森﨑東監督(1927〜2020年)の喜劇映画は逸品。
印象的な作品の数々を残した日本映画界の巨匠です。
復刻するのは、森﨑監督の、80歳の時のインタビュー記事です!『ニワトリはハダシだ』を撮ったあと、『ペコロスの母に会いに行く』を撮る前のあたりでお話を伺っています。
まずはざっくりプロフィールを!
森﨑東 プロフィール
もりさき・あずま
1927年11月19日、長崎県島原市生まれ。
京都大学法学部を卒業し、1956年、松竹京都撮影所に入社。
その後、大船撮影所に移り、1969年『喜劇・女は度胸』で監督デビュー。
1975年、フリーとなり、『時代屋の女房』(1983年)、『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(1985年)、『釣りバカ日誌スペシャル』(1994年)などを精力的に発表。
2004年の『ニワトリはハダシだ』は芸術選奨文部科学大臣賞、東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞に輝いた。
2013年、遺作となってしまった9年ぶりの映画『ペコロスの母に会いに行く』を発表、第87回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位に選ばれた。
2020年7月16日、死去。
動画配信サービスやDVDで観られる森﨑映画には、以下のようなものがありますので、こちらもざっくりご紹介!
これから森﨑映画を観るならこの5本!
『喜劇・女は度胸』
倍賞美津子の、松竹主演第1作
1969年 出演:渥美清、倍賞美津子、清川虹子、ほか
父(花沢徳衛)とその息子たち(渥美清、河原崎建三)が織りなす破天荒なトラマラチ静観していた母親(清川虹子)が、男たちに一喝入れる場面の凄み! 岡林信康の名曲「くそくらえ節」を効果的に使用。
※U-NEXTでは見放題タイトルにラインナップされています(2021年7月現在)
『喜劇・女は男のふるさとヨ』
純情とバイタリティが交錯する
1971年 出演:森繁久彌、伴淳三郎、倍賞美津子、ほか
ストリッパー斡旋所・新宿芸能社を舞台にした『女シリーズ』第1弾。人のいい経営者夫婦(森繁久彌、中村メイコ)と踊り子たち(素顔が“泣き顔”に見える星子役の緑魔子!)の喜怒哀楽を描いた傑作。
※U-NEXTでは見放題タイトルにラインナップされています(2021年7月現在)
『時代屋の女房』
夏目雅子主演!直木賞小説を映画化
1983年 主演:渡瀬恒幸、夏目雅子、沖田裕之、平田満、ほか
直木賞小説を映画化。骨董屋を営む男性と、ある時店を訪れた女性との大人のラブストーリー。映画のヒットにより続編『時代屋の女房2』も作られたが、監督、キャストとも一新されている。
※U-NEXTでは見放題タイトルにラインナップされています(2021年7月現在)
『生きてるうちが花なのよ。死んだらそれまでよ党宣言』
“宴会映画”のエネルギー炸裂
1985年 出演:倍賞美津子、原田芳雄、平田満、ほか
旅回りのダンサー(倍賞美津子)と、原発を転々と渡り歩く原発ジプシー(原田芳雄)。そろそろカタギの仕事について結婚しようとする二人に事件が。多声的な語りロ、映画的パワーに満ちた一大狂騒曲。
『ペコロスの母に会いに行く』
温かく切ない介護の悲喜こもごも
2013年 出演:岩松了、赤木春恵、加瀬亮、ほか
認知症の母親の介護体験を題材に綴った同名のエッセイ漫画を映画化。62歳の独身漫画家ペコロスと母親との交流が温かくユーモラスに、切なく描かれる。
※U-NEXTでは見放題タイトルにラインナップされています(2021年7月現在)
では、インタビュー記事をどうぞ!あ、その前にもう1本紹介!
インタビュー時での最新作は映画『ニワトリはハダシだ』になりますので、そちらのご紹介も挟んでおきます!
『ニワトリはハダシだ』
1985年『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』の続編的映画
2004年 出演:肘井美佳、石橋蓮司、原田芳雄、ほか
知的障害を持つ少年(浜上竜也)は、人並み外れた記憶力が災いし、汚職事件に巻き込まれてしまう。タイトルの意味は、普遍性=当たり前のこと。舞台の京都府舞鶴に、森﨑監督は故郷・島原を重ねた。
森﨑東監督・80歳インタビュー
(取材・文 轟夕起夫)
映画をクソ真面目に作ることは、罪悪だ!
パワフルでアナーキー、かつエモーショナル。森﨑東監督の映画を端的に紹介しようとすると、そんな言葉が並ぶ。雑多な登場人物たちが人間喜劇を繰り広げながら、画面にはフツフツとやるせない哀しみと怒りがたぎる。監督デビュー作『喜劇 女は度胸』から、そのテイストは全開。森﨑映画のミューズともいうべき倍賞美津子との出会いの1本であり、森﨑監督らしい反骨精神あふれるエピソードに彩られた作品である。
森﨑 渥美清さんにね、どうしても僕は出てもらいたかったんですよね。というのは、当時の松竹の社長(=城戸四郎)に呼ばれてこの映画を作ることになったんだけど、城戸さんは 役者なんかに寄りかかったらダメだ。脚本さえ良ければ喜劇映画は作れるんだ、っておっしゃった。要は、ある俳優のスケジュールがとれず、封切日に穴が空きそうになったので、僕に監督の話が来ただけのこと。とにかく急遽、山田洋次さんと脚本作りに取りかかったんですが、城戸さんは「役者は映画に関係ない」とおっしゃったわけで、僕はその社長の意見に対し、真っ向から逆のことがやりたくなった。それで「渥美さんが出てくれば監督をやります。無理ならば降ろしてください」と掛け合ったんです。
結果、渥美清が演じた役柄は、バカ兄貴──最高にハチャメチャで可笑しいキャラクターだった。続いて『喜劇 男は愛嬌』では、渥美氏をダンプカーに乗せ、家を半壊させたが、この破壊と解体は、森﨑映画を語る際のキーワードかもしれない。
森﨑 それ、よく言われるんですよ。まあ、あまりに整っているものに、ウソ臭さを感じてしまうのは確かですかね。ケチをつけて壊したい、そんな僕の根性の表れなんじゃないでしょうかねえ。
振り返れば『男はつらいよ』第1作に脚本参加、第3作『男はつらいよ フーテンの寅』では監督も。キャリア一貫して、喜劇にはこだわってきた。
森﨑 悲劇のほうが喜劇より、高級だとされる考えには、アンチを唱えたい。笑いながらね、得心したことのほうが正しいと思うんですよ。何の科学的な証明もできませんけど(笑)。映画を観ていただいて、笑えたと言ってもらえると、とても嬉しい。「映画をクソ真面目に作ることは、罪悪だ」という刺青で今までやってきましたから。それは『ニワトリはハダシだ』まで、ずーっとですね。
喜劇ではあるが、ときに怒劇とも呼ばれるその世界観。森﨑監督は、行き場/生き場を奪われていく者たちにとって、「心安まるホーム(家庭・故郷・祖国)は一体どこにあるのか?」と映画で問うているかのようだ。
森﨑 たとえば、人を殺めてしまう人がいる。その気持ちをすくい取りながら、どうやったら喜劇として描けるか。そういう勝負に、挑んではきましたかね。
森﨑映画のもう一つの特徴は、歌を使った場面の素晴らしさ。ちなみに監督のおはこは、沖縄俗謡「十九の春」。『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』の劇中歌でもある。
森﨑 撮影中、延々と歌っていたので、いつしか覚えてしまったんですね。歌本来の力と、映画の情感が二重になるのが好きです。
現在、新作を用意しているという。脚本の第一稿は完成した。
森﨑 原田芳雄さんと加瀬亮くんの共演を想定して、書いています。
その完成を心待ちにしたい!
月刊スカパー!2008年8月号掲載記事を再録です。
80歳でまだなお、脚本をお書きだった森﨑監督、このインタビューのあとに監督した映画は、お話されていたものとは違う作品『ペコロスの母に会いに行く』となりました。
原田芳雄さんですが、このインタビューの3年後に亡くなられています。
関連記事、こちらもどうぞ!