オリバー・ストーン? 聞いたことあるけど、どんな映画を作ってる?
大作、ヒット作を多く放つ監督作の中に『トーク・レディオ』があります。実際に起きた殺人事件をモチーフにした名作ですが、知名度はちょっと地味なこちらの映画をご紹介。
出演はエリック・ボゴジアン、アレック・ボールドウィン、他。1988年の作品です。
毒舌パーソナリティvs心を病んだリスナー。“匿名の大衆”の恐ろしさは現代に通じる
地方局ラジオの深夜放送“ナイト・トーク”。DJのバリーは、聴視者の些細な悩み、ドラッグ、セックス、人種問題などタブーなネタに過激なコメントをつけ、人気を呼んでいた。番組の全国放送が決定するか否かの夜、事件が……。
音楽は元ポリスのスチュワート・コープランド。主演エリック・ボゴジアンはベルリン国際映画祭独創性貢献賞を受賞。
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時が経つと、“名作”と呼ばれている映画でも色褪せてしまうことがある。またその反対に、公開時よりもだんだんと味わいが増してくる場合もある。このオリバー・ストーン監督の『トーク・レディオ』は後者だ。
本国アメリカでは88年に封切られ、監督ストーンのキャリア的に見れば『ウォール街』と『7月4日に生まれて』のあいだに挟まっている小品。
『ウォール街』は若い証券マンが、非情なやり手投資家と組んで企業買収に乗り出す。人生観を問う金融サスペンス。出演はマイケル・ダグラス、チャーリー・シーン。
トム・クルーズがベトナム戦争帰還兵を演じた『7月4日に生まれて』で、オリバー・ストーンはアカデミー賞監督賞を受賞しました。
俳優エリック・ボゴジアンの自作自演の舞台劇の映画化で、当初のプロジェクトでは、エイドリアン・ライン、ウィリアム・フリードキン、アラン・パーカーなどの監督が候補に。最終的には当時上げ潮のストーンがボゴジアンの書いたシナリオをリライトし、演出も手がけた。
ラジオ局のブースが中心の密室劇だが、ボゴジアン扮する人気DJは電話をかけてくるイカレたリスナー相手に喋りまくる。キャメラは縦横無尽、360度パンまで繰り出して観る者の緊張感を煽る。
撮影は『アビエイター』『キル・ビル』のロバート・リチャードソン。1980〜1990年代ストーン作品の“守護神”でもある。
『アビエーター』では実在の富豪実業家、ハワード・ヒューズの半生をレオナルド・ディカプリオが演じています。
クエンティン・タランティーノ監督作『キル・ビル』は殺されかけた殺し屋の女性の復讐劇。
美術監督を種田陽平が務めたり、栗山千明や千葉真一などの日本人俳優が多数参加していることも話題でした。
次から次へダラダラと、ドーでもいい話、病んだ悩みを垂れ流すリスナーたち。対して毒舌と罵詈雑言で対抗するDJバリー。相手の中にはネオ・ナチ野郎、レイプ魔も。
顔の見えない“大衆という匿名的存在”の恐ろしさ。そこでの言葉の応酬は、現在のネット社会のある側面と何と似ていることだろう。
もしかして予見の映画? いや、それだけ我らの心根が変わらないのだ。ストーン作品が苦手な人にこそ観てもらいたい。
週刊SPA!2007年5月22日号掲載記事を改訂!