ドラマ『太陽の子』(2020年)……涙を禁じえませんでした。思い出したのはやはりこの作品。三浦春馬さんは映画『永遠の0』(2013年)で「現代パート」の若者の役を演じられ、この作品との出会いで、自身の祖父の人生に触れられたことがありがたかった、と取材時にお話くださいました。
インタビュアー・轟夕起夫に語ってくださったお話は映画公開に合わせ、雑誌記事になりました。これを復刻し、みなさまと共有したいと思います。
『永遠の0』データ
インタビュー
(取材・文 轟夕起夫)
太平洋戦争中、飛行機乗りとして数々の戦場をゼロ戦と共に駆け抜けた宮部久蔵。百田尚樹の国民的ベストセラー小説を映画化した「永遠の0」は、終戦間際に特攻を自ら選び散ったこの男の物語だ。
宮部(岡田准一)は天才的な操縦技術の持ち主だった。が、彼はなぜか、周囲からは臆病者とも呼ばれていた……その謎に「現代パート」で迫る孫、佐伯健太郎役が三浦春馬である。話をうかがうと、主演の岡田准一が「(三浦春馬演じる役は)一番難しい役まわりだったんじゃないかな」と語った意味がおのずと浮き上がってきた。
──健太郎は、元特攻隊員たちと会って過去の出来事、そして祖父の宮部の素顔を教えてもらいます。三浦さんの目の前には平幹二朗さんを筆頭に大ベテランの名優たちが登場、どのシーンも圧巻にして壮観でした。
三浦 ありがたかったですね。なかなかできない経験ですから。他にも田中泯さん、山本學さん、橋爪功さんと濃密な時間を過ごせて、大先輩の胸を借りる気持ちで挑みました。役割的には僕は聞き手で、皆さんのセリフを受ける側。当然僕のリアクションが失敗したら長回しのシーン全体がNGになってしまうので、プレッシャーは大きかったですね。
共演者・夏八木勲について
──大ベテランといえば、本作を最後に亡くなられた夏八木勲さんとの共演シーンもありました。
夏八木勲さんについては、こちらにレビューがあります。
三浦 病状を感じさせないほどパワフルな方でした。役者を全うされたその強さ……本当に尊敬しています。
──監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの山崎貴さんですが、演出的にはどんなオーダーが?
三浦 よく言われたのは「もっと感情を出してほしい」と。監督が求めているレベルに達したかったので、自分ができる限りのいろんな感情表現を考え、試す毎日でした。
──少ないセリフとリアクションで役の気持ちを外に出していく。これは難しい演技ですね。
役回りの難しさ
三浦 そうでしたね。しかも、おそらく観客の皆さんは僕が演じた健太郎目線で映画を観ていくことになると思うんです。ナビゲーターでストーリーテラーのような存在であることも意識して、現場にいました。
──日本の戦時中が舞台となっている重厚な作品ですけど、オファーが来た時の心境は?
三浦 過去を振り返りながら、今を考えさせるようなテーマにちょうど興味を持ち始めた時期だったんです。戦争を扱った作品というのは観たことはあっても演じた経験はなく、今回、戦地におもむく役どころではなかったんですけど、こういう難しい題材に挑戦していきたいという思いが役者として強くあったので、お話をいただけてすごく良かったです。
──最初の撮影シーンは?
三浦 初日は田中泯さん扮する元特攻隊員・景浦とのやりとりでした。いきなりこの映画の重要な場面の1つで、まず1度目の訪問シーンを撮ったんですね。そこでは健太郎はあえなく追い返されてしまうんですけど、夜、もう一度「本当の祖父のことを話してください」って迫るシーンがとても大変で、その心境だったり表情がなかなか作れなかったんです。監督が思い描いていたビジョンに近づけず、何回もテイクを重ねました。たしか、5回は行った気がします。撮影は深夜まで……いや、あれは朝5時までかかってしまったんですが、そこまで粘ってくださった監督や泯さん、スタッフの皆さんには心から感謝しています。
共演者・田中泯について
──ご自身で完成作を観て、とりわけグっときたのは。
三浦 やっぱりその景浦の屋敷を訪ねた2度目のシーンですね。ライバル視し、尊敬もしていた宮部久蔵という男の孫がやってきて、あるドラマが生まれるんですが、大好きなシーンになりました。泯さんが本当に素晴らしいんですよ!
──田中泯さんプラス、三浦さんもです。
三浦 ありがとうございます。泯さんはとても優しい方で、いろいろな言葉をかけていただきました。ご自身がやられている舞踏についても教えてくださり、僕も少々ですが昔から踊りをやっているので楽しかったです。
──田中泯さんは、世界的にも有名なパフォーマーですよね。
三浦 あの泯さんの踊りは相当な筋力と精神力が要りますよ。僕、ケータイに入っていた自分が踊っている姿を見てもらったんです。「お〜っ、いいねぇ」なんて褒めてくださって、たとえお世辞でもうれしかったなぁ。
──本作とは違う、別シチュエーションでの共演も見てみたいですね。
三浦 時代モノをやりたいです。たとえば師匠と弟子の間柄とか。
──それ、何の師匠なんですか?
三浦 剣術かなあ。あるいは人情モノで、細かい作業をしている仕立て屋さんなんかもいいな。修行に行く役が僕で、泯さんに指導される。
──すでにめちゃくちゃ設定が出来てるじゃないですか!
三浦 もちろん他の方々ともご一緒できたら光栄ですけど、泯さんとはすぐにまたお仕事がしたいです。
演技の準備と岡田准一
──まあ、映画を観れば、三浦さんのその気持ちも分かるでしょうね。ところで主演の岡田准一さんとはお会いする機会はありましたか。
三浦 一度だけ、山梨ロケを見にいきました。岡田さんの芝居を……そして健太郎としておじいちゃんの姿をナマでこの目に焼きつけておきたかったので。これは僕自身、ラストシーンを演じるにあたって、何かもう1枚服を着ておきたい、と思ったからなんです。実際に見ておいたほうが演技に反映されるはずだと、そんな感覚でロケ地に行っていました。
自分のルーツをたどれたこと
──では今回、この映画に出られて、ご自身の中で変化はありましたか?
三浦 家族への気持ちですね。前以上に深くなりました。あと大きかったのは、僕自身も祖父の過去と出会うことができたんです。すでに亡くなってはいるんですが撮影前、「うちのおじいちゃん、どんな人だったの?」って母に聞いたんですね。そうしたら祖父も戦争末期、学徒兵で召集がかかり、特攻隊員として適性検査を受けたそうです。視力があまり良くなく、結果、戦地に行くことはなかったんですが、もしかしたら僕は今、ここにいなかったかもしれないわけで……。祖父は祖父で、命を落としていった仲間たちのことを思うと、とてもやりきれなかっただろうなあって。この映画を通して、祖父の当時の心情も推し量り、考えてしまいましたね。祖父は戦争が終わってから必死に勉強して学校の先生になり、最後には校長職まで昇りつめたんです。以降も努力を続け、その功績が認められ、天皇陛下から瑞宝章をいただきまして。僕も祖父の血を継いでいる、自分もどんなに辛いことがあっても努力をすれば目の前の世界が広がるんだな、と実感できました。役者としても、1人の人間としてもこの作品に出会え、自分のルーツをたどれたのは本当にありがたかったです。今の自分を大きく励まし、これからも頑張っていける力を与えてくれるような作品になりました。
MOVIEZ2014年冬号掲載記事を復刻しました
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映画『永遠の0』は、2020年8月現在、主な動画配信サービスではラインナップされていません(Netflix、Hulu、U-NEXT、TSUTAYA TV、Amazonプライムビデオ)。視聴となると、DVDを購入する以外では、レンタルショップや、TSUTAYAの宅配レンタルサービスを利用して、となりそうです。