読む映画リバイバル『接吻』

不敵な笑みを浮かべ、奇行を繰り返す女優・小池栄子、天晴である

(2009年3月3日号より)

 皆さんは、小池栄子という名前を耳にして何を思い浮かべるだろうか? 巨乳の元グラビアアイドル。総合格闘家・坂田亘の奥さん。バラエティやトーク番組などで仕切りのうまい、頭の回転が速いタレント……ふむふむ。どれも納得の答え。

 だが、この映画『接吻』を観た後は認識が一変し、こう思うはずだ。

「女優・小池栄子、天晴れ!」

 彼女の役柄はOLである。とても陰気で地味な。会社から帰宅し、報道陣のカメラに向かって微笑む男の姿をTVで観て、ふと啓示を授かる。男は、一家三人を惨殺した坂口(豊川悦司)。映画はひたすら啓示どおりに行動する彼女を追いかける。

 もうハチャメチャなんである。新聞や雑誌の記事を切り取り、スクラップを始め、“坂口ノート”を作る。裁判を傍聴し、だんだんと彼に近づいていき、手紙や差し入れは当たり前、拘留中の坂口に面会を申し出て、しまいには獄中結婚してしまう。

 これは“啓示”なのだから理由はよくわからない。「一目惚れをした」だの「相手に自分と同じ人生の孤独と絶望感を感じ取った」だの、言葉では一応そう説明できるが、違うような気がする。強いて言うなら、悪の限りを尽くし、微笑む男の魂が憑依してしまったと。我々は、常軌を逸した行動を繰り返す小池栄子から目が離せなくなる。理解不能のまま。

 魂が憑依しているのだから、期待してもいい。彼女も“悪の微笑み”を見せる瞬間がやってくる。このシーンが素晴らしい。今、思い出してもゾクゾクする。日本映画のマニアならば「増村保造作品のミューズ、若尾文子が浮かべたかのような不敵なスマイル」と呼ぶだろう。

 終始、ビーンと異様な緊張感をはらみながら、物語は驚愕のエンディングに突入する。「栄子、一体、何をやってんだ!」と叫びたくなる。やっぱり理解不可能だ。しかし、だからこそ、止めどもなく惹きつけられる。理解したくって。最後の最後に出る「接吻」のタイトルが、彼女の“ゲーム”の意味を反芻させる。女は怖し。本作を全身で支えてみせた女優・小池栄子、天晴れである。

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究極の純愛か? はたまた狂気の妄想か? 閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件。犯人の坂口は警察やマスコミを挑発し、逮捕前に自ら姿をカメラにさらした。それを見たOLの京子は、彼に魅かれ、奇怪な行動に走っていく。主演の小池栄子が、ヨコハマ映画祭、毎日映画コンクールで主演女優主演賞を獲得した。

[週刊SPA!掲載]
●監督:万田邦敏●出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、他●2008年●日本