『純喫茶磯辺』(2008年)は原作・監督・脚本・編集:吉田恵輔、出演:宮迫博之、仲里依紗、麻生久美子、他
レビューをどうぞ!
観れば“思い出の喫茶店”に仲間入り
遺産を元手に突如、喫茶店を開いた磯辺裕次郎(宮迫博之)。
仕方なく店の手伝いをするのは、夏休み中のひとり娘・咲子(仲里依紗)。
そこに素子(麻生久美子)と名乗る美人がバイト募集に誘われ、やってくる。
ちなみに吉田監督の前作『机のなかみ』(2007年)の恋人役、あべこうじ&踊子ありが“純喫茶磯辺”の客として顔を見せている。
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もし、自分の身の周りに本当にいたら、「イタすぎるキャラクター」でしかないのに、映画の中では「愛すべきダメジン」に見えてしまう不思議。
本作『純喫茶磯辺』に登場するのは、まさにそんな人々ばかり。さっそく紹介しよう。
まずは宮迫博之が演じる“喫茶店磯辺”のマスター。8年前に妻と離婚して以来、高校生の娘と暮らす中年男だ。
水道工をやっていたが、実父が急死し、遺産が舞い込んだことから喫茶店の経営に手を出す……どこをどう勘違いしたのか、ただ単に女にモテたいという理由だけで!
つまりは適当に生きている、助平なオッサン。
確認するまでもないが、コイツの名字が“磯辺”だから、喫茶店の名も磯辺。ネーミングも、看板も、内装もすべてがダサい。当然、客は来ない。
しかし目的の足がかりは掴む。可愛いアルバイトを雇うことに成功するのだ。麻生久美子による、この謎めいたバイト女の造形が絶妙。
ドラマ『時効警察』シリーズの人気キャラ“三日月しずか”あたりから、彼女の演技は新たなフェーズに入って俄然面白くなってきたが、ここでのヒロイン像は、「私のこと知ったら、引くことばっかですよ」「私なんか最低ですよ」などと呟く、何かと思わせぶりな女。
『時効警察』シリーズは、時効が成立した事件を趣味で捜査する警察官のミステリーコメディ。主演はオダギリジョー。
喫茶店磯辺オリジナルの趣味の悪いミニスカメイド服に身を包み、心なく笑う。日本映画にありがちな悪女ではなく、かといって聖母でもない、実に薄っぺらくも生々しいオンナが、そこにいる。
監督・脚本は、傑作『机のなかみ』の吉田恵輔。
女子高生好きを公言しているが、マスター磯辺の娘役に仲里依紗をセレクトしたあたり、さすが!
ちなみに『ヒメアノ〜ル』のレビュー、こちらにあります!
映画はふくれっ面がキュートな彼女を軸に進行していき、3人がそれぞれの気持ちをぶつけ合う場面で大きくうねりを見せる。
まさかの麻生久美子、いやバイト女の「私、ヤリマンなんで」という衝撃的な一語を含むシーンを見逃すなかれ。
今や喫茶店は、カフェに大手チェーン店に押されて、街から消えゆく存在だが、純喫茶磯辺は、架空にもかかわらず観れば愛すべきダメジンたちとともに、“思い出の喫茶店”に仲間入りするだろう。きっと必ず。
週刊SPA!2009年2月17日号掲載記事を改訂!