いいんですよ、役者が。存在感がすごいコメディ役者3人の競演です。
題材もいいんです、野鳥を見る競技、とでも言いましょうか。競技なのにルールはルーズ!
いいんですよね〜なんか、っていう「なんかいい」ジャンルの映画です。
ブラック・ジャック、オーウェン・ウィルソン、スティーブ・マーティンと原作ノンフィクションの当たりコラボ
映画を観たあとはひとしきり、こんなことを考える。「なぜ、自分はその作品が好きになったのか?」と。
案外、答えはすんなりとは出てこないものだ。漠然と「面白かったから」で済ませればよいのだが、そうもいくまい。で、何か、自分を刺激する規則性でもあるのか探ってみたりもして。面倒くさい。つまらない自分と向き合うなんてイヤになる。
今回、ここに挙げた『ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して』のことは、いたく気に入っている。
しかし、それを言語化するのはやはり難儀で……原作も読んでみた。マーク・オブマシックの手によるノンフィクション『ザ・ビッグイヤー 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲』(アスペクト刊)。こちらも当たりだった。
タイトル上の“ザ・ビッグイヤー”というのが映画の原題でもあって、アメリカ探鳥協会主催のイベント名の名前。1年間を通し、北米大陸で見つけた鳥の種類の多さを競い合う記録会が毎年行われているのである。
が、ルールはルーズで、鳥の写真は撮らなくてもよく、鳴き声を聴いただけでもカウントされ、全て自己申告制。しかも賞金はなく得られるのは名誉のみ。
そんな大会に公私を犠牲にし、大金注ぎ込み、北米大陸を飛び回る競技者=バーダーが相当な数、存在するのであった。ちなみに原作者は、“バードウォッチャー”なる言葉についてはこう書いている。
「プロにとってこの呼び名は、ただ漫然と小鳥がやって来るのを待つだけのオールドミスや、退役軍人を指す蔑称にすぎない。私は熱狂的ファン、追跡者、そう、探鳥家(バーダー)になったのである」(翻訳:朝倉和子)
かような探鳥家たちを映画で演じたのは彼ら。36歳で実家暮らしのバツイチ男にジャック・ブラック。大企業のCEO役にスティーブ・マーティン。そして前年度王者で732種という驚異的な記録保持者にオーウェン・ウィルソンと、コメディファン垂涎のキャスト……だが! 3人共にやり過ぎず、リアルな線は崩さない。そこがイイ。
趣味にのめり込む三様の人生を、愛ある眼差しでスケッチしたのはデビッド・フランケル。『プラダを着た悪魔』『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』の監督で、どちらも好みだ。それから、撮影監督ローレンス・シャーの仕事全般とも、相性は良し。
『プラダを着た悪魔』は主演メリル・ストリープ&アン・ハサウェイ。
オーウェン・ウィルソンは『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』にも出演してます。
断っておくが、筆者は鳥好きではない。しかし四季折々の自然、数々の鳥の生態(とりわけオスとメスが空高く舞い上がり、地面スレスレまで互いを放さずに繋がったまま真っ逆さまに落ちる、ハクトウワシの感動的な求愛の儀式)、何より男たちの(期間限定の)バカ騒ぎに胸が熱くなった。
そういえば、原作のタイトルに出てくる「狂詩曲」には、“ラプソディー”とルビがふってあったが、大人コドモ最後の祭りの狂おしさに魅かれるのだろう。エンドクレジットも素敵。繰り返し観たくなる。
キネマ旬報2012年9月号掲載記事を改訂!