ビル・マーレー主演、ろくでなし爺と少年の心の交流を描く映画です。
レビューをどうぞ!
型破りな老人と少年の友情物語。ちりばめられた暗喩にも注目
北米でわずか4館の限定公開から2500スクリーンに拡大、スマッシュヒットを飛ばした。
ゴールデン・グローブ賞にて作品賞にノミネート、ビル・マーレイも主演男優賞候補に。また、少年役の新鋭ジェイデン・リーベラーは本作の演技で一躍ハリウッドの注目株となった。
CM界から転身したセオドア・メルフィ監督の映画デビュー作。
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ここに、前々から感じていたことを発表させてもらおう。「ビル・マーレイの出ている映画にハズレなし!」。
……と記したあとで何だが、「本当にそうか? ちょっと言い過ぎたかも」と若干のためらいも。
しかし、これはかなりの確率で実証されていると思う。この『ヴィンセントが教えてくれたこと』も、“当たり”の一本だった。
舞台となるのはニューヨークのブルックリン。無愛想で口が悪く、飲んだくれでギャンブル狂い、老人と呼ぶには頑健で、ビル・マーレイにぴったりのヴィンセント役。
ある日、シングルマザーと12歳の少年が隣に引っ越してきた。とくれば、型破りな変人と少年との「年令の離れた友情物語」になだれ込んでいくことは想像に難くないが、よくある感動ストーリーと早合点してしまうのは実にもったいない。
例えば、本作のそこかしこに配置されている“星条旗”にぜひ注目していただきたい(重要なシーンではヴィンセント自身、星条旗がデザインされたTシャツを着ている)。
それから劇中、少年が読んでいるのがシェル・シルヴァスタイン原作の有名な絵本「おおきな木」であったり、映画の原題がそもそも、カトリックの“聖人”を意味する「St. VINCENT」であったり。
エンディングを飾るのはビル・マーレイの調子外れの歌声で、だがそれはボブ・ディランが1975年に発表したアルバム『血の轍』に収められた「嵐からの隠れ場所」。
ちりばめられた暗喩はひとつの焦点を結び、つまりは“アメリカという国の過去と今日”について考えさせる映画となっているのだ。
ちなみにヴィンセントはアイルランド移民という設定で、ビル・マーレイ本人もアイルランド系である。
完全に当て書きされていて、虚像なのに実像にも見え、彼の人生そのものを讃えているかのよう。「愛すべきろくでなし」を演じさせたら当代一、65歳(公開当時)の爺のアイドル映画としてもお勧めだ!
週刊SPA!2016年3月22日発売号掲載記事を改訂!