読む映画リバイバル『エスター』

見た目にそぐわぬ孤児の“蛮行”に思わず恐怖。彼女の正体とは……?

(2010年3月16日号より)

 煽るのが仕事ゆえに仕方ないのだが、映画の宣伝では「意外な結末」「大ドンデン返しが待っている」といった類の惹句がよく躍る。これは威勢がいい反面、作品のハードルを著しく上げてしまうわけで、結果厳しい視線を浴び、“期待ハズレ”の烙印を押されることもある。

 そこで、今回紹介する『エスター』である。手元の資料には「絶対予測不可能な結末に、全世界の心臓が止まる」と書かれている。もう大変だ。ハードルはMAXに。そんなに強く押し出しちゃっても大丈夫なのか?

 孤児院から、ある家族のもとに養女として迎えられた9歳のエスター。ロシア出身で、その言動は利発ともマセているとも言え、いちいち何だか癇にさわる。そして、ジワリ、ジワリと明かされていく恐るべき本性。

 監督のジャウム・コレット=セラは以前、リメイク版『蝋人形の館』で王道のホラー演出を披露していたが、今回もサスペンスの盛り上げ方にワザあり。たとえばエスターは、風呂場にカギをかけるのを許してもらう代わりに、安否の確認のため歌を口ずさむ。姿は見えないが歌声だけが響く。ふと気づくとドキっ! 彼女は思いもよらぬところに立っている。

 この歌はスタンダードなナンバー「グローリー・オブ・ラブ」。米国の往年のコメディアンでシンガーでもあるジミー・デュランテや、数々のアーティストの歌唱で知られるが、名画『招かれざる客』(’67年)にも使用されていた。つまり、歌詞はスイートなラブソングだが、エスターは最初から自らを“招かれざる客”として予告していたのだ。一家をバラバラにし、血祭りにあげていく強烈なキャラ。’97年生まれ、エスター役のイザベル・ファーマン嬢の怪演には、誰もが目を奪われることだろう。

 ところで、なぜエスターは温かい家族に対して蛮行に出たのか。その理由が、ラストにはわかる仕掛けになっている。だまし絵的に浮きあがるエスターの本音。それを知ったとき、観る者は、高いハードル越えに果敢にも挑んだ本作に拍手を送りつつ、「即座にもう一度初めから観直したくなる」に違いない。

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原題は『ORPHAN』。文字通り、孤児の意。本作ではそのヒロイン、エスターが悪魔的な行動を繰り返し、周囲の人々を破滅に追い込んでいく。“ホラー命”のダークキャッスル・エンタテインメントが贈るサスペンス・スリラーで、心理劇としても秀逸。特典には劇場版とは異なるエンディングも収録される。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ジャウム・コレット=セラ●出演:イザベル・ファーマン、他●2009年●アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス