監督語り【森崎東】人への優しさと傲慢さへの怒り。喜劇で涙腺を決壊させる力技!

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館理人
館理人

森崎東監督のご冥福をお祈りいたします。どんな監督だったかを、改めてご紹介させていただきます。

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プロフィール

もりさき・あずま
(1927年11月19日ー2020年7月)

長崎県島原市生まれ。京都大学法学部卒業。
1956年、松竹京都撮影所に入社。その後、大船撮影所に移り、野村芳太郎監督、山田洋次監督の助監督、脚本などを手がける。
1969年、『喜劇・女は度胸』で監督デビュー。『喜劇・男は愛嬌』『男はつらいよ フーテンの寅』『高校さすらい派』などを立て続けに発表し、1971年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
1983年『時代屋の女房』(出演:夏目雅子)、1985年『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(出演:倍賞美津子)、1996年『美味しんぼ』(出演:三國連太郎、佐藤浩市)など話題作を手がける。
2004年『ニワトリはハダシだ』から9年ぶりとなった映画、2013年の『ペコロスの母に会いに行く』が遺作となる。

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追悼・森崎東

喜劇で涙腺を決壊させる力技

 とにかく、パワフルでアナーキー、かつエモーショナルな作風なのだ。監督森崎東。初期の映画は便宜上、タイトルに往々にして“喜劇”と付けられていたが、本人が自認するごとくファンのあいだで“怒劇”と呼ばれ、“喜劇”なのに涙腺を決壊させることもしばしばであった。

 そんな森崎節は、監督デビュー作『喜劇・女は度胸』(1969年)から全開である。

 これ、一度は脚本部に配転させられた身ゆえに、監督できるのも1本きりだろうと「やりたいようにやりゃあいいんだっていう感じ」で撮りあげたそう。

 結果、予算もオーバーしての、型破りな新人作家の誕生となった。主人公は気の弱そうな青年(河原崎健三)だが、恋人(倍賞美津子)の“コールガール疑惑”でどんどんテンパりはじめ、さらに出てくるヤツラはみ〜んなハチャメチャ。

 特にダメ父親(花沢徳衛)とバカ兄貴(渥美清)は喧嘩ばかりしていて、家族は騒動が絶えない。それが頂点に達した瞬間、いままで寡黙に傍観していた母親(清川虹子)が、野郎どもを一喝するシーンの迫力といったら!

 監督第2作『喜劇・男は愛嬌』(1970年)での一見常識的なキャラクターは、ボランティアで保護司をやっている若者(寺尾聡=現・寺尾聰)。

 倍賞美津子はここでは鑑別所帰りのヒロインで、渥美清は遠洋マグロ船に乗るヤクザな“ケラ五郎”というキレた役で大いに笑わせる。このケラ五郎と相棒(佐藤蛾次郎。『男はつらいよ』コンビだ!)の運転するダンプカーが家の中へと飛び込んできて、半壊させてしまうデタラメさ。しかしそれでも家の者たちが、平然と生活を続けているオカシサよ。

 ところで森崎監督は、かような極端な描写を通じて、実は“血の絆”や“家族解体”などのテーマ(!)を潜り込ませていたのであった。

 さらに転じて、“寄せ集めの疑似家族”の物語に深化させていき、これが「新宿芸能社」というストリッパー斡旋業を営む夫婦を軸にした、いわゆる「女シリーズ」や、堺正章、栗田ひろみ、笠智衆らが共演した傑作ロードムービー『街の灯』(1974年)にも繋がっていく。

 さて『喜劇・女は男のふるさとョ』(1971年)の主演は(むろん)倍賞美津子だが、助演の緑魔子がまた素晴らしい! 扮するストリッパーの星子は素顔が“泣き顔”に見えるため整形手術するのだけれど、お金が足りず、片目だけイジり、余計アンバランスなルックスになる。

 そんな彼女がある夜、自分のカラダを捧げて自殺しようとしていた青年を救うエピソードは、いつ観ても胸がしめつけられる。その行為は警察に咎められ、呼び出された女将(中村メイコ)は、刑事(山本麟一)と対決する。

 画面に充満するのは「やるせない哀しみと怒り」。森崎監督は問うている。「世の中の不条理な力で“行き場/生き場”を奪われていく者たちにとって、心やすまるホーム(家庭・故郷・祖国)は一体どこにあるのか?」と。

 シリーズ第3弾『喜劇・女売り出します』(1971年)は、一段と心意気の映画だった。

 ヒロインの浮子(夏純子)はひょんなことから「新宿芸能社」に身を寄せ、スリの特技を活かし、“手品”ストリッパーとして人気を博すようになる。だが、そこにスリ仲間の武(米倉斉加年)が連れ戻しに来る。彼女はつい昔のクセが出て、街で財布をモノにしてしまう。中から一通の手紙が。その文面と裏情報から、ひとりの少女がヤバい売春組織に売られたことを知り、一面識もないのに2人は救出しようと試みる。

 この森崎版『タクシードライバー』(と言ってしまおう)で、米倉斉加年はロバート・デ・ニーロ並みの名演を披露する。

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館理人

『タクシードライバー』は監督:マーティン・スコセッシ、出演:ロバート・デ・ニーロ、ジョディ・フォスターの傑作。正義感から過激な行動をとる若きタクシードライバーを描きます。

 商売道具の指を2本ツメられ、にもかかわらず、武が「へっ、笑わせるぜィ、まったく……」(なぜ“笑わせるぜ”なのかは本篇に出会えた時のお楽しみに!)といつもの口癖を吐いてみせるシーンは、本当に最高だ。

貫いたのは、人への優しさと傲慢さへの怒り

 俗と聖。渾沌と純真。はたまた、さまざまな人間像へと注がれる厳しくも優しい目と、傲慢な権力(者)への怒りの心情。

「エモーションがモーションを生み出す」という意味ではアクション映画とも呼べるし、バイタリティみなぎる“ごった煮”群像劇でもあって、それらのコアな要素は晩年、2004年に公開された『ニワトリはハダシだ』や『ペコロスの母に会いに行く』(2013年)まで通底しているものだ。

館理人
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『ニワトリはハダシだ』は、出演:肘井美佳、石橋蓮司、余貴美子、原田芳雄、倍賞美津子、ほか。優れた記憶力を持った知的障害者のサムと、その家族たちのヒューマンドラマ。

 森崎東の映画は、いつでも“闘う姿勢”を失わない。「やるせない哀しみと怒り」を湛えながら、この世の不条理に対し、「へっ、笑わせるぜィ、まったく……」と呟きつつ、前を向いて歩きはじめるのだ。

 

(轟夕起夫)

館理人
館理人

『ペコロスの母に会いに行く』は岡野雄一の漫画を映画化。認知症を患った母親と息子を描きます。出演は赤木春恵、原田貴和子、岩松了、加瀬亮、竹中直人、ほか。2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テンにて日本映画ベストワンを受賞したほか、数々の映画祭で受賞した傑作です。

轟

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館理人
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