ジャック・ニコルソン主演、厭世家にして毒舌家で「アイ・ラブ・ユー」と言えぬ男の悲劇的恋愛コメディ『恋愛小説家』

スポンサーリンク
館理人
館理人

『恋愛小説家』(1997年)の監督はジェームズ・L・ブルックス、出演はジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、他

館理人
館理人

犬もいい助演してますから犬好きにもおすすめ! レビューをどうぞ。

スポンサーリンク

「どうしてもっと素直な気持ちになれないのかなあ……」

Photo by Krisztian Tabori on Unsplash

 厭世家にして毒舌家。しかも強迫神経症の上に極度の潔癖性。人付き合いという面で考えれば三重苦、いや、四重苦を抱えたキャラクターではある。

 しかしジャック・ニコルソン扮するこの男は熟年の恋愛小説家。

館理人
館理人

ジャック・ニコルソンはアカデミー賞ノミネート数が男優ではトップの12回! この『恋愛小説家』でもノミネートされ、主演男優賞を受賞しています。

 著書は60冊以上を数え、固定ファンも多く、功を遂げ名を成したヒトカドの人物らしい。

 現実世界では他人との没交渉を決めこんでいるが、いざ小説の中では優しく人間を見つめ、恋愛模様の機微とやらを書きあげているわけだ。

 そこで気になるのは一体、彼がどのような小説を書いているのか、ということである。

 パソコンへと向かう作家はひとり悦に入り、男と女の情景を綴ってゆく。ひたすら婉曲に、そして言葉の枠を尽くして形容を積み重ね“愛の本質”とやらを叙述してゆく。ただし「アイ・ラブ・ユー」の一語は決して使わずに。

 文はヒトなり――。

 つまり「アイ・ラブ・ユー」という恋愛の常套句を使うことなく、胸の想いを表現してみせようとするスタイル。

 単に小説を書くときの技巧にとどまらず、実人生においても。

 だから作家は行きつけのレストランの中年ウェイトレス(ヘレン・ハント)に恋しても、その一語を頑なに差し出そうとしないのだ。

館理人
館理人

ヘレン・ハントはこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞です!

出演作はほかに、『キャスト・アウェイ』や…

障がい者の性を描いた『セッションズ』など。こちらではアカデミー助演女優賞にノミネートされました。

 ひたすら婉曲に、言葉の枠(それは屈折して悪罵になってしまう!)を尽くして形容を積み重ね、己の恋愛小説を叙述してゆくのである。

 ま、裏を返せば「アイ・ラブ・ユー」と言えぬ男の悲劇ともいえるのだが。ヒロインが、こうコボすのも無理はない。

 「どうしてもっと素直な気持ちになれないのかなあ……」

 が、繰り返すまでもなく彼は厭世家にして毒舌家。

 熟年作家としての意地と、同時に初恋に動揺する子供のようなメンタリティに邪魔されて、二重の意味で例の一語が言えない。

 結局のところプロポーズめいた言葉といえば……さてこれが「アイ・ラヴ・ユー」よりずーっと心に染みるセリフだった。

 恋愛映画の常套句から遠ざかって、いかに胸の想いを表現してみせるか。全編を通じて感じるのは、職人監督ジェームズ・L・ブルックスのそのような矜持でもあるのだ。

館理人
館理人

ジェームズ・L・ブルックス監督作に、アカデミー賞監督賞・作品賞・脚色賞を受賞した『愛と追憶の日々』や…

製作を務めたトム・ハンクス主演のコメディ『ビッグ』

こちらも製作、トム・クルーズ主演の『ザ・エージェント』などがあります。

轟

キネマ旬報1998年6月上旬号掲載記事を改訂!

wowow