テレビドラマ「赤いシリーズ」! 何かと今でも話題に登るTBSのドラマです。インパクトがすごいドラマでした。
シリーズのひとつ『赤い絆』『赤い激突』に出演の国広富之さんに、赤いシリーズをふりかえって語っていただいた2000年のインタビュー記事を復刻です!
ちなみに「赤いシリーズ」、残念ながら気軽にいつでも動画配信サービスで観られるようなシリーズではありません。配信時期も配信サービスも限定的なレアタイトルとなっています(2020年11月現在)。
国広富之 プロフィール
くにひろ・とみゆき
1953年4月23日、京都府生まれ。
京都学園大に在学中から俳優を目指し、1976年卒業後、松浦竹夫演劇研究所に入る。
1977年にTBSのオーディションに合格してドラマ『岸辺のアルバム』で俳優デビュー。
赤いシリーズには第6作『赤い絆』、第7作『赤い激突』と2作連続で出演。
『赤い絆』でゴールデンアロー放送新人賞などを受賞。
1979年、NHK大河ドラマ『草燃ゆる』出演。
同年、映画『神様、なぜ愛にも国境があるの!』でスクリーンデビュー。
アクション・コメディの快作として人気を博したドラマ『噂の刑事トミーとマツ』や、山田太一脚本ドラマ『ふぞろいの林檎たち』など代表作多数。
近年では映画『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』など。
国広富之 インタビュー
(取材・文 轟夕起夫)
──『赤い激突』にご出演されたのはずいぶん前のことですが、当時の模様など、覚えてらっしゃいますか?
国広 たいがいドラマって出ると忘れちゃうんですけど、この作品に関してだけは覚えていますよ。ストーリーはおぼろげでもフラッシュバック的にいろんなシーンが浮かんできます。
『赤い激突』とバレエ
──強烈なシーンがたくさんありましたからね。例えば最も有名なのは宇津井健さんのバレエシーン。妻(松尾嘉代)の大手術のなか、その緊張感に絶えきれず、病院の廊下で突然踊ったり、夜中にひとり、ステレオを大音量にして一心不乱に踊ってしまったり。
国広 あれね、宇津井さんもバレエをみっちり練習されたんですよ。年齢的には50歳ちょっと前だったのかな。毎日トレーニング。プロフェッショナルです。でも1回のターンなら何とかできるんだけど、監督に5、6回転のターンを要求されるんですよ。そんなのいくらなんでも回れないじゃないですか(笑)。だからターン台を作ってね、宇津井さんの足を縛りつけて、スタッフみんなでそれを回したりしていたんです(笑)。
──そ、そうだったんですか! 娘役の坂口良子さん、秋野暢子さんらも猛特訓ですか?
国広 森下愛子さんだけがバレエ経験者で、ほかは皆さん素人だったのかな。特訓してましたねえ。ダンススタジオで習って、で、本番前にスタジオでまたやるわけですよ。さすがに途中から、かなり上手になってましたね。
世界的巨匠の演出
──監督には『赤いシリーズ』を語る上でなくてはならない増村保造さんも参加されてましたよね(1、2、24、26話)。『巨人と玩具』 (1958年)や『曽根崎心中』(1978年)など数々の傑作を残された世界的巨匠です。
国広 ええ。増村監督はね、「テレビなんかみんな飯食いながら見てるんだから、とにかく台詞をハッキリ言ってくれ。台詞だけでもこっち側に引っ張るんだ」って。だから宇津井さんも僕らもみんな、声の張り合いなんですよ。舞台をやってるような感じでした。
やがて『スチュワーデス物語』へ
──それが独特のグルーヴ感を生んで、伝説の『スチュワーデス物語』(1983年)に辿りつくんですね。あと、視聴者の気を引っ張るという意味では、台詞で現在のテレビのテロップのような効果を出していたとも考えられませんか?
国広 あ、そうかもしれないですね。
──もちろん『赤い激突』は、設定自体も語り草になるほど強烈ですが。
国広 出演者全員のシチュエーションがインパクトありますからね。でもテーマとしては真面目に安楽死の問題も扱っているんです。当時ちょうど話題になりかけた頃で、プロデューサーは目をつけるのが早かったですね。
──第1話で、松尾嘉代さんと前田吟さんが掴み合いになって、松尾さんが重症を負うわけですけど、あのシーンもオカしさとスゴさが紙一重で忘れられません。
アングラな時代性が反映
国広 そうそう。鏡をバーっと割ってね。助監督がビビってるから、増村監督が「貸せ!」ってご自分で石かなんか持ってゴーンッと割ってましたよ。あと回も中盤になって、前田吟さんがいきなりアングラ芝居を始めて、白塗りになってふんどし姿で踊りだしたりとかね。ああいう刺激的なシーンは覚えてますよ。あれ、六本木にあった自由劇場でやったんですけど、ある種、時代性も表現してるんですね。唐十郎さんの赤テントや寺山修司さんの天井桟敷がまだいろいろワケのわからないことをやっていた。そのあたりを入れたんじゃないですか。東京の“今”みたいのをね。
──ところで、国広さんは司法修習生役でしたから、バレエのシーンはなかったですよね。
国広 なかった。なくてホントに良かった(笑)。もしあったら絶対過労で倒れていましたね。
──ということは、バレエシーンのときには撮影から解放されたわけですね。
国広 それが違うんです。帰れないんですよ。
増村保造監督のこだわり
──な、何でですか?
国広 増村監督はね。レギュラー陣全員をフレームの中に入れようとするんですよ。カメラのアングルを変えたり、鏡に映しこんだり。普通だったら「お疲れ」って帰れるんですけど。監督がどこで「全員フレームに入れたい」って言い出すかわからない。だからいつも皆さん、自分の出番が終わっても待機していましたね。でも増村さんだけでなく、どの監督も凝って撮ってましたから。セットも立派だったし、ライティングやリハーサルにも時間をかけてフィルムでね。全てにおいて今よりも大事に撮っていたんですよ、ジックリと。
──たしか海外ロケもありましたよね。
国広 アムステルダムにね。でもまったく遊ぶ時間なんかなかった。日本と同じで毎日徹夜。大変な状況で撮影をしていましたよ。
『赤い絆』で山口百恵と恋人役
──実は『赤い激突』の前に、山口百恵さんと恋人役だった『赤い絆』があるんですよね。
国広 僕は外務省に勤めるエリートの役で、財界絡みの複雑な話でしたね。それと家族の絆。昔は上流社会にいたんだけど落ちぶれて、戦後没落したファミリーと子供とのつながりとかね。政治的なもの、汚職問題なんかが絡んできて、これも面白いストーリーだったなあ。
超人気アイドル・山口百恵の撮影時間
──百恵さんの役が最初、不良役でした。
国広 うん。“渋谷のお恵”って呼ばれていた(笑)。覚えているのは、今みたいに渋谷もにぎやかじゃなかったのと、百恵さんが超人気アイドルで、僕も別のドラマをかけ持ちしていたので、二人のシーンが始まるのが夜中からだったりしたこと。とにかく「赤いシリーズ」の思い出って、睡眠時間がやたら削られたことだな。ひどいときには50何時間ぶっつづけでやりましたからね、3日近く。
──最近は活動の中心を舞台のほうに置かれていますね。
国広 ここ10年、みっちりとやってきました。舞台は難しいです。新作ごとにいろいろ勉強しなきゃいけなくて。特に古典的な要素のあるモノは所作が大変。人物の職種、階級によって座り方や着物のさばき方も違う。でもナマの緊張感が楽しいですねえ。
まさかの展開が魅力
──それでは、最後に改めてお訊きいたします。『赤いシリーズ』の魅力とは何ですか?
国広 大胆さ。それと力強さですよ。ストーリーがまさか! と思う展開になっていくでしょ。みんなその劇画的な剛腕なタッチに魅かれたんだと思う。子供の頃に気に入った劇画の印象がいつまでも残ってるのと同じで、これも一度観たら、なかなか忘れられないですよね。そう、当時共演した方々とふと出会ったりすると、やっぱり『赤いシリーズ』の話が出てくるんだ。何だかお互い、まるで戦友のように感じているんですよね。
「赤いシリーズ」のドラマは10タイトルあります。ざざっとご紹介!
『赤いシリーズ』タイトル 全10タイトル紹介
『赤い迷路』(1974〜75年)
精神科医・結城(宇津井健)の妻が殺され、容疑者の潤(松田優作)が犯行を自供。しかし捜査が進むにつれ事件は不可解さを増し…。山口百恵、中野良子、長山藍子など異色の顔合わせと複雑に絡み合った人間関係が見どころ。
出演:山口百恵、宇津井健、松田優作、中野良子、長山藍子、小山明子、佐藤允、中条静夫、ほか
『赤い疑惑』(1975〜76年)
白血病に侵された女子高生・幸子(山口百恵)の苛酷な運命を描く。心の支えにしていた恋人・光夫(三浦友和)が実は異母兄弟であったり、産みの母が現れたりと意外な出来事が次々襲いかかる。
出演:宇津井健、山口百恵、三浦友和、八千草薫、長門裕之、渡辺美佐子、岸恵子、原知佐子、ほか
『赤い運命』(1976年)
伊勢湾台風の混乱で取り違えられた二人の女性いづみ(秋野暢子)と直子(山口百恵)。運命のいたずらか、互いの真実を知らぬまま敵対する関係に立たされてゆく。
出演:宇津井健、山口百恵、三國連太郎、南條豊、岸田今日子、志村喬、仲谷昇、前田吟、ほか
『赤い衝撃』(1976〜77年)
実業家を父に持つ友子(山口百恵)は日本陸上界の期待を担うスプリンターだったが、愛する刑事・秀夫(三浦友和)の銃弾に誤って撃たれ、下半身マヒになってしまう……。
出演:山口百恵、三浦友和、長門裕之、中条静夫、田村高廣、南田陽子、草笛光子、谷隼人、名古屋章、ほか
『赤い激流』(1977年)
天才的なピアノの才能を持つ敏夫(水谷豊)が、音大教授・大沢武(宇津井健)の一族と関わったことで運命が一変。実の父親殺しの罪を着せられ、不可解な事件に巻き込まれていく。
出演:水谷豊、宇津井健、竹下景子、石立鉄男、緒形拳、松尾嘉代、赤木春恵、馬淵晴子、山口百恵、岸惠子、ほか
『赤い絆』(1977〜78年)
不良少女の恵子(山口百恵)が、心優しいエリート青年・信夫 (国広富之)と出会ったことで、数々の苛酷な運命に遭いながらも幸せをつかむまでを描いていく。
出演:山口百恵、国広富之、左幸子、岡まゆみ、石立鉄男、井川比佐志、小林昭二、真屋順子、ほか
『赤い激突』(1978年)
高(宇津井健)は妻・春子(松尾嘉代)とバレエスクールを経営。4人の子供と幸せな生活を送っていたが、ある事件により妻が植物人間に。長男・澄夫(国広富之)が実の子でないことまで発覚し…。
出演:宇津井健、松尾嘉代、赤木春恵、国広富之、坂口良子、秋野暢子、森下愛子、前田吟、石立鉄男、橋本功、木内みどり、岸惠子、ほか
『赤い嵐』(1979〜80年)
豆腐屋を営む孤独な老夫婦の前に記憶喪失の美しい娘が現われたことから起こるホーム・サスペンス。連続ドラマで初主演を務めた柴田恭兵と能勢慶子のフレッシュコンビが見どころ。
出演:柴田恭平、能勢慶子、宇津井健、緒形拳、松村達雄、淡島千景、大石吾朗、石立鉄男、ほか
『赤い魂』(1980年)
娘の腎臓移植によって彼女の重大な出生の秘密が暴かれ、彼女をめぐるさまざまな人々の愛憎と葛藤を描きだしていく。このドラマでヒロインに抜擢されて浜田朱里がデビュー。
出演:浜田朱里、広岡瞬、杉浦直樹、司葉子、石立鉄男、峰岸徹、柏木由紀子、熊谷真美、ほか
『赤い死線』(1980年)
幼なじみの明夫(三浦友和)にかけられた殺人の容疑をはらすために、良子(山口百恵)は真犯人をつきとめようと奔走する。山口百恵引退記念スペシャルとして制作された。前・後編。
出演:山口百恵、三浦友和、松原智恵子、小林稔侍、宇津井健、三國連太郎、石立鉄男、アンルイス、前田吟、ジョニー大倉、ほか
月刊スカパー!2000年5月号掲載記事を改訂!
「赤いシリーズ」はTBSのドラマ。TBSチャンネルで観ることができます。
TBSチャンネルとは、CS有料放送で視聴できるチャンネルで、スカパー、ひかりTVなどの有料サービスに加入すると視聴可能となるチャンネルのひとつ。
観られる番組はテレビと同じ、時間割で組まれてます。「赤いシリーズ」の放送については、TBSチャンネル公式HPで随時案内されてますので、ご確認ください。