サッカールール、オフサイド・トラップが俄然面白くなる不思議。英コメディ『フル・モンティ』

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館理人
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炭鉱で働く男たちが、稼ぐためにストリップ興行を目指すコメディですが、人間のおかしみとひたむきさが滲み出る良作。

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監督はピーター・カッタネオ、出演はロバート・カーライル、 トム・ウィルキンソン、他。1997年のイギリスの映画です。

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監督のピーター・カッタネオはこの作品で、米アカデミー賞監督賞にノミネートされました。ではレビューをどうぞ!

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人生はオフサイド(=敵よりも前に出て、ボールを受け、シュートしてはいけない)をめぐる攻防

Photo by Rob Laughter on Unsplash

 失業中で身も心もドツボ状態の野郎6人が一念発起。なんと雁(カリ!?)首揃えて男性ストリップに挑んじゃうてな痛快作。

 その出会いから、思わず拍手喝采の〈スッポンポン〉ショーへと至るプロセスは、踏んだり蹴ったりな“現実”を映しだしつつ、一方で「バンド結成映画」の味わいにも似た絶頂感を描きだしていく。

館理人
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主演はロバート・カーライル。ダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガーと共演した『トレインスポッティング』(1996年)のヒットで世界に知られる役者となりました。薬物中毒を描いた映画です。

館理人
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ロバート・カーライルの近作に、同じダニー・ボイル監督作『イエスタディ』(2019年)があります。なんと、ジョン・レノン役。

 紆余曲折に満ちた、サエねえ野郎どものエピソードのひとつひとつが、ラスト(のライブ)に向かってハーモニーを醸し出すように積み重なっていくのが、何とも楽しいのだ。

 とりわけ可笑しいエピソードを挙げるなら、それまで踊りのタイミングがちっともつかめなかった彼らが、コーチの「オフサイド・トラップの要領で!」の一言でコツを飲み込むところ。

館理人
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出演のトム・ウィルキンソンはこの映画出演後、米アカデミー賞に2回ノミネートされてます。『イン・ザ・ルーム』で主演男優賞、『フィクサー』で助演男優賞。

 イギリスはいにしえの鉄鋼業の町シェフィールドが映画の舞台で、サッカーのチームが2つもあるという場所柄だ。カラダのすみずみまで“オフサイド”の感覚が、すっかり染みわたってしまっているのが微笑ましい。

 しかし考えてみるとだ、この“オフサイド”を知っているか否かで、人生というやつも随分と変わってくるのではないか?

 いや、サッカーが楽しめないとかそういうことではなくって。

「敵よりも前に出て、ボールを受け、シュートしてはいけない」

 これがめちゃくちゃ要約した“オフサイド”のルールである。つまり、戦列から離れてプレーするのは卑怯者、というジェントルマンの国ならではの騎士道精神のあらわれだ。その際重要なのは、転がるボールにつれて選手は動き、また“オフサイド”のラインも常に動いている点。まさしくサッカーとはこの見えない〈オフサイド・ライン〉上にて交わされる攻防戦なのだ。

 しかし攻める側はいい。この『フル・モンティ』の野郎6人のように、守勢に回ってばかりいる奴らはどうすればいいのか。

 そこで“オフサイド・トラップ”である。守備陣の、意思統一により(見えない)ラインを上げ下げし、文字通り“罠”を張る。それはリスキーだが、守備陣の最強の武器でもあるのだ。

 人生の攻防――すなわち人生の“オフサイド”をめぐる攻防。女の時代の裏を掻く、男性ストリップにそれを見た。

轟

キネマ旬報1998年3月上旬号掲載記事を改訂!