復刻インタビュー【志垣太郎】奇想天外な過剰と面白さと。『狼の紋章』と役者業を語る!

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館理人
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志垣太郎さんのインタビュー記事を復刻です。松田優作さんの映画デビュー作『狼の紋章』で主演、狼男を演じている志垣さん。こちら、役所のインパクトに爆発力ある伝説の映画!

館理人
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この映画について振り返り、語っていただいているインタビューとなります。

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志垣さんの役者としての姿勢が見える、興味深く面白いインタビュー!

館理人
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2009年の出演映画『ロボゲイシャ』が公開されたタイミングで行われたインタビューとなりますので、導入が『ロボゲイシャ』となっております。

志垣太郎・プロフィール

しがき・たろう
1951年生まれ。東京都出身。
高校在学中に芸術座から舞台「巨人の星」で主役デビュー。
1972年に『あゝ声なき友』で映画デビューし、同年『新・平家物語』、『狼の紋章』(1973年)、テレビドラマ「あかんたれ」(1976年)等に出演。映画は近作に『黒執事』(2014年)、『ライヴ』(2014年)など。グルメ・旅番組のレポーターとしても活躍、映画ドラマ時代劇とコミカルな役からシリアスな役まで幅広くこなす。

『ロボゲイシャ』データ

2009年
監督:井口昇
出演:木口亜矢、長谷部瞳、斎藤工、志垣太郎、竹中直人

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志垣太郎・インタビュー

( 取材・文 轟夕起夫)

『ロボゲイシャ』で演じた殺人ゲイシャマシーンを育成する悪党役が新鮮だった志垣太郎氏。……デビューから40年、『狼の紋章』の犬神明が役者業を語りつくす!

奇想天外『ロボゲイシャ』

──『ロボゲイシャ』での志垣さんの役名は“影野拳山”。影野製鉄の会長にして、裏では殺人芸者マシーンを育成している男……そして、地球支配をもくろんでいるマッドな悪人! まずは、脚本を一読されての感想は?

志垣 あまりにも奇想天外で、「こんなこと、本当に出来るんだろうか」という興味に駆られましたね。いい意味でバカバカしく自由奔放。執筆された井口昇監督が、自ら演出するのだから、ある程度の計算は立っていたんでしょうけれど、でも実際、いったいどんなふうにこれを映画化にもっていくんだろうかと(笑)。そこにとても関心がありましたし、「スゴい発想をする監督だなあ」と、大いに魅力を感じました。

井口昇監督の手腕

──ちなみに、井口監督にとって志垣さんという存在は、子供の頃“最初に意識をしたスター”だそうです。

志垣 お会いしたら、監督、「ホンモノだ!」って喜んでくれました(笑)。前作の『片腕マシンガール』は拝見していたんですが、あの映画の過激な描写のイメージとは全然違い、優しい目をした少年みたいな人で、ギャップが面白く、ますます一緒にやるのが楽しみになりましたよ。

──『片腕マシンガール』は御覧になられて、いかがでしたか。

志垣 観ている間はそうでもなかったんだけど、2、3日してからの血の残像が強烈で。映画はこれまで僕も、けっこう観てきていますから、そんな血が出たからってビックリするはずないんですが、脳にダイレクトにぶちこまれたような感覚が残って、1カ月くらい、頭の中に数々のシーンが出てきました。それは映画として素晴らしいことだし、そういうものを作れる監督さんも大した手腕だと思います。

志垣太郎と悪役

──志垣さんが、正面きっての悪役というのは珍しいケースですよね。

志垣 ホント、今までやってこなかったんですよねえ。「実は犯人は志垣だった」ってドンデン返しのパターンは、これまで2時間ドラマではあったんだけど、それでも数本ですかね。今回は完全に悪役なんですけど、僕としては“影野拳山”という男は、自分なりの正義に向かって突き進んでいるだけなのだと解釈してみました。この男なりに夢を追求している……と考え、一見リアルと無関係そうな役でしたが、キャラクターに一抹のリアリティを付けていくのはひとつの勝負でした。

──なるほど、そういうアプローチをされていたんですか!

志垣 やっぱり敵役のポジショニングは重要です。井口監督が望んでいたのは、スカーフが似合うような悪(笑)。昔、「おれは男だ!」というTVドラマに数回(1971年/第28〜31話)、転校生役で出たことがあって、それは主演の森田健作さんのライバル役で、スカーフをひらめかすような、ちょっと斜に構えたキャラクターだったんです。どうやら井口監督のイメージとして、あの役みたいに気取ってカッコ良くやってもらいたい、というのがあったんです。衣装を着て、そんな感じで出て行くと、「ありがとうございます、やっぱり思った通りでした!」って大いにノセてくれましたよ(笑)。

──ここでは詳細は伏せておきますが、意外な場所から機関銃が飛びだし、撃ちまくることになりますね。

バカバカしいを一生懸命やること

志垣 あのシーンは、撃てば自分にもかなり跳ね返りがあるだろうということで、本番のときにカラダを思いっきり揺らしたんですよ。しかも口でダダダダダって叫びながら。それが井口監督は嬉しかったらしく、「いいですね、ダダダダがいいですね! それでぜひお願いします」って。隣りにいた斎藤工くんもその気になって、一緒に揺れてましたけど(笑)。あのシーン、撮影の初日だったんです。かなりバカバカしいんですけど、そのバカバカしいことを一所懸命にやることが大切。完成作を観たら、カラダを動かすアナログ部分と、後にCG加工された部分のマッチングが良かったです。ヒロインの木口(亜矢)さん、長谷部(瞳)さんの立ち回りも、生身のアクションにこだわっていて、よくやっていましたね。お2人とも普段はアクションとは無縁な女性に見えますから。とにかく今の立ち回りの動きって、早いじゃないですか。けっこう前ですけど、『キル・ビルVol.1』 (2003年)を観たときに、アクションのモードが変わったなと思ったんです。この映画も大きく分ければ、あのラインですよね。過剰さが、ギリギリのところでトンデモない魅力に転化する面白さだなって。

『狼の紋章』の過剰と面白さ

──「過剰さが、ギリギリのところでトンデモない魅力に転化する面白さ」といえば、『片腕マシンガール』『ロボゲイシャ』の先駆、志垣さん主演の『狼の紋章』(1973年)は、スプラッタシーンも含めて、同じ系譜上にあるんじゃないでしょうか。

志垣 そうかもしれないですね。『狼の紋章』は主役でしたから、気合いを入れてやらさせていただきました。暴カシーンがけっこうありましたが、設定上、ヤラれるのは僕のほうで、何回もリンチを受けるんです。最初は本当に蹴るとマズイから、“蹴るふう”にしていたんですけど、ラッシュを観るとダメなんですよね。で、松本(正志)監督に「迫力ないんだよ、みんな遠慮して。本当に蹴らせてくれないか」って頼まれて。それからは本当に蹴られ殴られの日々。カラダにプロテクトも何も巻かなかったので、満身創痍でしたよ。出来上がったものを観て、納得しましたけどね。けっこうカラダを張りましたね。そういえば、狼のマスクを作るときに、石工を盛りすぎて、鼻の出っ張りに全部力がかかって、折れそうになった。骨折直前までいってたらしい。クラインクンする前から鼻折れちゃたら、大事件ですよ(笑)。

松田優作のデビュー時の迫力

──『狼の紋章』は、松田優作さんの映画デビュー作でもありますね。

志垣 彼、初めての映画という感じがしなかったですね。現場集合で、教室のセットに僕が早めに行ったら窓際に後ろ姿が見えて、アフロヘアのデカイ男が立っていた。で、す〜っと振り返って僕のほうを見た。それが優作さんで……最初の顔合わせでした。全てが“画”になっていて、すごい迫力でしたね。最後に優作さんと、対決するシークエンスがありますけど、使用した廃屋の粉塵がひどくって、みんなに防塵用のマスクが配られたくらいなんですが、3日かけて、渾身の対決シーンが撮れたんですけど、終わって、僕、肺炎で入院しましてね。3日間ずっと粉塵を吸っていたら肺が真っ白になってたんです、ちょうど、撮影最後のほうだったんで助かったんですけど。

──やはり、愛着のある作品ですか?

志垣 そりゃあもう! 優作さんも素晴らしかったし、自分で言うのも何だけど、僕は僕なりの魅力をちゃんと撮ってもらえた。映画とは監督のモノだと言われますけど、監督の思いが役者を動かし、役者の普段のカ量を遥かに超えたところまで持っていくことができるのが、映画の面白さ。ですから映画のラッシュを観るときは「いったいどんなふうになったのか」が毎回楽しみなんですよね。TVドラマのラッシュの場合は「いかにリアルに、演じた通りになっているか」にポイントを置きます。そういう違いはありますね。

映画デビュー作『あゝ声なき友』

──『狼の紋章』の前年、今井正監督の『あゝ声なき友』(1972年)が志垣さんの映画デビュー作です。有馬頼義原作で、戦友たちの遺書を預かり、ひとり生還した男を渥美清さんが演じ、全国の遺族を訪れ歩く物語でした。

志垣 この映画で新人賞をいただいたんですよね。市原礼という役で。引きとってもらった家で虐待を受け、一家を惨殺し、死刑になる青年。映画の前に、TVドラマで作られたことがあるんです。NHK『遺書配達人』 (1970年)。声優としても活躍されている池田秀一さんが市原礼をやられて、それを観たときから自分でも挑戦してみたい役でした。出番としては本当に短いんですが、今井監督からオファーが来たときはビックリして、是非やらせていただきたいと。僕が今までやってきた中でも、俳優としてはベストに近い演技だったと、今でも思っています。

役者からの撮り直し願いはありえない?

──巨匠・今井正監督は、とても厳しい演出家として知られていますが。

志垣 NGが出て「どうやればいいんですか?」なんてもし役者が訊いたら、「それはあなたの考えることでしよ、私は監督ですからね」と答える方だったそうです。『あゝ声なき友』の中で、ふっと笑い、「皇太子さんと誕生日が一緒なんです」というセリフを言うシーンはあったんですが、監督からはOKが出たんですけど、本番中に小さく“コト”って音がして、耳にした瞬間、我に返ってしまったんですよ。それで自分から「もう一度やらせていただけないでしょうか」とお願いしました。で、撮り直してOKが出て、結局その日はそれで終了。今井先生の撮影は長くなるので有名でしたから、珍しく早く終わったんですね。

──何かドキドキしてきました。もしかして「ところが!」ってお話ですか。

志垣 そう(笑)。撮影が終わって先生がやってきて「志垣くんありがとう、とっても良かったよ。ただ、これから君がやっていくにあたって、言っておこう。僕はさっき君が自分でNGを出したとき、そういう役者としての感性はすごく嬉しかった。だけども、監督のOKしたものを役者がNGにすることは本当はありえないんだよ。人によっては、“何を勘違いしているんだ、この若手が!”と思う監督もいるから、ちょっと気をつけたほうがいいかもしれないね。でも僕は嬉しかったよ、ありがとう」と言っていただいたんです。それはずっと忘れられない思い出ですね。今井組で、先生がOKを出して、役者がNGにするということは、本当はありえない。でも許してくれたんです。1991年に逝去されましたが、真摯で優しい、しかしここぞというときは頑なに動かない、大きな岩のような監督で、その岩肌に時折、清水がすっと流れているんですね。そこに手をやると、自分の中に力をいただけるというか、何も言わないけれども力をくれた。昔の大監督たちはみんな、そういう力を持ってらっしゃいました。

──さて、1969年に舞台で役者デビューされてから、芸歴40年ですね。

館理人
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こちらのインタビューは2009年に行われたものです。2020年現在だと、芸歴50年超えですね。

志垣 我々はまず、人に望まれるのが仕事の最初で、望んでいただいたことに感謝すると同時に完璧に応えなければならない、という責任がある。それはこれからもずっと。今回の撮影で井口監督がクランクアップし、「奇跡です、みんなのお陰です」って言っていたんだけど、僕もそのみんなの中に入れたのが、本当に嬉しかったです。

館理人
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ここで改めて!『狼の紋章』がどんな破壊力ある映画だったのかを振り返りま〜す! 

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『狼の紋章』とは? あるまじきアナーキー作!

 平井和正原作の人気小説「ウルフガイ」シリーズの第1作目を映画化。キリリと凛々しい美青年、志垣太郎が演じるのは、アラスカの大雪原で育ち、狼の血を引く孤高の転校生・犬神明。

 映画は全編この異人、すなわち狼男=ウルフガイの異能と苦悩とを画面に叩きつけ、しかもエロ&バイオレンス満載、1970年代前半特有の見世物主義に満ちており、観る者を必ずや“満腹”にすることウケアイだ。

 大胆にも皇居周辺で口ケを敢行した勇気も「買い」。

 ただひとつ残念なのは、志垣=犬神が変身後、付けるのがチープな狼のカブリモノだということ! でもまあ、そこも“時代の記録”ということで。

 監督は松本正志。デビュー作『戦争を知らない子供たち』(1973年、脚本は大和屋竺)は1年間オクラ入りさせられて公開、なるほど本作同様、東宝映画にあるまじきアナーキーな作りになっていた。

 これで映画デビューした松田優作の役は、右翼の大物にしてヤクザの組長の一人息子・羽黒獰。おそらく撮影時は、まだ六月劇場に出入りしている劇団員だったはずだが、公開された1973年はちょうど『太陽にほえろ!』のジーパン刑事役で注目され始めていた頃である。

 いきなり詰め襟姿で登場する優作=羽黒は学園を支配しており、いわば大和民族の象徴的存在で、ウルフガイを徹底的に責め立てる。フンドシー丁になり、女教師 (安芸晶子/別名・市地洋子ですな)を犯すシーンは、三島由紀夫の『憂国』を彷彿とさせる。

館理人
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憂国については、こちらにレビュー記事あります!

 ラストの犬神との対決……真っ白な軍服で日本刀を振りかざす羽黒。当時は開き直りもあったろうが、若松孝二と日活ニューアクションと東映バッドテイストをごった煮したような、あまりに自由すぎるシュールな演出は、時が経てば経つほど、伝説化していくだろう。

轟

映画秘宝2009年11月掲載号を改訂!