何事にも“初めて”の感動がなくなり、すっかり擦れっからしになってしまった我々は、彼女を通じてもう一度、世界のなかにちりばめられた「キレイ」を体験していくわけである。
そんなふうに、人形と人間、空気と空虚をめぐる考察も本作には込められているのだが、観たのちに、“誰かの代用品”ではない人生を求めた空気人形にシンパシーを感じてしまったら、あなたは今、「相当お疲れ」で「不幸」だと言えよう。
「ペ・ドゥナの裸、良かったなあ」と無邪気に喜んで終われる人はノーテンキだが、実は幸せだ。ぜひ各自、試してみてほしい。
週刊SPA!2010年3月30日号掲載記事より改訂!
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