トム・クルーズの新作『トップガン マーヴェリック』は2020年6月公開予定ですね。
トム・クルーズっていうと、動画配信サービスで人気のタイトル『ミッション:インポッシブル』シリーズの主演でおなじみ。
トム・クルーズはルックスが驚異の若さ!もうじき60歳とは信じられません(1962年生まれ)。
早くに大スターまで駆け上った俳優なので、長いキャリアを持つため主演作は多く、大作ばかり。
ですから動画配信サービスのおすすめにずらずらと主演映画が出てくるけれど、正直どれがいいのかわからない現象が起きてます、多分。
ということで、トム・クルーズの出演作の中ではちょっとマイナー感のある『アウトロー』にあえて注目、掘り出しレビューで解説です。
トム・クルーズがどんな俳優かと同時に、アウトロー映画史もざざっと見ていきます!
アメリカの良心を継承!グレゴリー・ペックからトム・クルーズへ
『アウトロー』の系譜は米アクション映画
『アウトロー』(2012年)の冒頭、ちょっとタイムスリップしてしまったのかと思った。
『アウトロー』の監督はクリストファー・マッカリー、出演はトム・クルーズ、ロザムンド・パイクほか。
『ダーティハリー』(1971年)のオープニングよろしく、白昼、何者かが屋上に立ち、市井の人々を狙撃して回るシーンが目に飛び込んできて、出だしからなんとも不穏でヤバい、洗練なんて言葉には背を向けたあの“1970年代アクション映画”の匂いが鼻孔をくすぐったのだ。
トム・クルーズ主演の最新作『アウトロー』の第一印象である。
『ダーティー・ハリー』はクリント・イーストウッド主演、アウトローな刑事の映画。大人気シリーズとなりました。
どうやらそれは、あながち早合点でもなかったようで、“70年代アクション映画”のトーンは最後まで持続し、カラダを張った本気(マジ)なカーチェイス、男騒ぎのする格闘シーンや銃撃戦が今どき珍しい“活劇の味”を形成していく。
おまけにトムの役柄は、元米軍のエリート秘密捜査官。自由と正義を愛し、放浪の旅を続ける一匹狼の“流れ者”という徹底してパルプな、アナログヒーローぶり。
これをタイムスリップと言わずしてドーする!
トム・クルーズは1986年公開の主演映画『トップ・ガン』が世界的な大ヒットとなったことをきっかけに、集客できる大スターの仲間入りをしました。
もう少しストーリーの流れに添って、主人公のキャラクターを紹介しておこう。
冒頭の事件の容疑者として、元軍人のスナイパーが逮捕される。ところが全面否認し、身の潔白を証明してくれることを望んで、彼がかつて軍で最も恐れていた男への連絡を要求する。
そこで現れるのがトム・クルーズ扮するジャック・リーチャーだ。圧倒的な戦闘能力と明晰な頭脳で“真実”を追究し、しかも「我が道を行く」ワイルド&アウトローなヒーローなのだが、21世紀の現代においてはやはり、どこか時代錯誤な男である。
オフィシャル・インタビューによれば、リー・チャイルドの原作「One Shot」を脚色、監督したクリストファー・マッカリーは主人公リーチャーの考え方、そのライフスタイルにまず魅かれたのだという。
「One Shot」は「アウトロー」のタイトルで翻訳本が出版されました。クリストファー・マッカリーはその後、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』も監督。
どうやらクラシックな西部劇を愛好するマッカリーは、荒野に登場するような正義漢、流れ者のヒーローにジャック・リーチャーと相通ずるものを感じたのだった。本作の懐かしい“匂い”の正体が少し分かってきた。
一作目『ミッション:インポッシブル』は、『ザ・エージェント』と同じ年に公開されました。
『アウトロー』に見えるルーツは西部劇
マッカリーに関しては、もちろん『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)や『ワルキューレ』(2008年)の脚本家、という紹介もできるのだが、今回はそれよりベニシオ・デル・トロとライアン・フィリップ共演の『誘拐犯』(2000年)の脚本、監督の人──の線で考えたほうがいい気がする。
『ユージュアル・サスペクツ』でマッカリーはアカデミー賞脚本賞を受賞しました。張り巡らされた伏線がスリリングなサスペンスです。
『ユージュアル・サスペクツ』にトム・クルーズは出演してませんが、『ワルキューレ』では主演です。
作家の資質はデビュー作に色濃く反映される、との伝を信じれば、武骨な“70年代アクション映画”ばかりか、銃撃戦にこだわる西部劇のスタイルを継承していた『誘拐犯』(2000年)は、この『アウトロー』への第一歩であったといえよう。
『誘拐犯』はベニチオ・デル・トロ主演作。
これも趣味趣向の表れだが、『誘拐犯』でマッカリーは、ジェームズ・カーン、スコット・ウィルソン、ジェフリー・ルイスといった(70年代に活躍した)激シブなアクターたちを起用していたが、『アウトロー』ではロバート・デュヴァル、それから(ドイツの鬼才監督)ヴェルナー・ヘルツォークまで担ぎ出している。
ちなみにデュヴァルがトム・クルーズと組むのは、トニー・スコット監督の『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)以来だが、ドライバーとチームオーナーという互助的な関係性はこの『アウトロー』にも形を変えてスライドされており、さすがに名優デュヴァル、好サポートを魅せている。
カーアクション『デイズ・オブ・サンダー』で、トム・クルーズはレースドライバー役です。
さて、事件の裏側の真相を暴くべく行動するリーチャーに倣って、『アウトロー』という映画のバックボーンをさらに探ってみようか。
マッカリーは我々にヒントを与えてくれていた。たとえばこんなシーンだ。
金で雇われ、己を襲った連中の自宅を速攻でつきとめ、乗り込んだリーチャー。部屋の中には誰もおらず、(やや不自然な感じで)テレビがついている。そこに映っている画像に目をやると、流れていたのはあのウィリアム・ワイラー監督の『大いなる西部』(1958)ではないか!
ここを素直にマッカリーからの“サイン”だと受け取ってみる。『大いなる西部』とはテキサスを舞台にした、東部からやってきたひとりの紳士(グレゴリー・ペック)の奮闘劇だった。
新参者である彼はよそ者で“アウトロー”であり、だがたとえ周囲から存在が浮いても、己の生き方を全うしようとする男なのだ。(映画版の)ジャック・リーチャーはその末裔である。これは穿った観方だろうか?
では『アウトロー』に、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの名高い“素手での殴り合い”を彷彿させるシーンがあるのは偶然か。
もうひとつ強引な、いや、決定的な証拠を! 『大いなる西部』はワイラー監督と共に、グレゴリー・ペックが製作にも携わった映画だ。
セルフプロデュースするトム・クルーズはマッカリーと共謀し、この『アウトロー』で、かつてのアメリカの良心であり理想像であったグレゴリー・ペックのアイコンを彼らなりに継いだのだった。ジャック・リーチャーというパルプでアナログなヒーローを通じて──。
以上で、本作の懐かしい“匂い”の正体は、かなり判明したのではないか。
キネマ旬報2013年2月上旬号掲載記事より!