『グリーンブック』は監督ピーター・ファレリー、出演マハーシャラ・アリ、ヴィゴ・モーテンセンほか。
コメディ映画を撮ってきたファレリー監督のロードムービーです!
レビューをどうぞ
「俺の人生のほうがもっと“ブラック”さ」
アカデミー賞で5部門にノミネートされ、作品賞、脚本賞、助演男優賞を獲得。トロント国際映画祭でも観客賞を受賞。
マフィアの生き証人として知られ、俳優でもあるトニー・バレロンガと、天才ピアニスト、ドン・シャーリーの知られざる友情を描いた実録ロード・ムービー。
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新年早々、ケータイを失くしてしまった。この映画『グリーンブック』を観た直後に。
本来ならば時節柄、「アカデミー賞の5部門にノミネート!」と、そんなめでたい話題から始めるつもりだったのだが、動揺は隠せない。
とはいえ早く気を取り直さなくては。作品にはまったく罪はない……どころか、とてもチャーミングで素晴らしかったのだから。
時代設定は「1962年」。
ジャンル的には「実話に基づいたロードムービー」である。
描かれていくのは孤高の天才黒人ピアニスト、自身初のアメリカ南部ツアーに挑んだドン・シャーリーと、彼に雇われた運転手トニー・バレロンガの“同行”物語だ。
ウソのようなホントーの話で、普通なら一緒に旅などしない二人の組み合わせがまずエ〜クセレント。
両親がジャマイカからの移民のドン・シャーリーは、フロリダ州の生まれ。9歳でレニングラード音楽院の生徒になり、英才教育を受け、エリートとして裕福な人生を歩んでいた。
一方、トニーはイタリア系でニューヨークの下町ブロンクス出身、一流ナイトクラブ「コパカバーナ」の腕利き用心棒として知られた存在だ。
では、どうして二人は出会ったのか?
ドン・シャーリーがこれから旅するのは(北部よりいっそう)黒人への差別意識の強いディープサウス。当然何かしらのトラブルに見舞われる事態が予想され、周囲に相談すると何人かの口から一様にトニーの名前が挙がったのだ。助っ人の適任者として。
かたやトニーはといえば、「コパカバーナ」改装のために職にあぶれ、金欠で家計がピンチに! と、そこに、この好条件の仕事が舞い込んだ次第。
ただし、彼もまた黒人への偏見がある。とすると、本作の映画的根幹はレイシストたるトニーの改心、そのプロセスにフォーカスを合わせていく“手つき”だとすぐに読めるだろう。
が、コトはそんなに単純ではない。
例えば、トニーがドン・シャーリーに向かって放つ「俺の人生のほうがもっと“ブラック”さ」という言葉の重み。つまり双方の視点を絡ませて、相も変わらぬ不寛容な現代に“生きるヒント”を与えてくれるのだ。
監督を手がけたのは、数々のコメディ映画で才を発揮してきたピーター・ファレリー。
『ドライビング Miss デイジー』の逆パターンとの世評があるが、筆者はジョン・ヒューズ監督の『大災難P.T.A.』を思い起こした。
『ドライビング Miss デイジー』はアカデミー賞で9部門にノミネートされ、4部門で受賞した映画。
ブルース・ベレスフォード監督作。アメリカ南部で、ユダヤ人未亡人の老婦人と、アフリカ系運転手の交流を描きます。
スティーブ・マーティンとジョン・キャンディが共演、飛行機が飛ばず、初対面のふたりが列車、バス、自動車を乗り継いでゆくコメディ・ロードムービー。
ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリ、トニー役のヴィゴ・モーテンセン、共に名演なり!
ところで、トニーに関しては別名“トニー・リップ”のほうが有名かも。
映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』や『グッドフェローズ』、TVドラマ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』にも出ている俳優でもある。
『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』はミッキー・ローク、ジョン・ローン主演、刑事とチャイニーズマフィアのバイオレンスアクションです。
『グッドフェローズ』はマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演、実在のマフィアを描きます。
『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』はマフィアとその家族を描く、シーズン6で完結の人気ドラマ。
何とデビュー作はノークレジットだが、かの『ゴッドファーザー』。結婚式のシーンにチラリと映っているので、探してみては?
……と、そろそろこの原稿の締めを考えていたら、「ケータイが見つかった」との連絡が!
ウソのようだがホントーの話。いやあ世の中、まだまだ捨てたものではない。
ケトル2019年2月発売号掲載記事を改訂!