読む映画リバイバル『ワイルド・バレット』

全編トップスピード! 童話的、ダークな雰囲気を湛えた傑作アクション

(2009年4月7日号より)

 上半身、腹のあたりを真っ赤に血で染めた少年が、男に抱きかかえられ、オープンカーの助手席に放り込まれる。一体どうしたのか、その状況を理解するヒマも与えられぬまま、本作は、車の発進と同時にいきなりトップスピードで走り出す。

 そう、これが『ワイルド・バレット』という映画のノリ。冒頭の数分で“自己紹介”を済ましてしまうのである。つまり全編、ノンストップライドなノリ! しかもいたいけな子どもがエラく大変な目に遭う作品だと、最初から宣言しているのだ。

 ロシア人少年(『サンキュー・スモーキング』でも好演していたキャメロン・ブライト)が手にしてしまった一丁のリボルバー。それは麻薬取引現場にて、イタリアン・マフィアが警察官を殺(バラ)すのに使ったヤバい証拠品。後始末したはずだったのに、持ち逃げされた銃と少年の行方を追って、組織のチンピラ(ポール・ウォーカー)はニュージャージーの夜の街を奔走するはめになる。

 実際は、チェコのプラハで大部分が撮影されたアクションスリラーであり、まるで一夜の悪夢のような雰囲気を湛えたお伽話。少年の目の前には「童話に登場するダークな存在」さながらに、ポン引き、娼婦、ホームレスらが現れ、とりわけ小児ポルノマニア=変態夫婦のシーンは秀逸。エンドロールを飾るアニメの効果も大きく、本作をうまくダークファンタジーに着地させている。

 西部劇スターのジョン・ウェインがまさかの敗北を喫す異色作、『11人のカウボーイ』(’71年)をネタにした会話が盛り込まれたり、また、いろいろ作劇にも凝ったりと、あのクエンティン・タランティーノが絶賛したのも納得。が、単なる映画バカによるパッチワークではなく、「次は一体、どうなるんだ!?」とワクワクさせる職人的な作法が魅力だ。

 監督はインディーズ出身、ハリソン・フォード主演で自作短編の長編リメイク『クロッシング・オーバー』を完成させた新鋭ウェイン・クラマー。南アフリカ生まれで’00年にアメリカの市民権を得た苦労人。これから大化けしていく、予感あり!

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一丁の拳銃をめぐって、裏街道の人間たちが蠢き、陰謀と裏切りが『24』ばりに交錯してゆく。原題は『RUNNING SCARED』だが、『ワイルド・スピード』シリーズの主演ポール・ウォーカーならではの邦題が付けられた。監督のウェイン・クラマーは、エンドロールで「故サム・ペキンパー、ブライアン・デ・パルマ、ウォルター・ヒル」の3名匠に謝辞を贈っている。

[週刊SPA!掲載]
●監督:ウェイン・クラマー●出演:ポール・ウォーカー、他●2006年●アメリカ、ドイツ