エンターティナー二宮和也さんの、俳優の面を語ったレビューを蔵出しでご紹介です。
二宮さんは実在の写真家を演じた主演映画『浅田家!』が2020年10月2日公開!
レビューは『浅田家!』の前作にあたる、2018年の『検察側の罪人』公開時に雑誌へ寄稿したのものとなります。二宮さんの出演映画を振り返った役者・二宮和也論を読むと、あらためて過去作が観たくなっちゃいます!
スーパーセッションの名手
(文・轟夕起夫)
二宮和也。もう10年以上も前の話、『硫黄島からの手紙』に選出されたタイミングで取材をしたときのこと。圧倒的なクレバーさに驚かされ、なおかつ大舞台であってもゴーイング・マイウェイ、「いつもどおりにやろうとしました」と平然と言ってのける、その絶妙な“力の抜け具合”に瞠目させられた。
『硫黄島からの手紙』は『父親たちの星条旗』とセット。第二次世界大戦の硫黄島の戦いを、アメリカと日本のそれぞれの視点で描いた、日本側視点の映画。戦争を両視点から描いた映画は画期的でした。出演は渡辺謙、二宮和也、伊藤剛志、加瀬亮、中村獅童、ほか!
手がけたのはご存知、世界最高峰のひとり、クリント・イーストウッド。理詰めではなく
感覚的に役柄を掌握し、毎回段取り芝居からはほど遠い二宮のスタイルとイーストウッドの“1テイク主義”は波長が合っていた。撮影現場で生成される、一回性にも似た“ライブ感”こそが重要なのだ。
二宮の独特な台本の捉え方──自分のセリフを中心に、あとはポイントを押さえる程度しか読まないメソッドも、この“ライブ感”とつながっている。それを支える柔軟性、反射神経の素晴らしさは、どの共演者も証言するところ。しっかりと受けては返す(演技の)キャッチボールが“場面”を、そして“作品”を活性化させてやまない。
先頃放送された(注:2018年)連続ドラマ『ブラックペアン』で(お得意の)尖鋭的なアドリブが話題になっていたが、彼は瞬時にして最適解を弾き出す。しかもイマジネーションとバリエーション豊かな解答を。
その最新形の“ライブの模様”と出会えるのが、『検察側の罪人』である。木村拓哉扮するエリート検事・最上毅の、検察教官時代の元教え子にして部下に当たる沖野啓一郎役。新人検事の強さと弱さ、さらには複雑な心情を演じ、多面的な人物像の“細密画”を描き上げている。同じようにライブへと身を投じた木村拓哉とセッションをしながら。
思えば『硫黄島からの手紙』の渡辺謙、『母と暮せば』の吉永小百合、『赤めだか』のビートたけし……二宮はこれまでも、スーパーセッションの名手であった。
『青の炎』のときに、監督の蜷川幸雄が与えた「演技にはルールなんてないから、自由にやってごらん」というアドバイスが彼の背中を押したのだと思う。
成長した今の二宮和也の演技にピッタリなのは、かの黒澤明が好んで使っていた言葉「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」だ。いかがであろうか?
ぴあMovie Special2018夏号掲載記事を改訂!
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