読む映画リバイバル〈トム・クルーズ〉『アウトロー』

アメリカの良心の継承 グレゴリー・ペックからトム・クルーズへ

(2013年2月上旬号より)

 懐かしい“匂い”

 映画が始まった途端、ちょっとタイムスリップしてしまったのかと思った。『ダーティハリー』(71)のオープニングよろしく、白昼、何者かが屋上に立ち、市井の人々を狙撃して回るシーンが目に飛び込んできて、出だしからなんとも不穏でヤバい、洗練なんて言葉には背を向けたあの“70年代アクション映画”の匂いが鼻孔をくすぐったのだ。

 トム・クルーズ主演の最新作『アウトロー』の第一印象である。どうやらそれは、あながち早合点でもなかったようで、“70年代アクション映画”のトーンは最後まで持続し、カラダを張った本気(マジ)なカーチェイス、男騒ぎのする格闘シーンや銃撃戦が今どき珍しい“活劇の味”を形成していく。おまけにトムの役柄は、元米軍のエリート秘密捜査官。自由と正義を愛し、放浪の旅を続ける一匹狼の“流れ者”という徹底してパルプな、アナログヒーローぶり。これをタイムスリップと言わずしてドーする!

 もう少しストーリーの流れに添って、主人公のキャラクターを紹介しておこう。冒頭の事件の容疑者として、元軍人のスナイパーが逮捕される。ところが全面否認し、身の潔白を証明してくれることを望んで、彼がかつて軍で最も恐れていた男への連絡を要求する。そこで現れるのがトム・クルーズ扮するジャック・リーチャーだ。圧倒的な戦闘能力と明晰な頭脳で“真実”を追究し、しかも我が道を行くワイルド&アウトローなヒーローなのだが、21世紀の現代においてはやはり、どこか時代錯誤な男である。

 オフィシャル・インタビューによれば、リー・チャイルドの原作『One Shot』を脚色、監督したクリストファー・マッカリーは、主人公リーチャーの考え方、そのライフスタイルにまず魅かれたのだという。どうやらクラシックな西部劇を愛好するマッカリーは、荒野に登場するような正義漢、流れ者のヒーローにジャック・リーチャーと相通ずるものを感じたのだった。本作の懐かしい“匂い”の正体が少し分かってきた。

大いなる西部

 マッカリーに関しては、もちろん『ユージュアル・サスペクツ』(95)や『ワルキューレ』(08)の脚本家、という紹介もできるのだが、今回はそれよりベニシオ・デル・トロとライアン・フィリップ共演の『誘拐犯』(00)の脚本、監督の人──の線で考えたほうがいい気がする。作家の資質はデビュー作に色濃く反映される、との伝を信じれば、武骨な“70年代アクション映画”ばかりか、銃撃戦にこだわる西部劇のスタイルを継承していた『誘拐犯』は、この『アウトロー』への第一歩であったといえよう。

 これも趣味趣向の表れだが、『誘拐犯』でマッカリーは、ジェームズ・カーン、スコット・ウィルソン、ジェフリー・ルイスといった(70年代に活躍した)激シブなアクターたちを起用していたが、『アウトロー』ではロバート・デュヴァル、それから(ドイツの鬼才監督)ヴェルナー・ヘルツォークまで担ぎ出している。ちなみにデュヴァルがトム・クルーズと組むのは、トニー・スコット監督の『デイズ・オブ・サンダー』(90)以来だが、ドライバーとチームオーナーという互助的な関係性はこの『アウトロー』にも形を変えてスライドされており、さすがに名優デュヴァル、好サポートを魅せている。

 さて、事件の裏側の真相を暴くべく行動するリーチャーに倣って、『アウトロー』という映画のバックボーンをさらに探ってみようか。マッカリーは我々にヒントを与えてくれていた。たとえばこんなシーンだ。金で雇われ、己を襲った連中の自宅を速攻でつきとめ、乗り込んだリーチャー。部屋の中には誰もおらず、(やや不自然な感じで)テレビがついている。そこに映っている画像に目をやると、流れていたのはあのウィリアム・ワイラー監督の『大いなる西部』(58)ではないか!

 ここを素直にマッカリーからの“サイン”だと受け取ってみる。『大いなる西部』とはテキサスを舞台にした、東部からやってきたひとりの紳士(グレゴリー・ペック)の奮闘劇だった。新参者である彼はよそ者で“アウトロー”であり、だがたとえ周囲から存在が浮いても、己の生き方を全うしようとする男なのだ。(映画版の)ジャック・リーチャーはその末裔である。これは穿った観方だろうか?

 では『アウトロー』に、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの名高い“素手での殴り合い”を彷彿させるシーンがあるのは偶然か。

 もうひとつ強引な、いや、決定的な証拠を! 『大いなる西部』はワイラー監督と共に、グレゴリー・ペックが製作にも携わった映画だ。セルフプロデュースするトム・クルーズはマッカリーと共謀し、この『アウトロー』で、かつてのアメリカの良心であり理想像であったグレゴリー・ペックのアイコンを彼らなりに継いだのだった。ジャック・リーチャーというパルプでアナログヒーローを通して。以上で、本作の懐かしい“匂い”の正体は、かなり判明したのではないか。

[キネマ旬報掲載]
『アウトロー』●監督:クリストファー・マッカリー●出演:トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、他●2012年●アメリカ