アカデミー賞作品賞にもノミネートされた『1917 命をかけた伝令』が公開され、全編ワンカットの映像迫力が話題になってますね。
『1917 命をかけた伝令』は、デジタル処理でワンカットに仕立てた映画です。
『カメラを止めるな!』はデジタルカメラで長回しして撮影されたワンカット。
以前の映画で、これほどの長いワンシーンものが撮られなかったのは、フィルムテープで撮影してたからです。物理的に1本のテープでせいぜい十数分しか撮れませんから。
そんな時代での長回しシーンが話題となった傑作もいろいろあります。
『トゥモロー・ワールド』もそのひとつ。
監督は『ゼロ・クラビティ』『ROMA/ローマ』とアカデミー賞で評価されまくりのアルフォンソ・キュアロン。
『トゥモロー・ワールド』もアカデミー賞の3部門でノミネートされたものの、日本ではそれほどヒットしなかったのは・・・邦題が映画ファンに響かなかったせいなんですかね?
CGなしの長回し&絶妙なロック使いが抜群
4度の英国推理作家協会賞に輝く女流作家P.D.ジェイムズの「人類の子供たち」を、総製作費120億円かけて映画化。
西暦2027年、人類に子供が誕生しなくなった世界。政府軍と反政府勢力の激しい戦闘下、武装集団に拉致され、逃亡しながら役人セオは自らの運命を引き受けていく。
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元ジャーナリストで今は隠遁家、ヒッピー崩れの長老(マイケル・ケイン)が愛聴していたのはストーンズの名曲カバー、イタリアの鬼才フランコ・バッティアートによる「ルビー・チューズデイ」である。
フランコ・バッティアートはイタリアのシンガーソングライター。
ストーンズは2020年1月にCDデビューしたジャニーズのグループのことではないですね、イギリスのロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズのこと。
一体、だしぬけに何だ!? と思われるかもしれないが、すでに本作を観た方ならこれだけで脳内プロジェクターが動きだすはず。
ヒットこそしなかったものの2006年の数ある公開作品中、最も口コミでその素晴らしさが賛えられ、と同時に邦題のイマイチさを嘆かれた不幸な傑作。
舞台は2027年。子供が生まれなくなったディストピア世界で、人類の未来を左右するプロジェクトに巻き込まれた男(クライヴ・オーウェン)の「逃走→闘争」劇が描かれてゆく。
ドキュメンタリータッチの驚異的な長回しが多く、例えば車の中、主人公たちは無数の敵に囲まれ、バイクが接近し、それをカメラは神ワザ的な動きで捉え……う〜ん、もどかしい。
早く実物を観てもらいたい。全くのCGなし。機材を開発して車上にオぺレーション・ステーションを設けての完全な手作りなのだ(メイキングは必見)。
終盤には戦場での8分以上の超移動撮影もあって、これがまた言葉を失うほどのワンダーさ!
ディープ・パープルにキング・クリムゾン……(ベタだがアジな)ブリティッシュ・ロック三昧の劇中音楽もいい。
ディープ・パープルもイギリスのロックバンド
プログレッシブ・ロックバンド、キング・クリムゾンもイギリスです。
締めはジョン・レノン「ブリング・オン・ザ・ルーシー」。「人々を解放しろ!」「殺戮をやめろ!」と歌うメッセージが映画の世界観とリンクし、拳にグっと力が入る。
えっ、青臭いって? 上等だ。青臭くて、何が悪い!
『トゥモロー・ワールド』の原題は「Children of Men」。なお、アルフォンソ・キュアロンはイギリスではなく、メキシコの監督です。
週刊SPA!2007年3月20日号掲載記事を改訂!
アルフォンソ・キュアロン監督の関連記事として、監督作の『ゼロ・クラビティ』のレビュー、あります。