音楽がいい映画のご紹介!
『ONCE ダブリンの街角で』(2006年アイルランド)は、監督:ジョン・カーニー、出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ、他
レビューをどうぞ!
素朴かつ技巧的なアイリッシュ音楽の血を感じるボーイ・ミーツ・ガール
音楽を通じて、しがない男と女が魅かれ合っていくシンプルな物語だが、2007年サンダンス映画祭&ダブリン国際映画祭にて観客賞を受賞。
全米ではわずか2館の公開から最終的に140館まで上映館を増やし、スピルバーグ監督も「この小さな映画は、私に今年一番の素晴らしいインスピレーションを与えてくれた」と絶賛した。
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この映画、全編を包み込む楽曲の良さが、まずは特筆に値する。2008年のアカデミー賞で歌曲賞を受賞したので、チェック済みの人もいるだろう。まずは音楽だけを聴いて、気に入るかどうか確かめるのもいいが、やはり、映像と音の幸福なハーモニーを体験してもらいたい。
実際に、現役ミュージシャンである主演ふたりの存在感が素晴らしいのである。男のほうは、アイルランドの実力派バンド、ザ・フレイムスのフロントマン、グレン・ハンサード。
かつてアラン・パーカー監督の“苦いバンド結成映画”の佳作『ザ・コミットメンツ』(1991年)にギタリスト役で出ていて、まるで本作のストリート・ミュージシャン役はその続きのよう……いや、それよりも悪いか。女にフラれたばかりの設定だし。
ボーイ・ミーツ・ガール。彼の目の前に現れるチェコ移民のヒロインは、マルケタ・イルグロヴァ。グレンとはソロアルバムで共作・共演しており、実生活でも良きパートナーだとか(38歳と20歳の年の差カップル!)。
こう記してくると、甘ったるいストーリーを想像するかもしれないが、その展開にはいい意味で裏切られる。
それはひとえに、監督のセンスが良いからだ。
例えばヒロインは、店主と馴染みの楽器店でピアノを弾き、そこで主人公とセッションすることになる。当然盛り上がる音楽シーン。
だが画面上にもうひとつ、「もしや店主が止めに入るかも」という小サスペンスを導入している。然るべき瞬間にカットインされる店主の顔! 本作は映画自体が、素朴かつ技巧的なアイリッシュ音楽の血を感じさせるだろう。
週刊SPA!2008年5月 27日号掲載記事を改訂!