こちらの映画レビューは、日活ロマンポルノのタイトルを紹介していく男性誌での連載コラム記事の復刻です。
その前にロマンポルノ解説を少々。
ロマンポルノは、R-18の映画で日活のレーベル。アダルトビデオとは別くくりの、年齢制限のある一般邦画として分類される映画です。
詳しくはこちらで紹介しています。
前置き以上!
あ、コンプライアンス意識皆無時代のコラムゆえ、所々のバカすぎる文面には要注意でお願いします。
データ
1974年
監督:田中登
出演:芹明香、花柳幻舟、宮下順子、絵沢萠子、萩原朔美、岡本章、夢村四郎、坂本長利、小泉郁之助、榎木兵衛、島村謙次、高橋明、鈴木嵩久、小林亘、中平哲仟、清水国雄、萩原実次郎、庄司三郎 脚本:いど あきお
本当の「聖者の行進」とはこういうものだ!
(轟夕起夫)
今回はひとつ、本作をめぐる極私的な思い出をザックリと語らせてもらおう。
大学生の頃のことである。つまり80年代の半ば。学園祭の恒例オールナイト上映会のラインアップに、当時俺の所属していた映研はこの映画を潜りこませたのだ。
学園祭に日活ロマンポルノですか。成人映画ですからね。今ならありえないでしょうね。
すると、ヤツラはすぐにやってきた。クレームと共にやってきた。
社会学部のナントカとかいう団体で、ヤツラの言い分はこうだった。
「まずポルノを上映するとはどういうことだ。女性蔑視するな!」
「そしてタイトルの“めす”とは何事だ。女性蔑視するな!」
まあ、およそ、そうなるでしょうね。“めす”はフツーにいけません。
上等じゃねえか。俺たちは結束を固め、この頑迷な真のバカどもを粉砕することを誓った。肝心の中身も観ないで文句をつけてくるとはまったく。
日活ロマンポルノはタイトルがコンプラフリーの煽り挑発何でもありでした。
しかし、実は観てなくて助かった、とも少し思った。というのも映画には、精神薄弱の青年が出てきて、娼婦であるヒロイン(芹明香)は、その弟のためにSEXしてやるのだ。ヤツラがさらにクレームをつけてくることは間違いない。
で、何回かの対論が行われた。
が、すべては平行線のままに終わった。
でしょうね。
芹明香(せりめいか)さんは日活ロマンポルノで人気抜群の女優さんのひとり。
今も時々、芹明香さんの特集上映が行われてたりします。
深作欣二監督作『仁義の墓場』(1975年)でのドヤ街の娼婦役もいいです!
この映画の神々しさなど分かるような輩ではない。ヤツラは捨て台詞を残した。
「実力行使してでも上映は阻止しますよ」
これにはちょっと俺たちもビビった。
さて、オールナイト当日だーー。
盛り上がってまいりました。
上映1時間前。とりあえず厳戒態勢を敷くしかないだろう、と会場で相談していると、突然“岡林信康”似で労務者風の男が近づいてきて声をかけられた。
ミュージシャン岡林信康さんは、かつてフォークの神様と呼ばれていたことも。
「『(秘)色情めす市場』やるんだって?」
ええ、と訝しげに答えると、
「アイツらはさ、映画の舞台になってる釜ヶ崎の実態なんか、何にもわかっちゃいねえんだよ。俺はお前らの味方だよ」
どこの誰? そう訊く間もなく、謎の“岡林信康”は目の前を去って行った。
映画が始まった。釜ヶ崎というドヤ街とひとりの娼婦の白日夢が交錯する。弟は飛べないニワトリと通天閣に登り、そこに村田英雄の歌がかかり、モノクロはカラー画面に変わる。まるで根本敬漫画をV&Rプランニングが映像化したような世界。
流れるは村田英雄さんの名曲!「王将」です。
V&Rプランニングは、過激描写もので一世風靡したアダルトビデオメーカー。
と、そのとき、爆発音が響いた!
スクリーンの中の出来事だった。自分の女(宮下順子)とヤクザを巻き込み、ガス入りダッチワイフに火をつけて男(萩原朔美)が自爆したのだ!
萩原朔美(はぎわらさくみ)さんは映像作家、すごい人です。
寺山修司主催の劇団、天井桟敷の立ち上げに参加。舞台「毛皮のマリー」の初演では美輪明宏さんと共演、のちに劇団の演出に移ります。
ちなみに「毛皮のマリー」は今も人気の演目、いろんな人たちによって公演されてますね。
萩原朔美さんが製作した実験映画の数々は海外で評価され、2020年1月現在、肩書きのひとつは多摩美術大学名誉教授。
結局、ヤツラは来なかった。
あの“岡林信康”に一喝されたのか。作品を観て考え直したのか。それともハッタリだったのか面倒臭くなったのか……真相はわからない。
ただ、そんなスリリングな夜にピッタリの映画だったのは、確かだ。
時々思います、日活ロマンポルノの煽りタイトル、どうにかならないのかなって。煽ってるからこその日活ロマンポルノ、なんですかね。
ビデオボーイ1998年6月号掲載記事を改訂!
『(秘)色情めす市場』はU-NEXTでは見放題タイトルに入っています。(2021年7月2日まで、2020年10月現在情報)
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